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2015
10.26

怪談15.10.26 -仮題「山伝説」中編

Category: 怪談話-番外


 怪談15.10.26 -仮題「山伝説」中編


 そんなAさんが「なんか変じゃないか?」と思うようになったのは、次の日のお昼前くらいだった。

 いや。もちろん最初は、そんなこと気がつかなかった。
 変だと思うようになったのは、Q岳より先にあるX岳を超えた先にある、やっぱり危険個所のあるPコルという場所。

 Pコルは、岩壁のヘリをへばりつくようにして進んで行く場所。
 そんなルートの上部にある岩に座っていた赤いバンダナを頭に巻いた人に気がついて、Aさんは違和感を覚えた。
 あれ?あの人って、前にもいたよな…

 それは、Q岳からX岳の間にある…、そう、やはり岩稜帯だった。
 下が切れ落ちた岩稜帯を抜けて、ホッとしてふと見上げたその先。
 やはりルートからちょっと外れた岩の上で休んでいた人…、あの人と同じ人なんじゃないだろうか?
 どこかの山岳会のユニフォームっぽい、紺の山シャツとニッカーボッカーに見覚えがある。
 なにより、そう、頭に巻いている赤いバンダナ…
 Aさん、そのことを思い出したら、その人(と似た人?を、他の場所でも見ていたことを思い出した。
 それは、同じような滑落の可能性のある岩場。
 やっぱり、ルートからちょっと外れた岩の上にいた。

 ただ、山を歩いていて、何度も同じ人に出くわすということは普通にあること。
 なぜなら、休憩を入れる場所というのは、誰も同じような場所を選ぶからだ。
 つまり、同じルートを同じようなペースで歩いていれば、抜いたり抜かれたりと前後はあるものの、1日に何度も顔を合わせるものなのだ。

 しかし、Aさんが見たその人の場合は違った。
 なぜなら、Aさんは先ほどの岩稜帯であの人が岩の上にいるのを見ながら、そこを通り過ぎたのだ。
 でも、あの人はAさんがここに来る前からそこにいた。
 道は縦走路の一本道だ。しかも岩稜帯が多かったから、追い抜かれれば絶対わかるはずだった。

 なんだろう?あの人は…
 妙な気味がわるさがこみあげてきたAさん。
 岩の上で遠くを眺めるようにたたずんでいるその人。
 ルートは、その人が座る岩の10メートルほど下を通っていた。
 幅30センチほどのルートの左側は一段ガクンと落ち込んだ後、はるか下まで一気に落ちるガレ場につながっている。
 いや。いくらなんだって、上部の岩にいるあの人が石を落としたりするなんてことはないのだろうけど…と、Aさんの目はその人から下に。
 そこは、すぐ下に一段落ちたところのガレ場が見える分昨日のZ岩稜ほど高度感はない。
 でも、滑落した場合、もしガレ場で止まらなかったら谷底まで一気に転がっていくだろう。
 ごくっ…。
 思わず立ち止まってしまったAさん。
「どうした?」
「っ!」
 驚くほど近いその声に、ビクッと振り返れば。
 それは、言いようのない怖さに張り詰めたAさんとは対照的に弛緩しきった友人の顔。
「なぁA、Pコルってこんなもんだったんだな。
 オレ、もっとスゴイのかと思ってたよ。」
「え?」
「うん、だからPコル。」
「あぁ。あぁあぁ…。」
「なんだよAぇー。オマエ、眠いのかぁ?
 いくらなんでもちゃんと目開けてないとヤバイぜ。
 ほら、早く行けよ。」
 そう言って、Aさんのザックを叩いた友人。
 それに促されたのか、意思とは関係なく歩き出すAさんの足。
 それは、あの男がたたずむ岩の下に向かって降りて行くルート。
 今や真っ直ぐ、Aさんの目と同じ高さに座っているあの男。
 その横顔は、ぼうっと遠くを見ているようにも、下のルートを行く人々を睥睨しているようにも見える。
 その下に近づいていくにしたがって、あの男の顔はAさんの目の高さより上へ、上へ。
 横顔は下から見上げるようになり、そして座るその姿へ…。
 はぁ…、はぁ…。
 つーっと汗が脇から下につたっていく。
 ふいにドキリとして上を見れば、もはや男の姿は覆いかぶさる岩の向こう。
 今、まさにAさんはあの男の真下にいた。
 はぁ…、はぁ…。
 ♪~~ ♪~~~
「え…。」
 それは、ふいにAさんの頭に流れ出した、あの「木綿のハンカチーフ」。
 汗が、またつーっと。
 その瞬間Aさんの目に飛び込んできた、夏の太陽に照らされたガレ場から一気に落ちた先にある谷底の光景。
 それは、Aさんが今いる岩陰で日の当たらない場所とは対照的に光り輝いている。
 歌のバックには、聞こえるはずのない、その谷底に流れる沢の音。
「うっ…。」

 Aさん、Pコルの後半はどんなだったかよく憶えてない。
 ただ、あの男の横顔と下から仰ぎ見た姿。そして、スポットライトに照らされたかのような谷底の光景が、「木綿のハンカチーフ」をBGMに鮮明に残っていた。



 ところで。今の時代にこの話を聞くと、その人がバンダナを頭に巻いていたという時点で、ほとんどの人は、その「木綿のハンカチーフ」の話にまつわる人ってこと?と思うのではないでしょうか。
 ただ、Aさんはその時そうは思わなかったらしいです。
 というのも、今の時代、頭にバンダナって格好の目印のように思うかもしれませんが、当時は山のファッションとして流行りだったんだんだとか。
 それこそ、その時のAさんのパーティーにも同じようにバンダナを巻いた友人がいたそうです。
 また、夏でも長袖の山シャツにニッカーボッカ―というのも、普通に見かける服装だったそうです。



