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2015
10.05

怪談話 ~15.10.5

Category: 怪談話-番外


 その週末の夜、Aさんは友だち何人かとスカイプで怪談に楽しんでいた。

 自宅の2階の表の道に面した部屋。
 Aさんは窓際で、パソコンに向かって話していた。

 梅雨時で、外は雨がずっとしょわしょわ降っていた。
 窓の向こうからやってくる、しっとりした空気が心地よく感じられる、たぶん2時を過ぎたくらい。
 ちょうどAさんが話を終えた時だった。


 ヘッドセットから聞こえてくる、Aさんの話について感想を言っている声を聞きながら、Aさんはマグカップのコーヒーをひと口。
 マグカップをパソコンの横に戻そうとして、ふと、その窓の向こうの人影に気がついた。
 いや。というよりは、視界にその人影を感じたから、窓を見たのか。

 それは、Aさんのウチから50mほどの所にあるマンションの、その転々と連なる明かりと四角いシルエットの上。
 最上階から、階段状になった3階下の部屋のベランダ。
 暗く垂れこめた夜の空をバックに、そのベランダに立っている人の姿。
 それは何だか、傘をさして踊っているような…

 一瞬、ポカーンと。吸いつけられるようにそれを見ていたAさんだったが、すぐに。
 ははーん、あの人、たぶん酔っぱらっちゃたか何かで。
 この雨の中「雨に唄えば」のジーン・ケリーの真似でもしてるっのかなぁ…と思わず笑いがこぼれた。

 でも、その笑いは止まってしまう。
 え…
 あの人、もしかしてオレに合図か何か送ってる!?
 いや、まさかそんなこと…

 それは、今Aさんが「合図を送ってるのか」と思ったことを肯いているかのように、動きが大きくなった人のシルエット。

 「えぇっ!?」
 思わずヘッドセットをはずしたAさん。
 もちろん、声が聞こえるわけはない。
 でも、その人のシルエットはAさんに「後ろ!後ろを見ろ!」と言っているような気がして。
 思わず振り返ったその途中目に入ったのは、飼っているネコが「フー」っと唸っている様。

 Aさんは、「え、何だ?どうした?」と猫に声をかけつつ。
 唸っているネコの視線をたどるように見た、そこにあったのは一本の折りたたみ傘。
 たたまれた折りたたみ傘が、しかしストラップではまとめられない状態で、床にバサッと。


 もちろん、ギョッとした。
 だって、それは普通その場所――部屋の床――にはないはずの物だし。
 また、さっき見た時――そう。トイレに行った時か?――には無かったように思うから。

 ただ、それは傘。
 しかも、そのチェック柄に見覚えがあった。
 そう。それは間違いなくAさんの奥さんの物。
 今日だって…、そうだよ。帰ってきた時に目にした記憶があるから…
「なんだ。たまたまアイツが置き忘れたってことか…」
 Aさんがその傘を取ろうとしたのは、たぶんそれを傘立てに戻してこようと思ったのだろう。
 しかし、傘を触れてそのことに気づいた。
「えっ!」
 ビッショリと濡れていたそれ。
 まるで、たった今外から帰ってきたかのように……


 もうスカイプも、向こうのマンションの傘を持った人のことも頭になかった。
 いきなり、ただならぬ不安に襲われたAさんは、駆けだすように寝室に向かう。
 突進するように明けたドア。
 壁を叩くようにいれた電燈の明かりのスイッチ。
 パッと、隅から隅まで明るくなった部屋。
「B、B美。B――。」
「きゃっ!」
 Aさんが奥さんの名前を言ったのと、跳ね起きた奥さんの驚きの悲鳴は同時だった。
「……。」
「……。」
 しばらく声の出ない2人は、お互いをただただ見つめ合っていた。
「ふぅー……。」
「な、何…。何よ?え?何なのよ…。」
 気がつけば、その場にヘナヘナと座り込んでいたAさん。
 そんなAさんが思わずこぼした安堵のため息とは対照的に、奥さん目はかっと開かれたまま。



「まったく、いい歳して夜中に怪談なんか話してるから、
 変な妄想するのよ!」
 Aさんに散々文句を言った後。最後にそう言って、トイレに行ってしまった奥さん。
 そんな奥さんがまた寝室に戻る足音を聞きながら、Aさんは先ほどの傘をかたそうと下に降りていた。
 ふぅー。
 また、ため息。
 と、同時に「あ、床っ。拭かないと」と思いだした。
 とはいえ、このびしょ濡れのまま傘をしまうのも…とAさん。
 何なのだろう?
 それにしてもその傘はぐっしょりと濡れそぼっていた。
 下にそえている片手に、時折雫が垂れてくるくらい。
 ただそれは、まだ新しい傘だから。開いて2、3回バサバサすれば水は飛んでいってしまうはずだった。

 それは、Aさんが水をはじこうと玄関の戸を半分だけ開けて、折りたたまれた傘を伸ばして開いた時だった。
 ビシャっと落ちた音に下を見れば、それは傘の袋。
 慌てて拾えば、やっぱりそれもびっしょり濡れている。
「……。」
 それをじっと。Aさんは、それをしばらく見て、またため息を一つ。
 傘の袋も2、3度降って傘をしまうと。
 足早に部屋に戻った。



 次の夜。
 奥さんと夕食を食べていて昨夜のことを思い出したAさん。
 食事の後、昨日の部屋から向かいのマンションを見てみたのだが、もちろんそのベランダに人の姿なんてなかった。
 というか、そこは、人が立っていて見えるのだろうかというくらい梅雨の夜空に黒く溶け込んでいた。




                               ―― 『傘』〈了〉


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    ちょっと剣呑で、ゴメン(^^;)



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