2016
05.29

怪談16.5.29②

Category: 怪談話-番外

 都市伝説というのは、もぉ無数にあるわけですけど、でもそんな全国区の「伝説」ではない、ローカルなエリアでのみ流通している「伝説」というのも相当数あるはずですよね。
 そんなローカルエリアだけで流通している伝説だと、「都市伝説」というのはちょっとオーバーな気がします。
 なら、「町伝説」とでも言えばいいのでしょうか?
 というか、これは、もはや「町」ですら言いすぎな伝説のお話(笑)


 その町には、八の字状に開けた住宅地があった。
 小学校で、扇状地って習ったと思うが、そこはまさにそんな地形。
 東西と北側に低い丘がせまっていて。
 もちろん、現在では川はないが、大雨が降ったりするとその住宅地の真ん中辺りで水が出ることはよくあった。
 たぶん、昔はその辺りに小さな川が流れていたのだろう。

 南側に開けていたというから、住宅地としては最適だったのだろう。
 近くに駅ができた頃から、辺りは真新しい家が建ち並ぶようになった。
 新興住宅地だから、中を通る道は碁盤の目になっていた。
 ただ、元々そこは南に開けた八の字状の土地。
 北に向かう道は、必然的に八の字の頭の向かう斜めの道と交わるか、八の字の頭にある突き当たりにぶつかることになる。
 突き当りは50メートルほどのコンクリートの壁になっていて、その壁に沿って道があった。
 コンクリートの壁の上は、寺とそれに敷設された墓地だった。
 寺と墓地といっても古いものではなく、どちらも最近の物。
 寺の建物は鉄筋コンクリートだったし、また墓地も墓地というよりは霊園と言った方がしっくりくる感じだった。
 そんな風だから、墓地とか寺でイメージする“ジットリ”というような感覚はなく。
 ましてや、“不気味”や“薄気味悪い”なんて感じは欠片もない場所だった。
 

 そんな寺と墓地の下にある、コンクリートの壁沿いの道。
 いや。そこだって、もちろん“不気味”も“薄気味悪い”もない。
 道の反対側の家並も新興住宅地のそれだから、どこか洋風でモダンな風。
 そんなコンクリートの壁沿いの道に妙なウワサがたったのは、もうずいぶん前のことだった。

 寺から住宅地のほぼ真ん中を南に真っ直ぐ、しばらく行った所に一軒のパン屋があった。
 パン屋といっても自家製パンの店だから、ベーカリーといった方が適当なのかもしれない。
 そのパン屋の主人が亡くなったのは、そのウワサが広まった2、3年前のことだったという。

 その主人、亡くなった時はもうかなりの高齢だったらしい。
 生前は、「パン屋のおっちゃん」という名で住宅地の人たち、とりわけ子供たちに大変親しまれていたんだとか。
 いつもニコニコ愛想ふりまいて、時々パンをおまけしてくれたり。
 亡くなった時、子供たちは「パン屋のおっちゃん、死んじゃったんだってよー」と学校で話していたと言うから、相当親しまれていたのだろう。

 その「パン屋のおっちゃん」は、住宅地の奥の八の字の頭の所にある寺の墓地に埋葬された……
 ということになっている。
 でも、もしかしたらそのこと自体もう「その伝説」の中身なのかもしれない。
 なぜなら、「パン屋のおっちゃん」がそこに眠っていないと、「その伝説」は成立しないから。

 最初にソレに出くわしたのは、中学受験の勉強でノイローゼになっていた小学生の男の子だったという。
 いや、そうじゃなくて。お米屋さんの娘だという話や、大手チェーン店のパン屋さんの子供だという話もあるらしい。
 お米屋の子供だとか、大手チェーンのパン屋の子供だとか、パン屋のおっちゃんからすると、微妙にライバル関係にある店の子供であるところが面白い。

 また、中学受験でノイローゼになった小学生の男の子というのは実在の人物なのだが、彼自身が「伝説」のようになっていた人物らしくて。
 というのも、受験ノイローゼで、パン屋に豆腐を買いに行ったという「伝説」(実話?)があるんだとか。
 実は彼、その後某有名私立中学に合格するのだが。
 つまり、頭がいいことへのやっかみが、彼を「伝説」の登場人物にしてしまったのかもしれない。

 というわけで、結局最初が誰だったのかはわからないのだが、まぁその辺りが伝説の伝説たるところなのだろう。
 とにかく、住宅街に住む小学生の誰かだ。
 いや、もしかしたら、そんな子は存在しないのかもしれない。
 とはいえ、「伝説」は存在するわけで、とりあえずそれをPクンとしよう。
 ある夏の午後の遅い時間のこと。いや、それは決して夕方ではないらしい。まぁ4時くらいか?
 そのPクンは、住宅街の奥にあるお寺の下のコンクリートの壁沿いの道を1人で歩いていた。


 きぃ~、きぃ~、きぃ~、きぃ~
 ふいに後ろから聞こえてきた、変な音。
「えっ。なに?」
 思わず立ち止まって振り返ったPクン。
 振り返ってみても、何もない。
 わずかにカーブを描いたお寺のコンクリートの壁が、ずーっと連なっているのが見えるばかり。
 傾きかけて黄色味を増した太陽の照り返しが眩しい。
 向こうの影になった所はお寺の石段。
 石垣の上の墓地から降りそそいでくる蝉時雨。
 お寺の反対側は、住宅が建っているのだが何の音もない。
 ただただ、シーンとしていた。

 首を傾げつつ、また歩き出したPクン。
 すると、また。
 きぃ~、きぃ~、きぃ~、きぃ~

 それは、道の右の方から聞こえてきたかと思うと、左の方から聞こえてきたり。
 無意識に走りだしていたPクンの足。
 足なら、結構自信があった。

 きぃ~、きぃ~、きぃ~、きぃ~
 ふいに大きくなった、その音。
 走りながら、後ろを恐る恐る振り返ったPクン。
 その目に映ったのは、自転車に乗った人の姿。
「待ぁぁ~てぇぇ~」
 濃いグリーンの古ぼけたその自転車なら憶えていた。
 パン屋のおっちゃんが乗っていた自転車だ。
 ちょっとよたよたした感じで自転車に乗っていたパン屋のおっちゃんに、みんなでよく手を振ったのを憶えている。
 でも、パン屋のおっちゃんは、死んじゃったはず。
 なら、パン屋のおっちゃんのわけないじゃんって、もう一度振り返ったPクン。

 きぃ~、きぃ~、きぃ~、きぃ~
「待ぁぁ~てぇぇ~」
 自転車に乗っていたのは、忘れもしない、パン屋のおっちゃんだった。
 パン屋のおっちゃんの店じゃぁ何回もパンを買ったから見間違えるわけない。
 でも、そのパン屋のおっちゃんの顔は、変に歪んでいて。
 「待ぁぁ~てぇぇ~」と、歪んだ顔のまま追いかけてくる。
 その瞬間、首の後ろがゾワゾワっと。
 思わず「助けて!」と、声にならない叫びとともに駆けだしたPクン。
 でも、その足は、アスファルトを思いっきり蹴っているはずのに。
 あの自転車をこぐ音は、ピタリとPクンに纏わりついてくる。
 きぃ~、きぃ~、きぃ~、きぃ~
 えぇー、何なんだよー。音とスピードが合ってないじゃんよー!
 アスファルトの路面がいきなり迫ってきたのは、それに気づいた時。
「わっ」
 やっと聞こえた声。でも、Pクン、その時にはもぉ転んでいた。
 顔からズズーっと。

 道に転んでいるPクンの横を通り過ぎていく、きぃ~、きぃ~って音。
 慌てて顔をあげたPクンの目に写ったのは、自転車に乗ったパン屋のおっちゃんの後姿。
 それは、遠ざかっていくきぃ~、きぃ~っと自転車の音。

 体のあちこちが、ピリピリズキズキ痛みだしたのは、そのすぐ後だった。
 あの、きぃ~、きぃ~っていう音はもうどこにもない。
 そのかわり、わんさと聞こえる蝉時雨。
 それは、転んで擦り傷だらけのPクンを囃しているようだった。



 その妙なウワサに出てくるソレが、なぜみんなから親しまれていた「パン屋のおっちゃん」だったのか?
 それは、親しまれていて、誰もが知っている人物だったからこそともいえるわけなのだろうが。
 ただ、どうしてそんな妖怪みたいな姿形で「伝説」として蘇ってしまったのだろう。
 いや。もちろん元々は誰かのウソ話だったり、何人かでふざけて言った、単純な事にすぎないのだろう。
 でも、その単純な事がぱぁーって広まってしまう伝播のメカニズムがとっても不思議だ。

 そんなことを思ったのは、私が大学生の時だった。
 いや。その話を最初に聞いたのは、中学生の時。
 同じ市内の別の所からその住宅地に引っ越してきた私は、そこにずっと住んでいる友人たちからその話を聞いたのだ。
 ちなみに、その「伝説」は友人たちが小学校2年か3年の時に流行ったらしいのだが、面白いことに6年の時にもまた広まったらしい。
 面白いといえば、2回目に広まった時。パン屋のおっちゃんの乗り物は、自転車からミニバイク(原チャリ)に変わっていたんだとか(笑)

 結局、私は「パン屋のおっちゃん」に遭うことはなかったが、大学で「口コミマーケティング」を学んで、ふと実験してみたくなったのだ。
 つまり、「パン屋のおっちゃん」のウワサを、意図的にリバイバルさせることは可能か?

