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2016
03.27

怪談16.3.27②

Category: 怪談話-番外

 法事や葬式みたいな親戚が集まる時というのは、ご先祖さんにまつわる面白い話が聞ける時でもあります。
 狙い目は、酔っぱらっちゃって顔を真っ赤っかにしている叔父さんあたり。
 いったん話を向けようものなら、もぉ止まらない、止まらない。
 歴史上のあの人物とご先祖さんがつながっていたり、講談に出てくる豪傑みたいな人が登場してみたり。
 いやもぉそれは講談さながら、スんゴイ話がポンポン飛び出してくるものです(笑)

 もちろんそれらは、親戚が集まった酒の席で代々語り継がれてきた、原型を留めないくらい眉唾ベッタリの「お話」なんですね。
 ま、それはそれで楽しみではあるんですけど、でも…
 「ねぇ、その話。いつだったか聞いた時よりオーバーになってな~い?」なんて(爆)

 とはいえ。
 そんな真っ赤っかな顔の叔父さんが話す横から、「そういえば…」なんて出てくる話には、思わぬ拾い物があったりするものです。
 そこには、当然怪談めいた話もあるわけで……



 A子さんの旦那さんの実家から訃報がきたのは、秋ももう押し詰まった頃だった。
 亡くなったのは、旦那さんの従妹にあたるZ子さんという人。
 受話器を置いた旦那さんから、それを聞いたA子さん。
「えぇっ。あの人って、わたしと同じくらいよ。」
「うん。自殺…。自殺だってよ。」
「えぇーっ!」
 旦那さんの実家には遠かったせいもあって、年に一回行くか行かないかという程度だった。
 当然、亡くなったそのZ子さんと頻繁に顔を合わせていたわけではなかった。
 ただ、A子さん。Z子さんは齢が近かったこともあって、向こうに行った時は話をしたりしていた。


 旦那さんのB男さんの実家は、東北の北の方にある山村だった。
 季節は晩秋。
 さいわい雪の多い地方ではなかったが、それでもかなり寒いんだろうなとA子さんは覚悟して出かけたらしい。
 しかし、東京で生まれ育ったA子さんにとって、その寒さは想像以上だった。
 ただ、それは、駅に迎えに来てくれた旦那さんの従兄弟のC雄さんから、その自殺の経緯を聞いたことも大きかったのかもしれない。

「の、農薬っ!農薬を飲んだのか。」
「農薬って、ほら――。」
「知ってる。とんでもないくらい苦しいんだってな。」
「いや、苦しいも何も…。
 農薬って、死ぬまで何日も意識がハッキリしてるらしいんだ。
 Z子も5日間、もう苦しんで苦しんで…。
 苦しみぬいて、やっと死んだらしい。」
「そんな…。あのZ子さんが…。」
「しかし何で?Z子は何で…。」
「うん…。」

 Z子さんの家は、旦那さんの実家から畑の中の砂利道を10分ほど行ったところにあった。
 季節柄なのか、鈍色の下、鳥の1羽すら飛んでいない寒々しい風景。
 そんな色が無くなったような光景の中。小さな林を曲がった所で、ふいに。
 お葬式の装いを纏った家の前に灯る提灯を見た時は、A子さん、思わず肌が粟立つものがあったと言う。
 後になって思えば、それは何かを察知していたのか…


 B男さんの実家の屋敷ほどではないにせよ、Z子さんの家も農家だったからそれなりに大きかった。
 B男さんの後から入ったそこは、裸電球一つのぼわんと暗い土間。
 障子がさーっと開いた座敷からこっちを向いた、知っている顔、知らない顔。
 挨拶するB男さんの後を、頭を下げながらそっちに行くと、それらの人越しに襖を取っ払った座敷が見えてきた。
 親戚たちがいる座敷の向こうに、襖を取っ払って続いている座敷。
 さらにその向こうに見える座敷の一番奥。
 顔に真っ白い布をかけられ横たわっていた、Z子さんの姿…

「この度はなんと…。」
「A子さんも、遠いとこよく来てくれたねぇー。」
「ずいぶん早かったなぁ、B男。えぇ、東京からだろ?」
「うん、朝一番の新幹線に乗った。
 C雄さんが新幹線の駅まで迎えに来てくれたから早く来れた。」
「そうかぁー。」
「さ、B男もA子さんも上がって。
 Z子にお線香あげてくれよぉ…。」

