2017
04.09

怪談:17.4.9『姉弟掛け合い怪談-その12』


「へぇーんな話…。」
「だね。」
「面白いんだけどー、でも変。みたいな。」
「そうそう。そんな感じ。ハハハ。」
「2つ目の風に吹かれて飛んでっちゃったおじさんの話なんて、
 そう、子供の頃って、オバケとか超能力とか、それこそTVのヒーローとかも、
 全部ウソだった、子供ながらにわかってるのにさ。
 でも、心のどこかでは、ちょっとだけ信じてるっていうかさ、
 ピンチの時に心の底から願ったら出来るって思ってるみたいなとこ、あるのよね。
 だから、あぁなんかわかるーって思った。
 ていうかさ。それ、ホントに知り合いから聞いた話なの?
 2つ目もそうだけど、1つ目の話なんて、すっごくアンタっぽいんだけど…。」
「そ、そんなわけないだろ。
 だって、ウチの近くにそんな道ないじゃねーか。」
「近くになくたって、片側が田んぼに面した真っ直ぐな道なんて、
 ちょっと行けば、普通にあるじゃない。
 ていうか、そんなこと言ったら、
 アンタって子供の頃、ソファーで寝っ転がってるの、大好きだったじゃない。
 チョコレートも大好きだったし…。」
「えぇぇー。そうかなぁ…。」
「お母さんに、ご飯だからP太呼んできて言われてさ。
 呼びに行くと、アンタ、暖かい季節は大体ソファーで寝てるのよ。
 子供のくせにTV見ないで寝てばっかりって、変わってるなーって、いつも思ってた。」
「な、なんだよー。人をなんだか年寄りみたいにー。」
「幼稚園の入園式で、先生に好きな食べ物を聞かれて。
 他の子供は、カレーだ、唐揚げだ、ハンバーグだって言ってるのにさ。
 一人、シシャモ!って。しかも、人一倍元気に答えたって聞いた時は、
 わたし、子供ながらにそれは恥ずかしいなーって思ったわよ。
 ていうかさ。そうっ!あれ――。」
「ストップ!もぉいいから。それは言わなくていいから――。」
「幼稚園入って、最初の身体測定でさ。」
「ワーっ!ワーっ!」
「家帰ってきたら、女の子のパンツ履いてたって、それこそ怪談じゃない?
 だってさ。いくら幼稚園だからって、身体測定でパンツ脱がないよねー。
 ねぇ。いったい何がどうなったら、他の女の子のパンツ履けるのよ?」
「知るかよ!」
「今だったら、絶対大問題になってるよね。
 変態幼稚園児とかなんとか…。ブブッ。ケラケラケラ。
 あ、でも、変態の方も幼稚園児なんだもん。
 同年代なんだから、そんなに変態でもないのか!?うん?」
「どーでもいいよっ、そんなこと!」
「その話聞くたび、いつも思うだけどさ。
 アンタが履いてきちゃったパンツの主ってどうしたんだろ?
 やっぱり、アンタのパンツ履いて帰ったってこと!?
 いやー、そんなわけ…。ていうか、それは絶対ない!ない!あるわけない!」
「くだらねーことばっか言ってないで、早く次の話しろよ!
 ねーちゃんの番だろ!」
「えー、面白いのにぃー。
 あ、そう。ていうかさ、この話、B美さんは知ってるの?ねっ!
 知らないんだったら、今度来た時、絶対教えてあげ――。」
「いいよっ、別に!だって、知ってるもん。」
「は、はぁ~?
 な、な、なんでB美さんがそんなこと知ってるのよぉ~!?
 えぇっ?つまり、話したってこと!?
 うそぉ!?え、なんでそんなこと話するのよ!?」
「知らねーよ。知るわけねーだろ!
 そんなの話の流れだよ!」
「は、話の流れって、どんな話の流れよ?
 あ…。
 もぉいい。話する…。」
 ったく…
 つまり、人に男と女がいるのは、オトナになっても子供の頃に戻ってバカをするための方便ってことなのだろう。
 はぁ……


「東京にいた頃の知り合いでさ。
 友だち…、まぁ友だちなるのかなぁー。
 ううん。学生の頃の友だちじゃなくってね。
 社会人になってから知り合った人なんだけど、
 その人、小学校の社会科見学で縄文時代の遺跡の博物館に行ってから、考古学にはまっちゃったらしくって。
 以来、休みになると一人でちょくちょくその手の博物館に行ってたらしいの。
 でね。中一の夏休み、近くの町の古墳の博物館にに行った時……。」