 友人たちと、お話を時代に合うようにアレンジして。
 友人の小学生の弟と友だちと遊んでいる時に話してやったり、近所の喫茶店でわざと声高にその話をしてみたりと、いろいろやってみたのだが……

 やっぱり。
 ああいうものっていうのは、流行らそうとしても流行らないところが面白いところなんだろうなぁ…。



                             ―― 『町内伝説(笑)』〈了〉


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2016
05.29

ノー。マヨネーズ!


 サミット終わって、街中もスッキリですかねー(笑)

 安倍さんも、「海はどっち?」なんていろいろ頑張ってましたけど、まぁ伊勢志摩の方、それと警備の方、ホントお疲れさまでしたってとこなんでしょうけどねー。

 ただ、みょーっ!に気になったのが、安倍さんが言ってた「世界経済がリーマンショック以来の危機」みたいな話。
 いや。そもそも、自分たちの食い扶持確保に消費税を上げるため、物価を2%上げるのがアベノミクスの目的だったはずなのに(たぶんwww)
 それが、増税延期みたいな話になってきて、「あれ?」って、まぁそこは、国民大喜びではあるんですけどね(笑)

 とはいえ、今って、えぇー、そんなに景気悪いの?みたいな。
 いや。増税が三度の飯より好きな自●党の方々が言ってるわけで、まぁそういうことなんでしょうけどねー。

 でも、個人的には、ここ何年かって、なんかみょーっ!に80年代前夜の、あの頃の空気感ととっても近しいものを感じるんだけどなー(爆)
 いや。何がどうっていうんじゃなくって。
 たんに、世の中、社会、人々の空気感の話なんですけどね。

 80年代っていうと、今となっちゃぁ、経済学者もマスコミもお笑い芸人も、みんなでお金ウハウハ、のー天気!みたいな風にしか言わないけど。
 でも、実際は、80年の前夜である70年代後半~80年代初めなんて、石油ショックから続く70年代不況のイメージが強すぎちゃって、景気がいいなんてイメージ、そんなになかったような気がするんですよね。
 いや。ま、その頃って、私も子供でしたから。
 まったくのイメージでしかないんですけどね(笑)

 ただまぁそうはいっても、経済学者や、経済アナリスト等々の言ってることがいかに適当かってことは、投資専門家たちの集まりであるリーマンブラザーズがつぶれちゃったの見たってわかるわけで(笑)
 アベノミクスだって、その根本にあるのは、景気の“き”は、気持ちの“き”だよね?だったわけじゃないですか。
 それで、ここまできちゃったわけでしょ?(爆)

 そう考えると、な~んだかなーって思っちゃうんですよねー(笑)



   いや。消費税は止めていいんですよ。ぶっちゃけ、永遠に(笑)
   ていうか、今の空気感は、むしろこっちが近いかなー
   https://www.youtube.com/watch?v=icxgmIZflYg


 今日は、昨日が涼しかったせいか、ミョーに暑かったですねー。
 昼間、買い物に行ったら、Tシャツの裾をあげて腹出して歩いているおにーさんがいて。
 まるで、中国人みたいなヤツだなーって、しげしげと見てたら、格好もみょぉなトッポさがあって、あぁやっぱり中国の人なのかもなーって。
 「チャイニーズ?」って聞いたら。
 「ノー。マヨネーズ!」って。
 なんだ、中国の人じゃなくて、大阪の人か!

 って、たぶん、全然面白くないですけど、すみません。途中から作ってます(爆) 

 
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2016
05.28

怪談16.5.28

Category: 怪談話-番外

 一本足といえば、一つ目小僧(今風に言うと、一つ目男子?)のお話を聞いたことがあります。

 たぶん、20年とかそこらくらい前のことっていいますから、ま、90年代の中頃のことですかねー。
 東京近郊のある街で、ある時そんなウワサがいきなり広まったんだそうです。
 その話をしてくれたAさんが言うには、ウワサが流れていたのは1ヶ月か2ヶ月くらいだったと思うと。
 それも、夏になる頃にはウワサは聞かなくなっていたということですから、話の始まりはたぶん梅雨の頃か、もしくは今頃だったんじゃないでしょうか。

 ま、そういう話だけあって、都市伝説めいたお話で。
 そのお話が語られる時には、最初の出来事というか、原型のお話というのか。まずそれが語られ、その後にそれぞれの友人知人から聞いたエピソードが付け加わるという風になっていたようです。
 実際、そのお話がウワサになっていた頃は、Aさんも何人かから聞いたそうです。

 その、最初の出来事(原型)のエピソード。
 舞台はZ町という、その街では比較的古い住宅街らしいんですが、ま、古いといっても、その街自体60年代にベッドタウンとして開発されたということなんで。たぶん、60年代の後半とか70年代初めに造成された住宅街なんじゃないでしょうか。

 そのZ町に、特に名前はないらしいんですが、急な坂があるんだそうです。
 ま、住宅街の中の道ですから、そんなに幅の広い道ではない。
 クルマが何とかすれ違えるくらいの道ということですが、その坂の下に、そこだけちょっと広がっている場所があって。
 いや、何でそこだけ広がっているのかはわからないんだそうです。たんに、そこだけちょっと道が広がっているんだと。
 そこは、道の横に家がなく、うっそうとした笹薮になっていて。
 一方、道の反対側は古ぼけたアパート。
 それは、古ぼけているだけあって、あまり人を見かけない。
 いや、人が住んでいたのはいたらしいんです。でも、Aさんに言わせれば、「そこって、子供の頃から住んでる人を見たことがない」と。

 坂道は、その少し道が広がったすぐ先で、やはり住宅街の中の道と交差していて。つまり、小さいながらも十字路になっているらしいです。
 一方、坂の方に行くと、その場所のすぐ上には、ちょっとお屋敷っぽい家があって。家屋自体が坂の中ほどにあるのと、敷地全般に大きな庭木が繁茂している。
 つまり、その坂の下の道が少し広がったところは、ひらけた場所なのにもかかわらず、妙に外界から遮断された感のある場所なんでしょう。
 そのせいか、そこは、近所の主婦や学校帰りの中高生がつい立ち話しをしてしまう、そんな場所になっていたようです。
 Aさん自身、中学生の頃学校帰りにそこで友だちと話をしたことがあるといいますし。また、そういう場面を何度か見たことがあったと。
 ただ、そういう時って、どちらかというと内緒話やウワサ話をしているように思えたといいます。

 その時も、そこにいたのは2人の女子高生で。2人とも、そこからちょっと行った所にある高校の2年生だったそうです。
 まだ明るい時間だったらしいのですが、坂が西側にあるのと、また先ほども言いましたように脇は笹薮、さらに上はお屋敷っぽい家のうっそうとした庭木ですから。
 坂の下の道が少し広がったその場所は、もぉう薄暗くなっていたんじゃないでしょうか。

 その女子高生が話していたのが楽しい恋の話だったのか、それとも黒いウワサ話だったのか、まぁその辺はわかりません。
 でも、2人が時間を忘れて夢中で話していたのは確かなんでしょう。
 だって、全然気がつかなかったというんですから。
 そう。話しかけられるまで。

「ねぇ。なに話してるのぉー。」
うぐっ!」
 すぐ後ろで、いきなりした声にびっくり振り返った2人。
 いや。それは、ホント普通の話し方で。2人は、いきなり話しかけられて驚いたものの、同じ高校の誰かと思ってたといいます。
 でも、そうじゃなかった。
「え…。」
 それは、詰襟の制服に制帽をかぶった中学生の男の子。
 とっさに中学生と思ったのは、制帽をかぶってたのと、背が自分たちより低かったからだったと。

 いきなり後ろから声がして驚いた2人でしたが、それがまだ中一くらいの男の子だとわかったことで、たぶん「何なんだコイツは?」みたいな感じになったんじゃないでしょうか。
 あるいは、逆に、驚いて固まっちゃったのか?
 とにかく二人は、話しかけてきたソレが中一くらいの男の子と見止めた後、彼をしげしげと見つめてたらしいんです。
 いや。実際それは、ほんの一瞬。1秒もないくらいだったんでしょう。