 そう言ってZ子さんのお父さんとお兄さんが、A子さん夫妻を奥まで導いてくれる。
 根太が傷んでいるのだろう。所々足が沈む座敷を静々と歩いていくと、Z子さんが眠っている所にたどり着いた。
「……。」
「……。」
そ れは普通に布団の中にいるのに、でも石のように絶対動かない。
 B男さんもA子さんも、もう何も言えなかった。
 ただただ、線香をあげて祈るだけ。
 今の今まで普通に話していたZ子さんのお父さんとお兄さんも、顔を伏せ、肩を震わせている。

「はぁー…。」
 大きくため息をついたB男さん。
 さらに思い切るように一つうなずいて、Z子さんのお父さんとお兄さんに向き直った。
「何で…。いったい何で…。」
「うん。」
 肩を震わせたまま、そう言いよどむ二人。
 二人のその様子を見て、A子さんは慌ててB男さんの袖を引く。
「ねぇ。今はそういう…。」
「あ、そう…、うん。」
「……。」
「すみませんでした、叔父さん。
 でも、俺、Z子とは子供の頃よく一緒に遊んでたもんだから…」
「あぁぁ…。そうだったっけなぁ…。」
「すみません。顔、見させてもらっても…。」
「っ!」
 うつむき加減に話していた二人の顔がさっと。
 上がったその顔にさっと浮かんだ、狼狽するような表情。
 でも、それはすぐに元の悲しげな顔になって。
 Z子さんのお父さんは、観念でもしたかのように口を開いた。

「話は聞いてるんだよなぁ?」
「ええ。ある程度は…。」
 そう言ったB男さんの目を、一瞬ぐいと覗きこんだZ子さんのお父さんの目。
「情けない話なんだけどなぁ。
 Z子はなぁ、おっかねぇ顔になっちまったんだよぉー。」
「え…。」
「うん。そうだったなぁ、B男。
 B男は子供の頃、Z子とよく遊んでたっけ。
 そうだよぉB男。お前からも、Z子にお別れの言葉を言ってやってくれよぉ。」
 そう言うなり、顔を向こうに嗚咽を漏らしているZ子さんのお父さんの背中。そんなお父さんの肩を抱くようなお兄さんの背中も、やっぱり震えていた。

「あなた…。」
「うん。俺、Z子とはさ、子供の頃よく一緒に遊んだんだ…。」
 そう言って、顔にかかる白い布をそっと上げたB男さん。
「うっ!」
 白い布の下にあったその顔は、Z子さんと仲が良かったB男さんでさえ声を上げるのを抑えられなかった。
 そんな旦那さん、たちまちA子さんの方に向き直って。
 まるで「オマエは見ない方がいい」とでも言うように、A子さんの両肩を掴んだのだが。
「っ!」
 それは、一瞬。それも、正面からではなかった。
 でも、「おっかねぇ顔になっちまったんだよぉ」というそれを、A子さんもはっきり見た。

 逆に声も出なかった。
 息を呑んだっきり、しばらくそのまんま。
 頭の中にその映像が張り付いたみたいに、別のものが一切思い浮かべられない。
 まさにそれは、Z子さんのお父さんが「おっかねぇ顔になっちまったんだよぉ」と言ったそのもの。


 お通夜も終わって。
 いや。お通夜というと、普通は意外と賑やかなものなのだが。
 でも、仏がまだ若くて、しかも死に方が死に方だけに、誰もが言葉少な目だった。
 それは、「おっかねぇ顔になっちまったんだよぉ」というそのことを、誰もが知っていたというのもあったのだろう。
 お通夜が終わった今、線香を絶やすまいと奥に行っても、誰もがすぐに足早に戻ってくるのをみてもそれは知れた。
 A子さん自身、申し訳ないとは思いつつ。でも、怖くて怖くて居ても立っても居られない。
 出来るなら、一刻も早くこの家から出ていきたい。
 そう。Z子さんは、そのくらい恐ろしい顔で眠っていた。

 そんな中…
「葬式に来る人に出す食事を作ったり。
 明日からは色々やってもらわなきゃならないんだからよぉ。
 今日のところは、女たちは子供を連れて家に戻ったらどうだぁ。」
 そう言ったのは、B男さんのお父さん。それは一族の長の言葉だけに、そこにいた誰もが「そうだな」とうなずくことになった。
 いや。というよりは、今夜一晩でも子供をここにおいといたらいけないと、誰もが感じていたのかもしれない。