 その博物館には、展示館が2つあった。
 そんなわけで1号館を見終った私は、さて2号館へというところなのだが、1号館の展示物の圧倒的な量にさすがに疲れて。
 博物館というのは気力と、そして意外に体力が必要なのだ。
 疲れてしまうと、それらをちゃんと見ることが出来ない。ちゃんと見なければ、少ない小遣いをやりくりしてここまで来た意味がないというものだ。
 というわけで、その時私は1号館を出たところにあるベンチに座って休んでいた。
 もっとも、古墳時代の遺跡の博物館なんて流行らないのか。
 夏休みだというのに入館者は私だけ。アブラゼミだけがやたらジリジリ鳴いていて、それ以外は物音ひとつない。
 そんな夏のカンカン照りの昼下がりだった。

「暑いねー。」
 ふいに声をかけられて。ちょっと慌てて私がそちらを見ると、博物館や園内を整備する方なのだろう。作業着に麦藁帽子という格好のおじさんが、タオルで顔を拭きながら微笑んでいた。
 たぶん、今日のあまりの暑さにひと休みがてら、ちょっとおしゃべりでも…、みたいな感じだったのだろう。
 というか、あまりにも客がいないのでヒマだったというのもあったのか。
 とはいえ、そういう私だって夏休み中の中学生だ。別に急ぐわけでもなし、しばらく、そのおじさんの話に付き合うことにした。

 結構長々と話をしていたのだが、その間もお客の姿は全くなく。
 聞こえるものといえば、例のアブラゼミの鳴き声だけ…。
 と思ったら、こうして座ってゆっくり話をしていると、それ以外にも動いているものの音がすることに気がついた。
 それは、バッタの跳ぶキチキチという音、蜂の羽音等々。
 とはいえ、この真夏のカンカン照りの中だ。そんな暑さの中では、さすがにそんな昆虫たちの気配以外、何もなかった。
 風は、そよともなびかないし。まわりの濃い緑の上には見事な入道雲が立ち上がっていて、まさに盛夏だった。

「まぁ、なんといってもさ、ここは古墳。つまり昔の人のお墓なわけ。
 だから、結構気味が悪い時もあるんだよね…。」
「へー。そんなもんですかねー。」
 古い墓って言うと、ちょっと薄気味悪いが。同じ古い墓でも、古墳というとあまりそんな感じはしない。
 ましてや、私、当時は考古学マニアなわけだ。

「1号館はさ、埴輪や土器ばかりだし。
 建物も新しいから、全体に明るい感じだったろ?
 だから、別にどうってことないんだけどさ…。」
 お客がいなくて人恋しかったのか何なのか、おじさんはやけに饒舌だった。
「2号館の方は、人骨とかも展示してるんだよね。
 だからなのかなぁ?時々、不思議なこともあってねぇ…。」
 お爺さんはそう言いつつ、視線をすーっと向こうに。
 つられてそちらを見ると、そこにあるのは2号館。
 ついさっきまではそんなこと考えもしなかったのに、今は心なしかちょっと陰気な感じに見えてくる不思議だ。
「2号館の脇に木が茂った小山があるだろ?
 実は、あそこも古墳の墳丘でさー。
 もっとも、ここはもぉそこらじゅう、古墳だらけなんだけどね…。」

 見れば、こちらから見て2号館の右側6、7mくらいのところに広葉樹が密生した小山があった。
 ただ、その小山。この博物館の公園内が手入れの行き届いた芝生等いかにも公園然としているのとは対照的に、木々がザワザワザワザワーって生い茂っていて。
 なんだろう?そう、緑の密度と量がちょっと異常なくらいなのだ。
 ただ、よく見ると、広葉樹の茂り方はそれはそれでスゴイのだが。それよりも、そこをスゴク見せているのが藤の蔓だとわかってきた。
 生えている木の幹や枝にのたうつように巻きついている、太くごつごつした木の幹のような蔓。さらに、その周りでは無数の緑の蔓がまるで宙に纏わりつくようにゆらゆら揺れている。
 それは、変に馴染めない風景だった。凄愴な感じがするといったらいいのか…。

「スゴイ藪ですね。なんだか、ジャングルみたい。」
 そう言った私の方を振り返って、おじいさんが言った。
「本当は、少し切ればいいんだろうけどねー。
 でも、なんかね。なんか…。」
「えっ?なんかって!?」
 今さら気がついたのだが、このおじいさん、さっきから何だか妙にひっかかる話し方をする。

