2014
03.22

百ポ:14話目

Category: 怪談話


 L子さんは、都内の小さな広告代理店に勤めている30代の女性。
 元々デザイナーなんだけど、営業に引っ張り出されることも多くって。

 ただまぁそれは、もしかしたらL子さんの性格によるところが多いのかもしれない。
 というのは、このL子さん、やけにサバサバした性格で。
 いや、もちろん。デザイナーだけに、そっち方面の仕事をやらせればそれなりに粘着質なんだけど。

 ただ、いったんそっち方面の仕事を離れちゃえうと…
 あとは、あっけらかーんと拘らない、そんなタイプ。
 
 その、L子さん。
 サバサバした性格ゆえなのか何なのか、結婚する前は引っ越し魔だったとかで……


 といっても。
「契約期間内に引越ししたのは、1回だけかな?
 引っ越すのはさ。
 別に、それまで住んでいた所がイヤだとか、そういうんでなくってね。
 たんに、引っ越しをして気分が変わるのが好きだったのね。」

 そんなL子さんが、20代の後半の頃に住んでいた、あるアパート。
 いや。別に曰く因縁があったとか、やけに家賃が安かったとか。
 はたまた、寝ているとよく金縛りにあったとか、常に誰かに見られているような感じがあったとか、特にそういうことがあったわけでなかった。

「仕事場まで、電車で30分弱くらいのさ。
 東京の周りなら、どこにでもあるような街でね。
 アパート自体は、新築でもなく、特に古いってわけでもなく。
 大きくもなく、小さくもなくね。
 外観もごくごく普通でね、
 ホンっト、どこにでもあるって感じのアパートだったな…。」


 それは、L子さんがそのアパートに引っ越してきて、もう何回目の週末だろ?ってくらいになったある日のこと。
 その日はL子さん、約束とか特に用があるってわけでもなく。買い物にでもブラリ出かけようかって思ってた、そんなタイミング。
 シャカキコーン!
 ドアのポストにチラシが入れられた、その音を聞いて、L子さんは思わず顔をしかめた。

「そのアパートって、ポストのチラシがやけに多かったのよ。
 ううん。チラシくらい、別にかまわないんだけどね。
 でも、そこ、ホンっト、チラシが多くってさ…。」

「ほら、チラシって。
 あんまり多いと、郵便物とか、光熱費の領収書とか、肝心なものが紛れちゃってさ。
 ポストの中に入ってたもの、一応チェック入れないと捨てられないじゃない。
 だから、その時は、気づいた時に捨てちゃおって、玄関に行って。
 ポストの蓋、開けたのね…。」


“あっれぇー!?”
 ポストの中は空っぽ。
 ポストの中を下から覗くようにしてみても、やっぱり何もない。
 外の空気が入ってくるのが、すーすーと感じられるだけ。

“変ねぇ…。
 チラシが入った音だと思ったんだけど…。”

 うん。確かに、ポストにチラシが入れられる時に聞こえる、あのシャカキコーンって音を聞いた。
 チラシが、ポストの中に押し入れられ…
 右左と、ポストの中をまさぐるように落ちてきて…
 最後に底にあたり、コンっと音をたてる。
 まるで、そんな光景が目に浮かんでくるような音。

“あれは、ポストにチラシが入れられた音のはずだけど…”
と、L子さん。
 とはいえ、そんなひとり言を言ってみても…
 ないものはない。

「まーね。
 チラシなんて、ゴミでしかないわけじゃない。
 ないなら、ない方がいいから。
 気のせいか…って、すぐに忘れちゃったの。」


 でも…
 ポストにチラシが入れれる、そのシャカキコーンって音は、その後もちょくちょくあった。

「あ、もちろんね。
 ホントに、チラシが入っていた時もあったよ。
 ていうかさ、チラシが入ってたことの方が多いんだけどね。
 でもね、音だけで何もない時も時々あったのよ…。」

 とはいえ、たかがチラシのこと。別に無くても困るわけではない。
 というか。
 L子さんは、平日は会社に行っているわけで。
 それが時々あったといっても、あくまで休日に家にいる時に気がついた範囲内のことだったのだろう。

 だから、L子さん。ポストのシャカキコーンって音がしたのに、チラシが入ってなかったとしても。別に首を傾げるくらいで、そのたんびすぐ忘れていた。


 ただ…。
「あれって、いつ頃だったっけかなぁ…。
 よく憶えてないんだけどさ。
 夜中、そのシャカキコーンって音で、目を覚ましたことがあったの…。」

 シャカキコーン!
「っ!」
 その音を感じたその瞬間、ハッキリ目が覚めてしまったL子さん。
 反射的に見た、目覚まし時計のある枕元の方。
 そのほとんど真っ暗の中。
 ぼんやり薄緑色に光っていた、3時ちょっと前を示す時計の針。

「……。」
 目覚まし時計の薄緑色から、無意識に窓の方に移ったL子さんの目。
 そのカーテンの上、かすかにこぼれていた暗い外の光。
 それは、真夜中のそんな時間。

「……。」
 何の音も聞こえない。
 そんな、テレビや壁にかけた服が黒く滲んだように見える、暗い部屋の中で。
 L子さんは、布団の中で胸から上を捻るように起こした状態のまま、しばらく目を見開いているばかり。
 
「なんだか、わからないんだけどさ。
 あの時は、もぉすんごく怖くなっちゃってね。
 そうだ。新聞配達の人が、
 お試しにって新聞を入れてったのかも…って。
 無理やり、そう思い込んでさ。
 とにかくさ、頭から布団かぶって寝ちゃったの…。」