 A子さんも、旦那さんの実家に戻ることとなった。
 内心ホッとする気持ちを抑えつつ。じゃぁと、Z子さんのところに線香をあげにいくと。
 来た時はただただ悲しいだけだった、布団で眠っているZ子さんの姿なのに。今は、自ら顔の白い布をとって起きあがってきそうで、気味が悪くて堪らない。
「Z子はなぁ、おっかねぇ顔になっちまったんだよぉー」
 蘇ってきた空耳に、体がぴくんとはねた。
「大丈夫?A子さん。
 朝早くからこっち来たもんだから疲れてるんじゃない?」
 見れば、それはC雄さんの奥さんのD子さん。
 その後ろ。D子さんの体に隠れるようにしてこっちを見ている、その子供たち。
 その怯えきった目でこっちを見ているのを見ればわかる。
 まさか直接は見てないのだろうが、それでも大人たちが話していることを聞いて何となくはわかっているのだろう。
 「おっかねぇ顔になっちまったんだよぉ」という、それを…


 家を出ると、そこは真っ暗。
 山村は、もうすっかり真冬の夜気に包まれていた。
 それは、まるで夜気が足を伝って体の中に入ってくるような…。
 A子さんは、それでも今いた場所よりまだいいと思った。
 それは、子供たちも同じなのだろう。
 中にいた時は、どの子もひとっ言も話さなかったのに。でも今は、子供同士ボソボソ何かおしゃべりをしている。
 もしかしたら、農村の夜というのは真っ暗でも意外と遠くまで見渡せるという、無意識の安心感もあったのかもしれない。

 その時その場にA子さんと一緒にいたのは、B男さんの実家の女性たちと子供たち。
 つまり、A子さんとD子さん。さらに兄弟の奥さんが三人と子供たち。
 子供たちの中には、Z子さんの家の子供もいた。
 そして、もう一人。まだ結婚してなかった、B男さんの兄弟の末っ子E子さんもいた。

 そんなE子さんが「あっ」と声を上げたのは、歩き出したから5分も経ってない頃だった。
「もうっ。驚くじゃない。急にそんな声あげて。」
 D子さんがちょっと怒ったような口調で言うと。
「あ、ごめん…。」
 そんな、みんなの視線に気がついたのだろう。E子さんは、子供たちを含めみんなに照れ笑いをしながら謝った。
「わたし、忘れ物しちゃった。
 ちょっと待っててくれない。さっと取ってきちゃうから。」
「そんな忘れ物なんて、明日でいいじゃない。
 どうせ明日も朝早くから行かなきゃならないんだから。」
 なにもまたあそこにもどることもないじゃないと、そこにいる誰もがE子さんを見ている。
「あ、そうか…。
 でも…、うん。さっと行って、さっと戻ってくるから。
 置き忘れた場所もわかってるし、すぐよ。
 ね?ちょっと待って!」
 そう言うなり、E子さんはさっと身をひるがえすように。
 みんなの返事を待つことなく、もと来た道を走って行く。

 桑畑の影に消えてしまったその後姿。
「ふふっ。E子ちゃん、さっすが若い…」と、A子さんが笑うと。
「もぉ…、ねぇ」と、D子さん。
 他のみんなも思わずクスっとしたその時だった。
「きゃーっ!」
 それはE子さんが今駆けて行った、まさに桑畑の向こう。
「っ!」
 この冬の夜に氷水でも背中に浴びせられたような感触に、そこにいた誰もが声にならない悲鳴をあげる。
「……。」
「……。」
 言葉が出ないまま、誰もが誰もの顔を見合わせた直後。
 目を見開いた顔のまま、D子さんが言った。
「A子さんは私と来て。あとは子供たちをお願い!」
 言うより早く、D子さんの手が伸びてきてA子さんの手をぎゅっと。
 「っ!」と、A子さんは再び声にならない悲鳴。
 気がついた時はD子さんと走り出していたのは、手を引っ張られたから体が動いたののか。それとも、「A子さんは私と来て」という声に体が反応したのか。