「何年か前のことだったんだけどね。
 やっぱり、こんな感じの暑い日でさ。
 そこんとこでさ、草むしりしてたんだよね…。」
 おじさんはそう言って、今いるベンチの傍の花壇を指差した。
「やっぱり、こんな風にお客のいない日でさ。
 こんな風にこっち向いて、草むしりしてたのさ…。」
 おじいさんはそう言いつつ、体をちょっと捻ってみせた。それは、2号館に背を向けた格好になっていた。
「なにせ、あの日は暑くってさ。
 そう。今日よりも暑かったかもしれないなぁ…。」

 その視線につられるように空を見上げると、その途端、太陽のあまりの眩しさに一瞬何も見えない。
 やっと見えるようになっても、おじさんの顔もまわりの景色もしばらく青のモノトーン。
 そんな私のことを見つつ、おじさんは話を止めた。
 それは、あいかわらずのアブラゼミの大合唱。
 その、耳がウワーンとなってくる鳴き声は、逆にあたりの深閑さを際立たせ、辺りに私とこのおじさん以外人っ子一人いないことを感じさせる。

「こう、あっちに背を向けてさ。
 せっせせっせと草むしりをしてたのさ。
 なにせ、草ってやつはさ。
 こう陽気がいいと、むしっても、むしっても、すぅぐ生えてくるんだから…。」
 今度はそこにしゃがんでしまった、そのおじさん。2号館に背を向けたまま、しきりと草をむしる動作をしてみせる。
「疲れてきてさ。
 ここが終わったら、休もうかなぁって思った時だったんだよなー。
 なんだかさ。人の騒めきのような、そんな感じがあってさ。
 あぁ、やっとお客が来たんだなーって思ったんだよ…。」
 おじさんはそう言って、しゃがんでいて腰を伸ばすように私の方を見てきた。
「お客が来たんなら道を空けなきゃって思ったんだけど。
 でも、たまたまキリが悪くってさー。
 ついつい草むしりを続けてたわけよ。
 お客が来たら、どけばいいやって思って。
 ほら、ここって細かい砂利が敷いてあるだろ?
 だから、人が来れば音がするからすぐわかるからさ…。」
 そう言ったおじさんは、踵で砂利を蹴ってザッザッザと音をたてる。

「草むしりを続けてたんだけどさ。
 でも、お客なんていつまでたっても来なくってさ。
 あれ、先に2号館に行ったのかな?なんて思ったわけさ…。」
 また、そこで話を止めたおじさんは一瞬ピクッと。やにわに何かを確認するかのように向こうを振りかえり、そしてまた私に視線を戻してきた。
「でね、その時だったんだ。
 なんだか、急にさ。背筋がゾクゾクゾクゾクーっときてさ。
 えっ!って思ったんだよ。
 えっ!なんだっ?って感じさ。もぉ…。」
 おじさん、今度は私に背中を向けて。その右手を自分の背中にまわして、背筋に沿ってその手を小刻みにゆらしつつ、すーっと下ろしてみせた。
「こうね。なんかスーっって。
 背中を冷たいものが落ちていく感じっていうのかなー。
 でもさ、その後すぐだよ。
 今度は、右耳の下あたりにさ、シューって。
 何かが前に通って行くような、そんな触感があってさ。
 うん、うん。視線、視線…。視線なんだよ。
 視線が、シューっと耳の下から頬を撫でていく感じっていうの?
 まぁさ、そんな感じがしたわけさ…。」
 おじさんは、私の目をガッチリ見つつ。自分の右耳の下から頬にかけて、指先をゆっくりスーっと移動させる。
「……。」
「何かが俺のこと見てる!って思ったのと、後ろを振り向いたのは同時だったと思うよ。
 さっと振り向いたんだ。
 そしたら、その視線とぶつかったのさ。
 そこ、そこだよ。2号館の入口があるだろ?
 そこんとこから、つーって横に行ってさ。
 あの木がいっぱい生えてる古墳と、ちょうど真ん中ぐらいのとこ…。
 あの辺り、あの辺り…。」
 おじさんは、身を乗り出すようにしてその場所を指し示した。
 そこは、ここから10mくらいのところ。今は、ギラギラした夏の太陽の下、青々とした芝生がツヤツヤ光っている……