 そのことに気がついたのは、たぶん2人同時だったのか?
 いや。その後2人が我に返ったのは、その場所から坂を上って500メートルほどにあるスーパーのベンチだったといいます。
 ベンチに座っていた2人の様子を変に思ったスーパーの警備員が声をかけたんだそうです。

 そして、我に返った2人が語ったこと…
 いや。もちろん、それを聞いた警備員はそんなこと信じなかったでしょう。
 そりゃそうです。そんなこと、普通誰も信じません。
 だって、坂の下のあの場所で2人に話しかけてきたソレが一つ目だったなんて話なんですから。
 その警備員さん、たぶん後で同僚と大笑いしてたんじゃないでしょうか。
 というか。これで、その警備員が「オマエさんがたが見たっていうのはこんな顔かい?」ってやってくれてたら、もぉ大爆笑ですけど、まさかそんなわけもなく(笑)
 とはいえ。
 そんな警備員さんも、その後その街で相次いだ、中学校の制服制帽姿の一つ目の少年のウワサ話を聞いた時はどう思ったんでしょうねぇ…

 それは、夕暮れ時。
 その街のどこかで立ち話をしていたり、あるいは話しながら歩いていると。
 ふいに後ろから、そう、誰でも思わず息を呑んでしまうような至近距離から話しかけてくるのだと。
「ねぇ。なに話してるのぉー」
 それは、全然普通の話し方。
 驚きながらも振り返ると、それは見覚えのある地元の中学校の制服制帽姿の男の子。
 …!?
 何だ?とよくよく見て、ソレの顔に目が一つしかないことに気づく……

 それを見たある人は驚いて一目散に逃げ出したり、ある人は例の女子高生のように茫然自失になって後で我に返ったり。
 それを見た人も様々なら、その後も様々なのだが、共通してるのはソレは2、3人が話している時に現れること。
 さらに、話しかけられた人がそのことに気がついて驚いた後、ソレがどうなったのか…、つまりどこへ行ってしまったのか憶えている人がいないこと。
 それと、もう一つ。
 それは、その一つ目小僧の容姿。
 何でもまさに一つ目で。詰襟の制服と制帽の間にある顔の真ん中に、大きな目が一つあるだけなんだとか。
 そんな目と見つめ合ってしまう恐ろしさ……

 いや。もちろん、Aさん自身は見てないそうです(笑)
 でも、あの時の、街の空気がざわついているみたいな厭ぁな感じというのは、今でも憶えてるといいます。
 


                          ―― 『一本足といえば…』〈了〉


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2016
05.28

お漏らし鬼のKissじゃなかった、『陰摩羅鬼の瑕』

Category: R&R

 しっかし、「陰摩羅鬼」って文字を見て、よっぽどそっち方面な妖怪なのか?って思っちゃったの、たぶん私だけじゃないと思うんだけど、どーなんだろうなー(笑)


陰摩羅鬼IMG_3059


 そんな『陰摩羅鬼の瑕』でしたが、読み出してみればそんなことは全然なく。
 ちょっと残念、どころか儒教だったり、林羅山だったり、ダラダラしたウンチクがみょぉーっに面白くって。
 うん。結構、スパスパ読んじゃいましたねー(笑)

 いや、京極夏彦。
 思い起こせば、たぶん6、7年前に読んで以来だと思うんですけど、いやー、うん。面白かったですね。
 ま、主題のストーリーが単純だったせいもあるのかもしれませんけど、1200ページが見る見る減っていきました(笑)
 しっかし、1200ページの文庫って読みにくいのなんのって!そもそもページがめくれやしねーの!(爆)

 ま、指無し手袋男の本は、重要な付加価値として、“厚さ”が市場から求められていると思うんで。そこは、結構ポイントなんだろうなぁ…(爆)

 と、まぁそんな陰摩羅。
 …じゃなかった、『陰摩羅鬼の瑕』(笑)
 関口クンはじめ、薔薇十字探偵社の人に赤鼻緒男、あと、いかにも刑事と、ホントお馴染みの面々に久しぶりの再会って感じで。
 ま、個人的には、敦子さんが出てこないのがちょっとさびしかったかなーって思ったりもするわけですが、でも、ま、このシリーズの主人公は関口クンですからね(爆)
 そんなわけで、関口クン、ていうか、猿?
 今回は、大活躍だったんで、もぉ大満足です。

 
 あと、今回、私がやたらと面白く読んじゃったのには、全体を通して、横溝正史の影がチラチラっていうのがあったんでしょうねー。
 そもそも、舞台の白樺湖っていうこと自体、何だかミョーに『犬神家』を思い起こさせるし。
 いや。犬神家のそれはたぶん諏訪湖をイメージしてるんでしょうから、風景は白樺湖のそれと全然違うんですけどね

 元華族とか聞くと、『悪魔が来たりて笛を吹く』だし。
 そう思って読んじゃうと、初夜に花嫁が死んじゃうっていえば『本陣』だよなーって。
 あ、そう!いつものごとくネタバレ全開でなんで、読んでない人は読まないでね(いや。別に読んでもいいですけどwww)。と慌てて断って(爆)、でもって、今回死ぬことになる薫子さんは教員って、それ、『八ツ墓村』だよね?みたいなー。

 なんて思って読んでたら、お話に横溝正史本人が出てきちゃって、あぁびっくり(笑)
 おまけに、途中出てくる刑事さんが「本陣殺人事件とか…」みたいなこと言っちゃって、もぉみんなして犯人言っちゃってる状態。
 というか、読み終わってカバーをはずしてみれば、本の帯(中古だけどついてた)にすでに「存在しない犯人。それは鬼神だ。」ってネタばらししてあんじゃん!って(笑)

 つまり、犯人は貴人で、奇人。あと稀人で、ぶっちゃけ、キ人と(笑)
 ま、それは、さすがに読み終わらないとわからないかー。


 というか、そもそも犯人当てじゃぁないんでしょうね。
 あくまで、関口オールスターズ…、じゃなかった京極堂オールスターズ(の主要メンバー)のいつものやり取りを楽しむっていうのが、このシリーズの楽しみ方なんでしょう。
 そういう意味じゃ前半…、というか前半の次辺りにある、伊庭さんと赤鼻緒男とあともう一人で繰り広げられる、ウブメから儒教、林羅山の延々つづく講釈も「これ、もはやお話と関係なくない?」と思いつつも、みょーっに楽しい!
 …みたいなー(笑)

 ただ、今回はのっけから「犯人って、この人しかいないよねー」的な展開だったせいもあって。
 ぶっちゃけ、最後のお約束のビジュアル的にめっちゃたキメ赤鼻緒男が、妙にピエロっぽくなっちゃったような(笑)
 今回は、動機というか、なぜそんなことをしちゃったのか?も、確証はないものの「もしかして、そういうこと?」みたいのは、おそらく読者もあるわけですから。
 我らがヒーロー関口クンだって、真相に至ってたわけですから、後は例によって関口クンと赤鼻緒男のダラダラしゃべりで終わらす、みたいにはいかなかったのかなーなんて思いましたね。

 うん。正直言っちゃうと。
 個人的には、赤鼻緒男がちゃんと言葉にしちゃったことで、逆に「ホンマかいな!?」みたいになっちゃったように思うんですよねー。

 とはいえ、ま、このシリーズは、あくまで「憑き物落とし」が売りななんでしょうからね。
 そこはないとダメでしょ!っていうのはあるんでしょうね(笑)


 で、ま、話は横溝正史に戻るようですけど。
 先にも書きましたけど、読んでて、あちこちにある横溝正史の小説を思い起させる道具立てを探すのが、というか勝手に決めつけるのが楽しくって。
 終盤に、やたら居丈高な警部が出てきた時は、「あーっ!これ、金田一映画に毎回出てくる“よし!わかった!”の刑事さんだー!」なんて、もぉ狂喜乱舞(笑)
 
 いや。まさか、さすがに本読みながら(あの厚さの本を持ちながら)狂喜乱舞は出来ないわけですが、あと、ま、これは完全に個人的な話になっちゃうんですけど、展開が、「犯人ってこの人しかいないよね?」なだけに、逆に「えぇー、でもまさかなー」とも思っちゃうわけですよ。
 でも、終わってみれば結局その通りだったところが、高校生の時に横溝正史の『夜歩く』を読んだ時と同じだったと。
 『夜歩く』は、超々有名ミステリー小説のアレなわけですけど、高校生の時なんて、そんなこと知らないわけですよ。
 だから、あの時は読んでいて、「どう考えたって犯人はコイツなんだけど、でも、そんなことってあるのぉ?」みたいな(笑)
 読んでてその感覚が同じで、なんだか懐かしかったです。

 そう、「犯人ってこの人しかいないよね?えぇー、でもまさかなー」といえば、途中で登場人物全員して犯人を名指ししている状態に、「いや、ここまであからさまってことは、犯人はコイツじゃないんだろう」なんて、逆に疑っちゃったりで(爆)
 となると、あと犯人になりそうなのはアイツしかいないじゃないですか。
 