 D子さんに手を掴まれたまま走るA子さん。
 その手は、ぐっしょりと汗に濡れている。
 そう。D子さんだって、怖くて堪らないのだろう。

 そんな二人の目に飛び込んできた、道の真ん中で倒れている人の姿。
「E子ちゃんっ!」
 パッと離れたD子さんの手。それを追いかけるA子さん。
「どうしたの、E子ちゃん。大丈夫。」
「E子ちゃーん!E子ちゃーん!」
 E子さんを抱え上げた二人は、体を揺らしたり、頬を叩いたり。
 そんなE子さんが、「う、うーん」と唸る。
「E子ちゃんっ!」
「大丈夫?E子ちゃん。」
 二人の声にぼんやり開いたE子さんの目。
 でも、その途端「きゃーっ!」っと悲鳴。さらに、二人から逃げ出そうとするかのように、体を激しく揺する。
「E、E子ちゃん!わたし、わたしよ!」
「大丈夫だからE子ちゃん。ね、大丈夫。落ち着いて」
「きゃーっ!きゃーっ!」
 なおも狂ったように叫び、激しくもがくすE子さん。
「どうしたの、わたし、わたしよ。大丈夫、もう大丈夫」
「E子ちゃん!E子ちゃん!」
 二人だと、やっとわかったのか。
 ワーっと叫んだE子さん。そん途端、二人にぐっとかかってきたその重み。
し かし、「何があったの?」と聞いても。E子さんは、D子さんの胸に顔をうずめ、泣きじゃくるばかり。

「お姉さ…。ちょっと、お姉さん」
 それは、ちょっと離れた所から不安そうにこちらを見ていた、子供と待っていたはずの一人。
 聞こえてきた泣きじゃくるE子さんの声に、さすがに不安になったのだろう。
 D子さんは、そんな彼女に「子供たちの所で待つように」と。
 さらに、A子さんには「D子さんの家に行って、クルマを出してもらうよう頼んできて」と素早く言った。


 そんな不穏な夜も、やっと明けた。
 まだ雲も多かったが、今日は東の空に陽射しが見えた。
 雨戸を開けて。家の中に陽の光が入ってくると、やっと人心地がつく思い。
 そういえば、E子さん。
 あの後は家に戻っても、泣き叫んでいたかと思えばすすり泣き。すすり泣いていたかと思えば、今度は悲鳴をあげて泣き叫ぶ。
 何があったのか聞いても泣いて首を振るばかりで、何一つわからない。
 そんなE子さんも、さすがに泣きつかれたのか。今は、なんとか布団で眠っていた。

 その日は、Z子さんの葬儀の日だった。
 本当なら、誰もがすぐにでもZ子さんの家に行って、いろいろ手伝いをしなきゃならない。
 なのに、そこにいる全員、誰一人腰が上げられないでいた。
 もちろん、昨夜のその騒ぎということもあった。
 ただ、それ以上に、纏わりつくようにずっとある恐怖の感情がA子さんたちを動けなくさせていた。
 でも、それはA子さんたちだけではなかったのだ。
 そう、考えてみれば。
 葬儀の日の朝だというのに、Z子さんの家から「早く手伝いに来い」と言ってこないことに、その異常さが現れていた。


 A子さん、実はその後の経緯は、ハッキリ順序立てて憶えているわけではないと言う。
 ただ、その異常な出来事を最初に聞かされたのは、葬儀の日だというのに戻ってきたC雄さんとB男さんからだった。

 そのC雄さん。
 昨夜、クルマでA子さんたち全員を送って、Z子さんの家に戻る時。
 家の前を歩いていたZ子さんと、バッタリ鉢合わせしてしまったのだと。
 そのあまりの恐ろしさに。Z子さんの家の庭に粟食ってクルマを突っ込むように停めれば、もう一台のクルマから飛び出してきた弟も血相変えている。
 逃げ込むようにZ子さんの家に入った二人を待っていたのは、みんなの引きつった顔。
 さらに…
「お前らも見たのか」という言葉だった。

 その後。
 C雄さんたちは、D子さんたちにそのことを知らせるべきかずいぶん迷ったらしい。
 でも、あえて何も知らせない方がよいのではないかと。
 その夜は、それでなくとも誰もが理由のわからない恐怖を感じていた。
 それも、異常なくらいの。
 そんな夜にそんなことを聞かされたら、恐怖に囚われて何をしでかすかわかったもんじゃない。
 なら、まずは朝を待とうということになったらしい。