 
 目が覚めた時には、外から鳥の声が聞こえていた。
 カーテンの上からこぼれた天井の光は、今朝はいい天気ってこと…。
 うーん…
 眠いよー。
 身も心も眠りにもどりかけた、その瞬間──。
「わっ!」
 L子さん、ヤバイ!今日は会社だっけって、思わず叫んで飛び起きた。

 
「ううん。夜中の音のことって、朝、目が覚めた時は忘れてたの。
 でも、顔洗った後さ。
 何気に、玄関のドアのポストに目がいって思い出したのよ。
 うん…
 いや…、ね。
 その玄関のドアにあるポストに目がいって、夜のことを思い出した瞬間っていうのはさ。
 いっきなり、背中からぞわーって。
 その後は、もぉっ、ホント恐々よ……。」

 恐る恐る開けたポストの蓋。
 覗き込むように見れば…。
 お試しの新聞なんて、もちろん入ってなかった…


「その日ってさ、会社…。
 なんだか、無茶苦茶忙しい日だったの。
 なんとか最終で帰ってきた…
 っていうか、電車がなくなっちゃうから、帰ることにしたって感じよね。
 ううん。仕事が片付いたわけじゃないからさ。
 次の日だって、早い時間に行かなきゃなんないわけ。
 もぉクッタクタだし、残りの仕事のことで憂鬱だしで…。
 ま、いま思えば、あの日は忙しくてよかったんだろうなって思うのよ。
 おかげで、前の夜のシャカキコーンって音のことなんか、完全に忘れちゃってたの。」



 その後も、ポストにチラシが入れられる、そのシャカキコーンって音はあった。
 ただ、それはL子さんが家にいる休日の昼間に家にいる時だけで、夜中にその音がしたのはあれっきり。
 そんなもんだからL子さん。やっぱり、そのことがあるたんび首を傾げるくらいで…。
 そのたんび、すぐに忘れてしまった。


 ま、そんなシャカキコーンなアパート(?)も、引っ越し魔のL子さんにとっては、数々のアパート遍歴(?)の一つにすぎなかったということなのか。

 それは、L子さんが、また新たなアパートに引っ越した次の日の朝。
「朝起きてさ。
 何気に、ドアのポストを見たの。
 いや、なんだかわかんないけどさ、はっとしてね。
 思わず、ポストの蓋をあけたの。
 うん…。
 中…、チラシも何もなかったんだけどね…。」

 違うアパートに引っ越した次の日。
 そんなタイミングで、なぜそんなことを思ったんだかはわからない。

 あの引っ越す前のアパートで聞いた、ポストのシャカキコーンって音。
 L子さん、その時ふいに、あれって、もしかしたらとっても変なことだったのかも…って。

「ていうかさ。
 あの音って、ホントにチラシの音だったのかな?って…。
 だってさ、ポストにチラシが入れられる時、シャカキコーンなんて音する?
 だって、チラシよ。
 ペラっペラの紙よ…
 …………。
 そりゃ、ピザ屋さんとかは、結構厚め紙使ってるけどさ。
 それだって、ガサガサガサよ。
 シャカキコーンなんて、そんな音、聞いたことないのよ…」




 ──── 本日これまで!
       第14話目 「L子さんの耳袋ぉーなお話:第一夜(笑)」〈了〉/第二夜につづく 
                                       メルマガ配信日:12.12.8
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コメント
シャカキコーン。

擬音センスww
いや、充分に背中がムズかゆい話なんですけど、シャカキコーンが気になって(笑)

誰かが言っているのがもっともらしいですけど、シャカキコーン……噛みそう。だめだ頭から離れない!!

ホラーって何所まで科学的考察や文脈からのオチでまとめるかが難しいです。
しかししかし、なるほど。こういう怪談もあるんですか。

発想が広がった気がします。
青井るいdot 2014.04.26 23:46 | 編集
> シャカキコーン。

いやはや。意表をついたところからのコメント、ありがとうございます(笑)

> いや、充分に背中がムズかゆい話なんですけど、シャカキコーンが気になって(笑)

そろそろ、暖かくなってきましたからねー。
お風呂は毎日入り…、あ、ははは。そういうことじゃないんですよね(笑)
ま、シャカキコーンは、ともかく。
そろそろトウモロコシの方のコーンが気になる季節になってきましたよねー(笑)

> シャカキコーン……噛みそう。だめだ頭から離れない!!

あー。
それは、シャカキコーンなユーレイさんに取り憑かれましたね。
今夜あたり、あんなシャカキコーンやら、こんなシャカキコーンやらされちゃって、
ウハウハしてください(笑)

> ホラーって何所まで科学的考察や文脈からのオチでまとめるかが難しいです。
> しかししかし、なるほど。こういう怪談もあるんですか。

ま、ホラーっていうか、怪談はねー。
ほら(あ、ダジャレじゃなくってね)、
(怪談として)話したもん勝ちというか、
(霊が見えるって)言ったもん勝ちみたいなとこがあるんでー(爆)

というか。
みたいなもんがあるというよりは、ソレが全てというウワサもちらほら…

それに、いざとなったら怪談は、必殺・オチをつけないって奥の手がありますから。
イチャモンつけられたって、
「本当の怪談はオチがないもんなんだ」って言えば、万事OKと(笑)

まーね。
だからこそ、怪談は難しい…って言う人もいますけどー(え?誰!?www)

> 発想が広がった気がします。

ありがとうございます。
そう言ってもらえるとうれしいです。
百物語ガールdot 2014.04.27 16:54 | 編集
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