 そう考えちゃうと、「そうだよ。こんだけ横溝正史的キーワードが出てきてるっていうのに、肝心の『獄門島』が出てこないよなー。
 ということは、お話の根幹にソレを仕込んでるってこともあるのかも!
 つまり、殺人は先代か先々代の示唆で、花嫁がある条件の時に執事たちが殺ししちゃうんじゃないか?」な~んて(笑)
 あ、『獄門島』読んでない人は、今の、忘れてくださいね(爆)

 まー、つまり。
 読者っていうのは、自分の好きな展開なら、何やってもOKってことなんでしょうね(爆)
 そこまでパクっちゃう作家なんているわけないのに、もぉワクワクしちゃったり(笑)
 ただ、読み終わってみると。
 儒教の弊害って意味で、そういう展開でもテーマからはそんなに外れなかったんじゃない?なんて(笑)

 ていうか。
 実は、横溝正史をちらつかせることで、読者にそんな風に思わしちゃうことが指無し手袋男の狙いだったりして!?
 いや。もしそうだったら、そこは素直に「さすがは京極夏彦。やるなー!」って言ってあげちゃいますね(爆)

 横溝正史といえば、これ、読み終わってみると、意外と『悪霊島』っぽかったかな?とも思ったり(笑)
 もっとも、『悪霊島』は大作狙って力み過ぎたのか、失敗作でしたけど、こっちは肩の力抜けた感があって、ホントよかったです。
 そういう意味じゃ、伊庭さんの事件で上巻。それでコレを下巻にしてくれたら『病院坂』もなぞれたのになーなんて、ね(笑) ←しつこい


 ま、そんなこんなで、久々の指無し手袋男こと、京極夏彦だったわけですが。
 面白かったのもさることながら、何か、これまでと微妙に変わってますよね。
 前は、最後にショッカーみたいなのが出てきちゃって。なぁ~んか、もしかして、そろそろ賞味期限切れ?
 な~んて思っちゃったりもしたわけですが、いや全然。それどころか、妙な油っ気が抜けちゃった分、ストーリーも講釈も楽しく入り込めたみたいなとこ、ありますよね。

 ただ、その反面、ところどころ気になったのが、というか面白なーって読んでたのが、今の日本の社会批判みたいなところです。
 今まで(の京極堂シリーズ)って、そんなのありましたっけ?
 いっやー、記憶ないんだけどなー!?

 うん。いや、実は京極夏彦って。
 あれは、何年前だったかなー。
 何かの怪談本の冒頭で、文章書いてたんです。
 要は、今巷に溢れる、頭にいちいち「実話」とつく怪談への批判で。
 もぉぶっちゃけ、「実話」といちいちことわらなきゃ読んでられない今の怪談はウンザリだみたいなこと書いてて。
 いや、もぉまさにその通りで、それこそ「さすが、京極夏彦。ダテに“この世には不思議なことなどない”じゃねーなー」なんて感心しちゃったわけですが、今思うと批判的な視点というのはあの頃から強くなってたのかなー。
 ていうか、たんに齢とって、業突く張りになっただけだったりして(爆)

 それこそ、今の日本の大学の文系って、ぶっちゃけダメだよね?っていうのは自分のこともふまえて納得できるわけですが、でも、だからって大学というある意味無駄こそが大事みたいな場所から、それをなくしちゃう理系偏重の安易さってどうなんだろう?みたいな(笑)
 まぁそんなことは『陰摩羅鬼』では言ってないわけですが、情報、情報と、やたらはしゃきまわってるわりには妙に狭い範囲でのみ情報を摂取して、しかもそれを妙に鵜呑みにしちゃう今の日本(人)ってどうなんだろう?っていうのは思いましたね。


 ところで。
 最後の伊庭さんパートの、一番最後。
 “夏がまた終わるな、私達は思った。”の、私達って伊庭さんと誰?
 ていうか、またって…!?

 もしかして、それこそが謎の肝だったり?
 えー!?






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2016
05.22

お代官さまになれる店(笑)


 いや、毎週ではないんです。
 でも、その店。時々みょぉーにお代官さま気分になれるんで、とっても楽しいんです(笑)

 あれは、もしかしたら方言なのかなぁ…
 時々レジにいる女性の店員さん。
 語尾が、なぜか「…ごぜぇます」なんです(笑)

 最初聞いた時は、一瞬「へ!?」って。
 思わずキョトンとしちゃったんですけど、その時は最後の「ありがとうごぜぇました」だけしか聞かなかったんで、まぁ聞き違いかなーって思ってたんです。

 でも、その後またその店員さんにあたったら、「○○円でごぜぇます」って(笑)

 いや、思わず、「わっ!やっぱり“ごぜぇます”って言ったよ!」みたいなー。
 最後も、やっぱり「ありがとうごぜぇます」で見送られちゃって、いやはやこりゃ気分はお代官さまだなぁーなんて(爆)

 今日その店に行ったら、その店員さんがいて。
 「○○円でごぜぇます」っていうの聞いてたら、もぉ堪らなく可笑しくなっちゃって
 これで、「うむ。苦しゅうない。余は過分に思うぞ」なぁ~んて言っちゃった日にゃぁどうなるんだろうなぁーなんて、もぉクスクスしちゃうの堪えるの必死でした(笑)

 でも、後でよくよく考えてみたら、それはお代官さまじゃなくて、お殿さまだろー!って。
 自分にツッコんじゃいましたとさ(爆)


                ↑
     この人はお殿さまじゃなくて、ゴッドファーザーね(笑)


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2016
05.22

怪談話-16.5.22

Category: 怪談話-番外

 怪談に、信じるor信じないは野暮というものですが、でも、「えぇー、それホントぉ?」なんて、思わず笑っちゃうお話があるのも事実ですよね。
 とはいえ、ま、オバケなんてぇのは、所詮人間の死んだヤツにすぎないわけで。
 つまり、生きた人間に優秀な人もいればおバカな人もいるように、オバケだってそんなものなのかもしれません(笑)


 Aさんという、ま、年代的には“中年”といわれる方のお話なんですけど、そのAさん。なんとジョギングが趣味という、ある意味怪談以上に信じられない人。
 で、その、ジョギング。Aさんは、例によってダイエット目的で始めたそうですが、最初はホンっト死ぬかと思ったそうです。
 とはいえAさん、それにもめげずに毎日続けて。
 今じゃ「趣味?うん。ジョギングぅ~」なんて、さらっとのたまえるんですから大したものです。

 いや、Aさんに言わせると、結構気持のいいものなんだそうです。
 家からちょっと行くと、川に面した大き目の公園があって。
 そこから、川沿いに遊歩道が伸びているらしいんですけど、そこを走っていると、驚くくらい四季の移ろいが感じられるんだとか。

 そのAさん。その川沿いの遊歩道を走るのは、春夏秋冬それぞれに趣きがって好きらしいのですが、意外に気にいっているのが真冬の早朝と、そして超あっつ~い夏の夜だと言います。

 いやはや。思わず「夏の夜なんかに走ったら、熱中症で死んじゃうでしょ!」って言ったら。
「でも、走ってて汗みどろになる感じがさー。
 なんかワルいモン全部出してるーって感じでさぁー」って。
 さらには、
「家帰って浴びるシャワーの気持ちいいのなんのって。
 それからその後のビールも…」なんて変な笑みを浮かべたり。
 まぁ私なんからすれば、「ありゃぁ、なんか悪いモンにとり憑かれてんだろな」と思うしかないわけですけど、そんなAさん、その夏の夜も走っていたんだとかで……


 たまたまそういう体調だったのか、それとも特に暑い夜だったのか?とにかくやたらと咽喉の渇く夜だった。
 何気なく手に持ったペットボトルがやけに軽いのには気がついていたのだけれど。
 いくら傾けても、中身が口の中に入ってこないので、つい立ち止まって見てみたら、なんと中身は空。
「えぇっ!?」
 いつもの折り返し点にしている川にかかる橋のまだ全然手前だというのに。
 いつもなら、これ(500mlのペットボトルのスポーツドリンク)でもつんだけどなぁ…って首を傾げるAさん。

「まいったなぁ…。」
 この暑さに、水分の補給が出来ないのはちょっとヤバい。
 その場所から一番近いコンビ二は川のこちら側。でも、そこまで15分か20分くらい走らなければならない。
 ま、走っちゃえば大した距離ではないのだ。
 とはいえ、Aさん。いつものコースから外れるってことが、何だか変に億劫で。
 というか、気がついた時には、足のヤツは勝手に橋を渡りだしていた。
 橋の向こう側のコンビ二までは、さらに遠いというのに。