「そこにさ。白い服を着た何かが、ぼぉーっと立っててさ。
 俺のことを見てるんだよ。
 あぁいや、睨んでるとかそういうんじゃなくってさ。
 なんかこう、ただ見てるって感じ…。」
「えっ、それって、ゆ、幽霊だったんですか!?」
 いくらこの真昼の太陽の下とはいえ、今いる場所のすぐ傍で出たなんて聞くとやっぱり怖くなる。
 ましてや、それは今日と同じような陽気の日のことだったというのだから。
 ところが、そのおじさん。私の「幽霊だったんですか?」には、まったく答えようともしない。

「体は、こう、あっちの古墳に向けててさ。顔だけ、こっち向いてるの。
 で、こう俺のこと、ぼんや~り見てるって感じだったんだけどさ。
 でも、それが今度は、足元からすーっと、ゆ~っくり霞んでってさ。
 足、腰、腹、胸って、だんだん霞んできたなぁと思っていたら、
 だんだん見えなくなっていってさ…。
 でも、そんな状態でも顔だけはオレのこと見ててね。
 うん、そう。ぼんやり、ただ見てるって感じの視線でさ。
 そのうち、顔も消えちゃって、何も見えなくなっちゃたんだけどさ。
 なのに、視線だけは残っているような感じだったんだよなぁ…。」
「えっ?えっ?えっ?
 それって、やっぱり幽霊…!?」
 その問いにも、さらっと無視を決め込むおじさん。
「でね。それが消えてから、気がついたんだよ。
 オレのことを見ていた、ソレの格好っていうのがさ。
 展示してある埴輪と同じだったってことにさ。
 頭がさ。両脇の髪の毛を、こう結った“みずら”だったことにさ…。」



                    ―― 『姉弟掛け合い怪談:その12』〈つづく〉

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コメント
怖い、この話怖いです!
ただ晴れた日に博物館で話しているだけなのに怖い(^-^;
みずらだったというのは出来すぎている感もありますが、やはり視線とか感覚系に訴えてくるのは怖いですね。

……と言いつつ自分、すごく鈍いので視線を感じたことがあまりないかも? なのですが。気配はまあ、分かるのですが視線は分からないというか。

博物館は体力勝負、分かります。ゆっくり博物館とか美術館、見に行きたいですがなかなか行けないですね。
椿dot 2017.04.10 01:31 | 編集
椿さん、コメントありがとうございました

> ただ晴れた日に博物館で話しているだけなのに怖い(^-^;

おー!なんだか、最上級でホメられてる感じがしちゃって。
ホントありがとうございます。

> みずらだったというのは出来すぎている感

そう言われてみれば、そうかも(笑)
ま、毎日それを見てるんで、どうしても頭の中でそれにつなげちゃうっていうのはあるんでしょうね。

> 感覚系に訴えてくる

文章の怪談は、それさえ出来ちゃえば大成功な気がします。
ただ、そこが一番難しいトコって気がします。


> すごく鈍いので視線を感じたことがあまりないかも?

まー、そう言わず。私なんて、気配すら感じたことない!です(笑)

> ゆっくり博物館とか美術館

ちゃんと見ようと思ったら、丸一日ですからねー。
時間的にも体力的にもキツいですよね。
あと、とっかかりでソレに入り込めるかっていうのもあるかな?
子供の頃と違って、今は入り込むのが難しかったりする気がします(泣)
百物語ガールdot 2017.04.15 19:16 | 編集
> 文章の怪談
なるほど。勉強になります。
そういえば、前にチラッとお話しした「リング」で子供が壁のお面に泣き出すって話もそんな感じの怖さでした。

> 入り込めるか
やっぱり興味のあるテーマじゃないと難しいですよね(^-^;
そして興味のあるテーマだと何時間あっても足りないという問題。
体力も、ホント使いますよね。
椿dot 2017.04.16 19:44 | 編集
椿さん、コメントありがとうございました

> 「リング」で子供が壁のお面に泣き出すって話もそんな感じの怖さでした。

直接的に怖がらせてもいいのは、いいとこ、語りの怪談まで!だと思うんです。
文章になったら、オバケの容姿や呪いや祟り等直接的に怖がらすのは下の下、かなぁ~(笑)
って思いたいんですよね。

> やっぱり興味のあるテーマじゃないと難しいですよね

そうそう。
博物館というのは、時間の問題、体力の問題、さらに、そもそもその世界に入り込めるか?って点で、子供のものなんだろうなーって気がします。
百物語ガールdot 2017.04.22 00:33 | 編集
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