「なぁ。さっき。Pコル…。」
「Pコルぅ?」
 それは、Pコルを通り過ぎて、しばらく歩いた所。
 Aさんは顔を1/3だけ振り返らせ、後ろを歩く友人に声をかける。
「さっきPコル通った時、上の岩場に座ってたヤツいたろ?」
「座ってたヤツ?えー、どの辺?」
「だから、ほら、オマエがオレに声かけてきたとこ。」
「オレがオマエに声かけたぁ?えぇっ。どこで?」
「だから、Pコルだって言ってるだろ。」
「Pコル?Pコルのどの辺?」
「なんだよ、憶えてないのかよ。だから、えーと、あそこは…。
 そう、Pコルの一番下に降りたとこ。道が岩をへつるようなってる…。」
「あぁ…。で?」
「だから、あそこ通る時、上の岩場に座ってたヤツ。」
「えー、上の岩場に座ってたヤツ?いやー、憶えてないなぁ…。
 で?ソイツがどうした?」
「だから、上の岩場に座ってたヤツだって。
 いたろ?紺の山シャツに、赤いバンダナを頭に巻いた…。
 な、おい。いたよな?」
 Aさん、今度は列の前を歩く友人に声をかける。
「知らねー。」
 Aさんの話を聞いていたのだろう。その友人の笑い声は無邪気そのもの。

「知らねーって、オマエ。いたろう?
 あ、ほら、そう、そうだ。あの場所に降りてく時、
 ちょうど目の高さにアイツいたじゃん。岩に座ってさ。」
「いっやー、気がつかなかったけどなー。」
「気がつかない?そんなわけ――。」
「なぁー、A。」
 それは後ろを歩く友人の声。
「あ、思いだしたか?」
「だからさー、ソイツがどうしたって?
 ていうかオマエ、なにムキになってんの?
 変なヤツ、ハハハっ。」
 そう言って後ろの友人が笑いだすと、前を行く友人も笑いだした。
 その呑気な笑い声に、カッとなったのか。気がつけば、怒って声をあげていたAさん。
 しかし、それにはさすがにラストを行くリーダーも黙ってられなかったのだろう。
 先頭のサブリーダーに停まるように声をあげると。パーティーの最後尾から、つかつかとAさんのところまでやって来た。

「なにやってんだ、A!それからオマエらも!」
 山ではリーダーは絶対的存在。ましてや大学の山岳部。Aさんのそのサークルも上下関係は結構厳しかった。
「すみません。でも、Aが変なコト言うもんだから。
 Pコルで誰かを見たとかなんとか…。」
「うん。それは俺も聞こえてた。
 で、A。それが何なんだ?」
「だから…。」
 リーダーに怒鳴られて、頭が冷めたのか。
 自分が何であんなにカッカしていたのかと不思議な気もしつつ、AさんはPコルで見たあの男のこと。さらに、その男のことを前も見たような気がしたことをリーダーに話し出した。

「ねぇ、リーダー。リーダーは見たでしょ?
 今、そこのPコルで…。」
 そう言って、Pコルの方を見るAさんのそれは、何だか気味悪そうな表情。
 つられて、思わずリーダーもそっちを見たのだが、もちろんリーダーも知るわけない。
 それでもリーダーは、一応パーティーの全員に聞いたのだが、もちろんみんな首を横に振るばかり。
「オマエ、何でそんなにムキになってんだ?
 なんか変だぞ。」
 その頃には先頭のサブリーダーもそこに来ていて、Aさんを叱るように言った。
 それを見ていたリーダーが口を開いた。
「なぁA…。」
「はい。」
「それって、もしかしたら山岳指導員じゃないのか?
 いや。俺は全然気がつかなかったけどな。
 でも、オマエが見たのって、Pコルをはじめ、みんな岩場の危険個所だったんだろ?
 紺の山シャツっていうのは、たぶんユニフォームだろ。
 バンダナは、まぁどうだか知らんけど、
 でもオマエだって、どいつもバンダナしてたって確信があるわけじゃないだろ?」
「は、はい…。」
 不承不承うなずくAさん。
 でも、確かに山岳指導員の可能性はあった。
 そういえば、去年白馬岳の大雪渓で見た山岳指導員も雪渓脇の岩場に座ってたし、そんな服装だったような…。

 Aさんが、そんなことをボーっと考えていると。
 パンっ!
 勢いよく肩をはたかれて慌てて振り返れば、それは怖い顔のサブリーダー。
「オマエな。山歩いてる時に他のこと考えてると転んで怪我するぞ!
 今からオマエは、オレの後ろ歩け。いいな!
 どうです?その方がいいですよね?リーダー。」
「うん。そうだな。
 Aのヤツ、ちょっとぼーっとしてるみたいだからな。」


 つまり、リーダーの言うように、Aさんがボーっとしてたってことだったのか。
 その後はそんな男の姿を見ることはなかった。
 ただ、Aさんの頭の中では、あの「木綿のハンカチーフ」のループは前にも増してひどくなっていた。
 それは、幕営地に着いてからも、テントを張る時も。
 夕食を作っている時も、無意識にそれを口ずさんでいるAさんの口元。
 それは、まるでその歌にとり憑かれてしまったかのよう。




── 本日これまで!
  怪談15.10.26 -仮題「山の怪談」中編〈了〉 /後編に続きます


注!無断転載禁止
  断りなく転載されるのは非常に不愉快です。やめてください
  ブログの記事は全て「著作物」であり、著作権法の対象です。
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     ちょっと剣呑で、ゴメン(^^;)

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