 橋は、いつもなら夏の夜でも多少の風があるのに、今夜に限っては蒸しっとした熱気が漂っているだけ。
 橋を渡るにしたがって、蛙と虫の声はさらに大きくなっていく。

 そんな時、Aさんの脳裏を脳裏にふっとよぎった光景。
 そう。あれはいつのだったろう?
 ずいぶん前に、昼間に対岸を走った時…
 この橋を渡って、ちょっと行った所に自動販売機を見たような…
 もちろん定かではない。でも、Aさんの頭の中にそんな映像が残っていた。

 確か橋を渡って、そんなに遠くなかっと思ったけど…
 対岸は人家がほとんどない。だから、いつも走る遊歩道よりかなり暗く感じられる。
 それは、ちょっとビックリするくらい。
 魚が跳ねたんだか、蟇蛙が飛び込んだんだか。川の方から聞こえてきたドボンと重い音にドキリとさせられてみたり。
 ただ、遊歩道自体が広かったから見通しがきくのと、つい今まで走っていた対岸の灯りが見えるから、心細くなることはなかった。

「うーん。しっかし暑っいなー。」
 顔をタオルで拭うたび洩れる、溜め息とつぶやき。
 なぜか、橋を渡る前よりも暑かった。
 とにかく酷く蒸す。ベチョべチョのTシャツとパンツが気持ち悪い。
 振り返れば、渡ってきた橋はもうずいぶん向こう。
 あっれー。あの時見た自販機ってこんなに遠かったっけ?
 ていうか、ホントにあるのかな?
 そうだよ…
 そもそも、こんな人家のないとこに自販機なんてあるわけないよな
 うん。ないなら早いとこ引き返さないと…
 誰か、走ってないのかな?走ってれば聞けるのになー
 と、なぜか引き返せないAさんの足。

 グルリと見回してみても走っている人影はなく。暗い遊歩道が、前に後ろにあるばかり。
 右側には、葦原とその先にある真っ暗な川面。左側は、田んぼとその向こうの黒々と続いている林。
 その手前には車道があるのか、点々と連なる小さな街灯が。
 蛙の声、虫の声、油蝉の鳴き声、そしてドボン。
 人工の音は一切聞こえてこない、熱帯夜の遊歩道。
 そんな中。左側に見えてきた二階建ての建物のシルエット。
 その、変にぬぼーっと真っ黒な様。

 な、なんだ、あの建物…
 それは窓がないのか、それとも暗くてわからないだけなのか。建物の形に真っ暗に建っているだけで妙に薄気味悪かった。
 やっぱり引き返そうかと思った時。
 その目に入ってきた、ぬぼーっと真っ暗な建物の下に見えた光。
「あっ!」
 それは、Aさんが目指していた自動販売機だった。

 ところが、その自販機。その光を目当てに、蛾やガガンボその他小さな虫が集りまくっちゃって。
 それは、こんな切羽詰まった時でもなかったら、絶対利用したくないって風なのだが、とはいえ今日ばっかりは…と自販機に近づいていくAさん。

「うぇっ!ぺっ、ぺっ。口に入ってきやがったよ。」
 スゴイ数の虫。そういえば、脛の辺りがなんだか痛痒い。
 そんな飲み物を売ってるんだか、虫を売ってるんだかよくわからない自販機だったが。
 でも、売っている物を(へばり付いている虫越しに)見れば、それは意外なくらい普通。Aさんが愛飲している、スポーツドリンクもちゃんとあった。

 やっと咽喉の乾きが癒えたAさん、いつも走っている遊歩道に戻ろうと思ったのだが。
 あれ?こっちの遊歩道の方が走りやすそうだなぁ…
 道が広いから見通しがきいてなんとなく気分がいいのか、それとも辺りに人家などないこの濃い暗さが心地いいのか。走ってみると、妙に走りやすい。
 このまま走ってけば、対岸に戻れる別の橋があるから、帰りの心配もなかった。
 今日は、この暑さで、一時はどうなることかと思ったけど…
 でも、そのおかげでこっち側(対岸)がこんなに走りやすいってわかったのはラッキーだったなー

 それは川沿いに伸びる、誰もいない真っ暗な遊歩道。
 Aさんが走るその先も、走ってきたその後ろも、それは濃い暗がりに滲むように見えなくなっていく。
 そんな場所を走っていた時だった。
「うん?」
 あれ…、なんだ?
 走っているAさんの目に入ってきたそれは、何やら赤い灯。
 よくわからないが、それは飲み屋の灯り、つまり赤ちょうちんに見える。
 とはいえ、川か田んぼしかないこんな所に飲み屋があるわけもなく。
 なんだろ?あれ…
 それは思ったより遠いのか、走っているのに全然近づいてこない。
 えっ。まさかクルマ――。
 いや、ここは遊歩道だ。
 とはいえ、これだけの幅がある舗装された道。
 夜で辺りに人家がないのをいいことに、どこかのアホバカ連中がクルマやバイクを持ち込んで走ってる可能性もあった。

 不安に駆られたAさん。走るのをやめて、エンジン音がしないかと耳を澄ませてみたり、おもむろに後ろを振り返ってみたり。
 でも…
 相変わらず聞えてくる音は、カエルの声と虫の声、セミの声。あとは、時々水面で何かが跳ねるドボンという音だけ。
 爆裂的なエンジン音も、タイヤを鳴らすような音は全く聞こえない。
 いや、クルマの音は聞えた。でも、それは遠くの国道を走っている音だった。

「えぇー?」
 首を傾げながら、またあの赤い灯を見るAさん。
 全然動かない、その赤い灯。
 目を透かすようにして見ても、何だか全然わからない。
 強いて言えば、飲み屋の赤ちょうちん。
 なんだけど…
 でも、どう考えたって、こんな場所に飲み屋があるわけない。

 そんな時だった。
「えっ?」
 それは、どこからともなく聴こえてきた低い音。
 ズーン、ズーン、ズーンと、腹に響くような…。
 その異様な音に慌てて辺りを見回すAさん。しかし、すぐにそれに気がついた。
「こ、こっちに来る!?」
 それは、あの赤ちょうちんみたいな灯。
 Aさんがそうしている間にも、それはだんだん大きくなって。
 ズーン、ズーン、ズーン、ズーン、ズーン…
 こっちに近づいて来るにつれ、音も大きくなって。
 ズーン!ズーン!ズーン!ズーン!ズーン!…
 そして、ソレは加速した。
 ズン!ズン!ズン!ズン!ズン!
 ゾン!ゾン!ゾン!ゾン!ゾン!ゾン!ゾン!ゾン!
 ソレは、今まさにAさんの目の前を――。
 ズン!ズン!ズン!ズン!ズン!
 ザン!ザン!ザン!ザーン、ザーン、ザーン………………

 もの凄い音と勢いで通り去っていたソレ。
 でも、今聞こえる音といえば、カエルの声、虫の声、セミの声、時々水面で何かが跳ねるドボン。
 あとは、遠くから微かに聞こえてくる、微かなクルマの音。
 それだけ。
 赤ちょうちんみたいな灯りなんてどこにもなかった。


 Aさんは、今でも毎日のようにジョギングをしている。
 ただ、それはあくまで川のこっち側の遊歩道。
 対岸の遊歩道へは昼間ならともかく、夜は絶対行かない。
 「あの時見たことは、今でもよくわからない」とAさんは言う。
 あんなモノ、本当に見たのか、それともそんな気がするだけなのか…
 
 あの夜。
 赤ちょうちんのような灯りが、ズンズン音を立ててやってきて、通り過ぎて行った後。
 道の端で尻もちをついていたAさんの目に残っていたのは、真っ赤で見上げるように大きい、人の形をしたモノの後姿。
 ソレは…
 定かじゃないんだけど、足が一本だった……

 いや。そんなこと、あるわけない。
 絶対。
 でも、Aさんの記憶ではそうなっている。



 で、そんなことあるわけないといえば…

 それは、13日の金曜日のこと。
 正しくは、すでに夜中の1時をまわっていたから14日の土曜日になっていた。
 季節は、冬だったか春だったか?