 C雄さんとB男さんがそのことを話す部屋には、A子さんとD子さんがいた。
 そして、もう一人。その部屋の隅では、E子さんが眠っていた。
 C雄さんもB男さんも、やっと眠ったというE子さんを気遣って、小さな声で話していたのだが…

 C雄さんが話すその異常な出来事を、半ば茫然と聞いているA子さんとD子さん。
 そんな二人の耳に入ってきた、微かな声。
 秋も終わりとはいえ、窓からは意外に強い日差しがそそいでいるというのに。途端に怖気立った背中。
「え…」
 まさか、そんな…と、辺りを無意識に見回していた四人の目が合った時だった。
 わーっと。
 叫ぶように泣き出したE子さんの声に、4人は飛び上がった。
 そして、しゃくり上げながらE子さんが語ったこと…

 それは、やはりそうだった。
 そう、あの時。
 E子さんが忘れ物を取りに戻った時…

「うん。さっと行って、さっと戻ってくるから。
 置き忘れた場所もわかってるし、すぐよ。
 ね?ちょっと待ってね!」
 D子さん何か言う前にと、駆けだしたE子さん。
 そんなE子さんの目に映るのは、今は葉のない桑が広がる畑。
 その剪定されごつごつした幹が、夜より黒くカラカラと連なる様。
「わっ」
 つまづきかけたE子さん。駆けるのを止めて歩こうと、ふと見た道の向こう。
「…!?」
 真っ暗な空の下、黒々と見えてきたZ子さんの家。
 やっぱり黒く沈んでいる生垣の横を、向こうに歩いて行く人の姿…
「あれ?え、誰…」
 E子さんの口が、ぽつりとつぶやいた時。
 すぅっと振り返った、人の姿。
 それはその家…、そのZ子さんの家の人。
 小さい頃からよく知ってる……
「えっ。Z子さ――。」
 そのことに気がついたのが早かったのか、それともその振り向いた顔に目がいったの早かったのか。
「きゃーっ!」
 それは、奥の座敷に眠っていたZ子さんにかかる白い布をとったあの顔。
 そして、ソレは一瞬E子さんの方にどーんと寄ってきて。
 でも、急に踵を返すように。暗がりの向こうに駆け去っていった、その白い後姿……



 その後。
 A子さん、旦那さんの実家には10年以上足が向くことはなかったと。
 もう怖くて、怖くて、怖くて、怖くて…
 あんなに怖いことがあるものかというくらい、とにかく怖くて行けなかったんだと。

 でも。あれから何十年も経った今は、怖いというよりは、むしろ哀しい気持ちの方が強いと言う。
 それはもちろん、亡くなったZ子さんのこともそうなのだが…。
 というより子を持つ今では、あの時、Z子さんのお父さんが口にした「Z子はなぁ、おっかねぇ顔になっちまったんだよぉー」という、あの言葉。
 あの言葉が哀しくて堪らないんだと。
 自分の娘をそんな風に言わなければならないその胸の内を思うと、今でもやるせない気持ちでいっぱいになるという。



                             ―― 『山村にて』〈了〉


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  断りなく転載されるのは非常に不愉快です。やめてください
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   ちょっと剣呑で、ゴメン(^^;)


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コメント
死相か……何日も苦しんだ末に亡くなられると、そんな風になってしまうのでしょうか。
ご遺族も無念の至りでしょうね……。

この話の皆さんが見たものが何なのかは分かりませんが、怖さだけでなく哀しみが後を引くお話でした。

はっ怪談好きになるよう調教されている……?!
椿dot 2016.03.27 18:42 | 編集
椿さん、コメントありがとうございました

今週も、怪談にお付き合いいただき、まことにありがとうございます。
もしかして、100話お付き合いいただいたあかつきには、
もしかして、オバケ、出ちゃったりして?(笑)
その時は、ぜひ体験談お聞かせくださいませ(爆)

> はっ怪談好きになるよう調教されている……?!

あなたは、だんだん怪談が好きにな~る 好きにな~る 
好きにな~るぅぅぅぅ~
1、2、3!
百物語ガールdot 2016.04.02 17:21 | 編集
管理者にだけ表示を許可する
 
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