 その日は仕事が忙しくて、帰りは最終電車になってしまった。
 13日の金曜日だったと気がついたのは、その最終電車の椅子に座った時だった。
 何気なく時計を見れば、「14 SAT」という表示が。
 あぁ今日って、13日の金曜日だったんだ…

 時計は14日の土曜日になっても、意識はまだ13日の金曜日だ。
 とはいえ、13日の金曜日だからって特にどうってこともないのだが…
 だから、そんなことはその場ですぐ忘れた。
 疲れていたから、電車が動き出す前にはもう寝入っていた。

 気がついたのは、自宅のある駅の1つ手前の駅だった。
 あぶない、あぶない…
 金曜日のこんな時間。誰もが疲れ切っているのか、車内はみんなうつらうつらしていた。
 そんな話し声ひとつない車内。電車のガタガタした音がひときわ大きく響いていた。
 駅に着いて、パラパラと降りていく乗客。
 私も含め、1/3位が降りたのか…
 でも、それだけの乗客が降りたというのに、駅から2、3分も歩いた頃には夜道を歩いているのは私一人になっていた。
 空き地もまだ多いとはいえ、住宅が建ち並ぶ住宅街。
 途中、大きな公園もあるが、一晩中灯りが煌々と点いていることもあって薄気味悪さなんて露ほどにもない。
 向こうの通りからクルマが走る、シューという音が聞こえてくる以外は静かな夜で。疲れきった体と心には心地よいかぎりだった。

 そんな住宅街の道。角を曲がると一軒のアパートがあった。
 アパートといっても、普通にイメージする木造で、外にコンコン音のする鉄の階段がついているようなやつではなく。2階建てだが、コンクリート造りの立派な建物。
 アパートの住人は、もう寝てしまったのか、まだ起きているのか。どの窓もカーテンがキッと引いてあった。
 アパートの前には、道に沿うように住人専用の駐車場があったが、もう真夜中。開いているスペースは一つもなかった。
 いつも通りの光景のはずだった。

 私の視界に、いつも通りの光景ではないモノがいるのに気がついたのは、どの辺りだったのか。
 見れば、駐車場の中ほどに停めてある一台のクルマの屋根に、なにやら黒い大きなモノ。

 猫!?
 猫だった。
 形は…

 クルマの屋根に、一匹の猫が座っていた。
 ちょこんと…、いや、それはどっしりという方がしっくりくる感じで。
 というのも、その猫、やけに大きい。
 見た感じ、座った姿勢で70~80センチくらいはあるか…
 しかもその猫ときたら、全身真っ黒。

 13日の金曜日の夜に黒猫って、ちょっと出来すぎだ。
 しかも、やけにデカい…、というかデカすぎ。
 いくらなんでも……

 そんな猫が、アパートの前に停めてあるクルマの屋根に、背筋をすっくとのばした姿勢でどっしり座っていた。
 身じろぎひとつしない。
 何をしているのか…
 後姿なので顔は見えないのだが、どうもアパートのある部屋をジーっと見つめているような……

 猫というのは、人の存在を非常に気にするものだ。
 現に、そのアパートの近辺に猫がいることがよくあるが、それらは人が近づくとクルマの下などにさっと隠れて、こちらを覗っていることがほとんどだ。
 それが、この大きな黒猫ときたら。
 私がアパートの前を通り過ぎる間中、ずっと私に背を向けたそのままの姿勢で身じろぎひとつせず、アパートのある部屋を見つめていたのだ。


 いや。そんなこと、あるわけない。
 絶対。
 でも、私の記憶ではそうなっている(笑)



                       ―― 『記憶ではそうなっている』〈了〉


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  断りなく転載されるのは非常に不愉快です。やめてください
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   ちょっと剣呑で、ゴメン(^^;)



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2016
05.15

週休二日制?


 先週は、ウグイスが家の近くに居ついたみたいで。

 朝からもぉやったらデカイ声で、
 ホケキョっ!ホケキョっ!ホケキョっ! 
 ケッキョ、ケッキョ、ピロロロロロ~~~って。

 ホンっトうるさいくらいだったんです。

 とはいえ、そこはウグイス。
 腐ってもウグイスってくらいで、やっぱりあの鳴き声がビシっと決まると、みょぉ~に心地いいんですよね(笑)

 てことで、「この週末はウグイス三昧かぁ~」なぁ~んて期待してたんですけど、でも土曜になったら全然。
 そーか。ウグイスって、週休2日だったんだーなんて。


 鳥といえば、シジュウカラに作文能力があるとか、そんなニュース、ちょっと前にやってましたよね。
 まぁ人間はなにかというと、自分らの知能を笠に着て他の動物をバカ扱いしますけど、実はそんなシジュウカラのように、結構みんな賢いのかもしれませんね。
 読書感想文とか、ネットで聞くよりシジュウカラに聞いた方がいいんじゃない?なんて(笑)

 そうそう。
 思い起こせば、いつだったか、カラスに「アホ、アホ」言われちゃったこともあるわけですがー。
 あれ、一瞬ムカっとくるんですよね(笑)

 でもねー、カラス。
 人間の賢さってぇのは、自分がアホだと自覚出来るとこにこそあるんだぜ!(爆)





 そーいえば、鳥、全然関係ないですけど、今週はひょんなことからナンプラーにはまりました。
 そんなわけで、もぉ作るもの作るもの、みーんなナンプラー味(笑)
 こんなウマいもの、何で今まで買わなかったんだろう……



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2016
05.14

怪談16.5.14

Category: 怪談話-番外
 社会人野球のチームに在籍してたことがあるというA山さん。
 ただ、それは大学を卒業してほんのわずかのことで。何でも、体調を理由にやめてしたったんだとかで…
 
 かつて、私は社会人野球のチームに入っていたことがあった。
 これは、私はそのチームに新人として入った時のことだ。
 チームの合宿所、寮は東京の下町、Q川の土手沿いにあった。
 チームの寮として使われる前は普通の集合住宅だったらしく、 門柱に「○○コーポ」というプレートが残っていた。

 ただ、その寮の建物って、ちょっと変な建物だった。
 4階建ての横長の建物だったのだが、寮として使っているのは3階と4階のみ。
 1階は、入口入ってすぐにある食堂と、その奥の管理人さん夫婦の部屋だけは使われていた。でも、そこから先はベニヤ板でふさがれていて。そのベニヤ板の向こうにあるはずの階段が利用出来ないのだ。
 つまり、私たちの部屋のある3階4階に上がるには、外の非常階段を使うしかなく。その途中にある2階なんか、入口のドアに鍵がかかっていて、中に入ることすら出来なかった。

 新人としてその寮に入った時、私にあてがわれた部屋は4階の1番奥。
 それは、外の階段から入って、片側がガラス窓の長い廊下をずっと行った所にあった。
 そこは、リノリウムの床の結構広めの部屋で。ベッドが窓際に2つ、入口のドアの反対側の隅に1つ。
 その横には、タンス代わりのロッカーがやはり一つずつ。
 そして、部屋の真ん中には粗末なテーブルとパイプ椅子があった。
 窓は、膝と腰の中間くらいの高さの窓が4枚。
 白茶けたような色のアルミサッシの窓の両脇には、くすんだグレーの無地のカーテンが無造作に寄せられていた。
 最初に部屋に入った時。そんな、薄汚れた感じのベージュの壁の色とカーテンの色。さらに床の薄いベージュのリノリウムの色を見て。その、あまりに色彩感のない印象に、「愛想がなくて、居心地の悪そうな部屋だなー」と思ったのを憶えている。

 ただ、それはその日のどんより曇った天候にもあったのかもしれない。
 というのも、部屋の窓には空のグレーだけが大きく映っていて。
 なんとはなしにその窓に近寄って外を見ると。そこには、ぼわぁーんと大きい暗灰色のQ川が、思ったよりも近くに流れていた。
 それは、上流の方を見ても下流の方を見ても、遠くにいくにつれて霞んでいく、同じような風景が連なっていた。
 また、Q川も、そんなに幅がある川ではないのだが、そんな風に、まわりの景色のトーンが同じだから大きく見えるのだろう。
 とにかく、部屋の中といい、外の風景といい。そこは、濃淡のない暗灰色が境なく、ただただぼわぁ~んとあるだけだった。

 その寮に入った時というのは、私はQ川の土手をずっと歩いてそこまで来た。
 私鉄の小さな高架駅を降り、ごちゃごちゃした商店街を通り抜けて。
 静まりかえった古い住宅地の細い道を通って、ぶつかったところがQ川の土手だった。
 そのゆるくうねった土手の上の道を延々歩いて。やっと、その寮らしいその建物が見えてきた時、私は目を疑った。
 というのも、その建物は水門の上にあったから。
 そんなバカな…とか。あの建物は違うのかなぁ…とか思いながら、私はなおも歩いていたのだが。
 やがて、建物が水門の上にあると思ったのは錯覚で、水門は建物のずっと手前あることがわかった。
 つまり、辺りの風景がどれも同じような色合いなのと、川ベリのせいかちょっと霞んでいたことで、遠近感が曖昧になってそんな風に錯覚したのだろう。
 ただ、その時っていうのは、その建物を含めて、何だか変な感じのする風景だなーと思ったのを憶えている。


 そういえば、寮に着いて部屋に行くのに廊下を歩いていた時も、やっぱりそんな変な感じを覚えた。
 そこは、片側が全部ガラス窓だというのに、なんとも陰鬱な感じで。
 こういう集合住宅のような建物って、屋根はあっても吹きっさらしという通路が多いのだが、そこは完全に建物の中にあった。
 そんな風に、通路が中にある建物といったら、学校や会社、役所等の公共施設、そして病院。

 私は、そっち方面のことは特に気にするって方ではなかったが、それでも元病院っていうのは気持ちのいいもんじゃない。
 でも、4階建の病院っていうのもないだろうと思いあたって。
 門柱には「○○コーポ」とあったが、もしかしたら最初はどこかの会社の寮として建てられたのかもしれないと思った。

 そんな、ちょっと変な感じのする寮だったが、チームの仲間が一緒になるとそれは一変した。
 社会人野球の寮だから、そこにいるのは元気溢れる若い奴らばかり。
 その騒々しさや汗臭さその他諸々で、そんな感じなんて微塵もなくなってしまって。
 色彩感のなく殺風景だった部屋も、たちまちアイドルのピンナップ写真が無造作に貼られて。気づけば、そこは居心地がいいんだか悪いんだか、よくわからない空間に変わっていた。


 そして、私が寮の暮らしに馴染んできた1ヶ月かそこらのこと。
 その夜、私は先輩に誘われ駅の近くの店まで飲みに行った。
 とはいえ、明日も練習はあるわけで、寮に帰ってきたのはそんなに遅い時間ではなかった。
 帰ってきた時、部屋が4階だったのは、たまたま私と同じ部屋の3人、つまり私とB田とC藤だけだった。

 それは、例の外の非常階段から4階に入って、廊下を歩いている時だった。
 ふと、前を歩いているB田とC藤の後姿が何か変だった。
 何というか、やけに遠くに見えるような…
 廊下も、やけに遠く(長く)感じる。
 いったい、部屋までどれだけあるんだろう…

 元々酒は弱い方だった。だから、階段を昇ったことで急に酔いが回ったんだろうと思っていた。
 そういえば、4階に入るドアを開けた時も、廊下がいつもより暗いなぁーと思ったのも憶えていた。
 それは、暗く感じるせいなのだろうか?明かりが充分に届かずに暗い、天井や床の端が微妙に歪んでいるように見えた。
 気づけば、今すぐにでもへたり込みたいくらいダルくって。
 プロ野球の結果を話している二人の声が、まるでフィルターか何かを通して聞こえてくるようだった。

 そんな私が、向こうからお婆さんがこっちに歩いてくるのに気がついたのは、廊下のどの辺りまで歩いた時だったのだろう。
 あれ?あのお婆さんって…
 あぁ。新しい手伝いの人か…
 チームのメンバーが増えたこともあって、管理人さん夫婦だけでは手が回らなくなって。手伝いの人を募集していたのだが、このお婆さんがそうなのだろう。
 そう。そういえば…
 そのお婆さんって、寮の中で何度か見かけた記憶があった。
 ただ…

 変だと思ったのは、前を並んで歩くB田とC藤が、お手伝いのお婆さんとすれ違った時だった。
 というのも、廊下の窓側を歩いていたお手伝いのお婆さんはC藤の肩のすぐ横を通ったというのに2人とも話に夢中だったからだ。
 それは、まるでお手伝いのお婆さんがいないかのように…
 そもそも、廊下を並んで歩いていて、前から人がきたら普通無意識に反対側に寄ると思うのだが。
 でも、2人にそんな様子は全くなかったのだ。

 え…
 違和感を覚えて振り返ると、やはり廊下の窓側を歩いているお婆さんの後姿が見えた。
 …!?
 そうなのだ。
 変といったら、そのお手伝いのお婆さんもそうだった。
 まるで、すれ違った私たちが存在しないかのように、横をサーっと。
 変なお婆さんだなぁー。ちょっと偏屈なのかなぁー。
 そんなことを思いながら、もう一度振り返ると。
 やっぱり、なぜかやけに遠くに感じる4階の出入り口。
 階段を降りるのだろう。ドアを開け、外に出ようとしているお婆さんの後姿。
 その後姿が、クルリとこっちを向いた。
「っ!」
 いや。それは、お婆さんが振り返ったのを見たというよりは。私の目が、いきなりそのお婆さんの目と合っていたことにドキッとしたと言った方が正しいのだろう。

 ドキッとしたのには、もう一つワケがあった。
 それは、お婆さんがこっちを見る何ともわからないその視線だった。
 微笑んでいるようにも、逆にこっちを睨んでいるようにも。というか、ただ傍観しているような目と言ったらいいのか…
 その時というのは、私はそのお婆さんの視線に何か答えようとしたのだと思う。
 だって、それは私が世話になっているこの寮のお手伝いの人だ。
 その人と目が合っているのに、挨拶も何もしないわけにいかないではないか。
 でも、その視線の感情の元が何ともつかめなくて…
 だからその時、私は会釈だけでもと思ったのだろう。
 軽く下げたつもりの頭。でも、それが急にガクーンと前に落ちていくのを感じた私は、慌てて右足を前に出して踏ん張ろうとしたんだと思う。
 でも、その足は思う場所にいかず、それどころかもつれるようになって。
 その瞬間、私の体は、まるでヘッドスライディングでもするように、前にバランスを崩していた。
 それと同時に、こっちを見ているお婆さんの姿が、私の視界から斜めに外れていったのも感じていた。
 その代わり目に入ってきたのは、リノリウムの床。
 あっ、あぁぁぁぁぁぁぁぁ…………
 それが、だんだんと黒く──。

 目の前が完全に真っ黒になったと、床が鳴るぱっつーん!という音はどっちが先だったのか。
「わっ!何だ?え、A山?」
「A山。おい!大丈夫か?」
 最初は、やけに遠くの方からだったが。でも、それはすぐ、体越しにB田とC藤の声が聞こえてきた。
「う、うーん…。」
 その時というのは、目の前がとにかく眩しくて。うめきながら私は手で目を隠そうとしていた。
「お、気がついた。」
「おい。大丈夫かよ?」
「あー。」
 光に目が慣れたのか。手をどけると、目の前に半ばシルエットのようになったB田とC藤の顔があった。
「何だよ、A山ー。
 オマエ、そんなに酔っ払ってたのか?」
「驚いたぜー。いきなり後ろでパッターンだもんな。」
「えっ!?
 俺…、どうしたんだ?」
 何かが合わさるように、意識がハッキリしたのはそのタイミングだったと思う。
 私は、慌てて起きようとしたのだが。でも、頭がずーんと重くて。思わず体を戻したら、ゴチンと頭が床にあたる音がした。
「イテ…。」
「おい。ホント、大丈夫か?」
「頭イテー…。」
「何だよ。ぶっ倒れた時にぶつけたのか?
 ハハハ。しょーがねーなー。
 うわっ。何だ、オマエ。熱、スゲーあるぞ!」

 その後は、部屋の中から他のみんなが出てきて、結構な騒ぎになった。
 ただ、いったん起き上ってしまえば、特に痛いというところもなく。
 ただ、熱はまだあったので、とりあえず寝ることにした。
 次の日、一応医者に行って検査してもらったのだが、特に問題はなくて。ま、結局飲み過ぎということになった。
 ただ、監督に言われたこともあって、医者に行ったその日は部屋で大人しくしていた。

 
 それから、何日か過ぎて。
 そう、そういえば。
 その間に、寮のお手伝いさんがもう一人増えた。
 なんと、若い女の子だったから、私たち全員大喜びだった。
 聞けば、管理人さんの姪っ子だとかで。今年から大学で東京に来たということで、学校の合間に来るらしい。
 快活でよく笑う子で、彼女はたちまち私たちのアイドルになった。
 私の毎日は練習に明け暮れる毎日だったが、そんな楽しいこともあった。

 そして。
 その日は、梅雨時を思わせるような蒸し暑い日で、朝から空のあちこちに重々しい雲が湧いていた。
 暑さに体が慣れた7月8月ならともかく、つい先だってまで寒いなんて日もあった5月の頭だ。
 誰もが、そのむし暑さにはバテていて。しまいには、グラウンドの木陰でひっくり返っている者まで出る有様だった。
 ただ、私は7月生まれのせいか、子供の頃から暑いのは平気な方で。その時も、ノック練習で外野の守備についていた。

 朝方あちこちに湧いていた雲は、その時には厚い暗いグレーの雲となって川の向こうを覆いつくしていた。
 そのくせ、反対側からは薄日も差しているもんだから、気温も蒸し蒸し感もさらに上がっていた。
 河川敷にあるグラウンドだけに、湿度も上がりやすいのだろう。
 とはいえ、ユニフォームを絞れば滴ってきそうなくらい汗をかいてしまうと、逆に体は慣れてしまうのか。今思い出しても、あの時、私の体の調子はよかったはずだった。

 それは、突然視界の端に入ってきた。
 とはいえ、その時はノックを受けている最中。私は、意識して監督の動きとボールに集中しようとしていた。
 練習を見物する人はよくいたから、視界の端に見えたそれもそうだと思ったのもあった。
 でも、次第に変な感じが増していったのだろう。
 というのも、それはまるで立ち木のように、ずっと土手の上で動かなかったからだ。
 いや。それは木ではなく、人だというのはわかっていた。
 だって、毎日練習しているグランドだ。
 そこら辺に木なんてないことは、何となく頭にあったし。また、前にも言ったが、私たちの練習を見物している人って結構いたからだ。
 ただ、そのうち。私は、その全く動かない人影が見ているのは、もしかして私なんじゃないかって気がしてきたのだ。
 さっと見たのは、たぶん、動かないその人影が寮のバイトの女の子なんじゃないかって期待したんだと思う。
 あの子が見てるんだったら、カッコいいとこ見せなきゃなって。
 ほんの一瞬、その土手の人影に目を向けたのだ。

 それは、灰色の空を背景に立っていた。
 もちろん、人だった。
 ただ、川向こうが雲で真っ暗だったのに対して、そっちは薄日も射していたから、顔が全然わからなかった。
 そのシルエットからだろうか?なんとなく、それは年配の女性だと思った。
 うん!?お婆さん?
 お婆さんっていえば、あの夜、廊下ですれ違った…
 あ、あのお婆さんか…
 
 いや。それが、私が酔っぱらって倒れた夜に廊下ですれ違ったお婆さんなら、それは寮のお手伝いの人なのだから、その反応はちょっと変なのだ。
 変なのだが、でも私はその時そう思ったのだ。
 
 ま、こんな風に言ってしまうと失礼なのだが。その時、私はそれがお婆さんだとわかったことで、頭の中でずっと気になってしょうがなかったその人影は、急にどうでもいいことに変わったんだと思う。
 それはそうだろう。その時の私は20代前半の男だ。
 若い女性の存在は自然と目に入ってくるが、でもお婆さんとなると、ある意味それは空気のように、そこにいても目に入らなくなってしまうのだ。
 それは、人の本能としてしょうがないと思うのだ。
 なのに、もう一度そっちを見たのは、やっぱり視線を感じたからなんだと思う。
 それは、今見たのと全く同じ。
 灰色の空を背景に立っていた。
 え…
 そう。それは、確かに私を見ている……
 ただ、それは、傍観してるようなそんな目――。

 記憶は、そこでブッツリ途切れている。
 唯一憶えているのは、いきなり体にガツーンと衝撃を感じたこと。
 と、思う間もなく、目の前が真っ暗になったこと。


 後から聞いた話では、その時というのは、監督がグラウンドでボーっとしていた私を大声で怒鳴りつけていたらしい。
 ほかのみんなは、監督さんが怒っているというのに、ボーっとしたままの私を心配そうに見ていたのだが。
 やがて、見かねて私の名前を口々に叫んだんだと。
 すると、さすがにそれには気がついたのか。私は、一声あげて守備の姿勢をとったらしい。
 監督は、それでも私の様子に不安を覚えたのだろう。
 「A山!行くぞ、いいか?」と念押しするように呼びかけた。
 私は、それに掛け声とグローブをバシッと叩いて答えたらしい。
 それを見た監督は、私を目がけて鋭いゴロを一発。
 それは、その刹那。
 みんなの視線が、ボールを打つ監督に移って。さらに、その視線が打球を追った時には、私はもうグラウンドに倒れていたんだそうだ。
 そして。その場にいた誰もが「あっ!」っと思った時には、打球の方に倒れていた私の頭にボールが吸い込まれるように。
 その瞬間、グラウンドに鈍い音が響いたと思ったら。
 倒れている私の体は、激しく痙攣して……


 グラウンドは、もう騒然だったらしい。
 すぐに救急車が呼ばれて、私は病院に運ばれた。
 私自身の記憶があるのは、そこからだ。
 それでも、いろんな検査を受けている時の記憶はどこかぼーっとしている。
 でも、医者から検査の結果を聞いた時には、意識はハッキリしていたと思う。
 幸いというか何というか、私は頭に大きなコブが出来たくらいで、他に異常はなかった。
 とはいえ、検査やら何やらで通院しなきゃならないのもあって、私は監督さんから1週間の練習禁止を言い渡された。

 それは、寮と病院を往復するだけの毎日。
 いや、病院に行くのはまだよかった。寮の部屋で一人いるのは、とてもじゃないけど耐えられなかった。
 せめて、グラウンドにいさせてくれと頼んだのだが、監督にはとにかく1週間ゆっくり休めと言われて。
 しょうがないので、私は管理人さんに手伝いを申し出た。
 そこには、これを機会にバイトの子と仲良くなれればという思惑もあった。

 そして。
 それは、監督から練習禁止を言い渡されて5日ほど経ったお昼過ぎのことだった。
 昼食が終わって、みんなは練習に戻っていた。
 私は、昼食の片づけを終えて。管理人さんとお茶を飲みながら雑談をしていた。
 管理人さんの奥さんは買い物で、そこにいたのは私と管理人さんだけだった。
 管理人さん、実は写真が趣味だとかで、私に自分が撮った写真のアルバム見せてくれた。
 やっぱり、見てくれる人がいるのはうれしいのだろう。
 管理人さんは次から次へと、私の前に自慢の写真が収まったアルバムを積み重ねた。
 いや、私だって暇な身だ。その時は、それらのアルバムを一冊一冊、じっくり見ながら管理人さんと笑って話していた。

 そんなアルバムをめくる私の手が止ったのは、古ぼけた木の仏像の写真を見た時だった。
「うん?」
 その仏像の顔に見覚えがあった。
 あれ?これ、誰かに似てる…
 えー、でも誰だろ…
「おい。どうしたんだい?」
 アルバムをめくる手を止めて、ボーっとしている私を見て心配になったのか。ちょっと慌て気味に管理人さんが声をかけてきた。
「え?…。
 あぁっ。いえ、なんでもないです。ふぅー。」
 私は、そう言いながら、アルバムをめくろうとして…。
 でも、急に何かがよぎって。再びページを元に戻して、仏像の写真をもう一度見た。
「えぇっ!?これって、あのお婆さんじゃ…。」
 そう。その写真の仏像は、あの夜4階ですれ違ったあのお婆さんにそっくりだった。

 いや。繰り返すようだが、そのお婆さんは寮のお手伝いの人なのだから、その反応は変なのだ。
 変なのだが、やっぱりその時も私はそう思った。
 「あのお婆さん」と…。
 その表現は、寮の手伝いの人なのにも関わらず、妙に他人めいていた。
 ただ…
 それが変なのだとしたら、その後私が言ったことも変だった。

「そういえば…。」
「え、何だい?」
「あ、いえ。ほら…
 お婆さん。お手伝いのあのお婆さん。
 ここ2、3日見ませんけど、どうしちゃったんです?お休みですか?」
「…!?」
 管理人さんは、ポカーンと。その顔のまま、しばらく私を見ていた。
 が、やがて大笑い。そんな笑いを残しつつ、でもちょっと戸惑った口調で、また話し出した。 

「な、な、なんだよー。アッハハハ…。
 A山クンって、意外と口が悪いんだなー。ハハハ。
 そ、そりゃ、ウチのもずいぶん齢だけどさー。
 でも、さすがにまだお婆さんってほどでもねぇーだろー。
 ぶっ。アッハハハ…。」
 一方、今度は私がポカンとする番だった。
 管理人さんの言った、口が悪い、ウチのもずいぶん齢、まだお婆さんってほどでもないっていうのが全然わからなかったのだ。
 でも、管理人さんは、奥さんとお手伝いのお婆さんを勘違いしているのだと気がついた。

「か、管理人さん。違いますって。
 俺が言ったのは、おばさんのことじゃないですって。
 おばさんは、お婆さんどころか、まだ全然若いじゃないですか。
 俺が言ったのは、おばさんのことじゃなく、お手伝いのお婆さんのことですよ。
 あ、いえ。もちろん、姪御さんのことでもないですよ。
 だから、お婆さんですって。こう言っちゃなんだけど、ちょっと無愛想な感じの…。」
 すると管理人さんは、ぷつっとゲラゲラ笑いを止めて。そして、今度は怪訝そうに眉にしわを寄せた。
「お婆さん?無愛想な感じ?
 なぁ、A山クン。
 キミは、いったい何を言ってんだい?」
 見れば、管理人さんの顔に、つい今までの親し気な表情が消えていた。
「あ、いえ、だから…。
 ほら、オレが酔っ払ってぶっ倒れた夜ですよ。
 あの時、お手伝いのお婆さんが廊下を歩いてて…。」
「お手伝いのお婆さんが廊下を歩いてた!?えぇっ?
 あぁー、A山クン。
 酔っ払って、ウチのをお婆さんに見間違えたんじゃないのかい?
 だって、お婆さんも何も、ウチの姪っ子を除けば、ここには俺たち夫婦しかいないよ。」


 その夜。私は、あの夜一緒にいたB田とC藤に、お婆さんのことを聞いた。
 でも、2人とも怪訝な顔で「知らない」と言うばかり。
 グラウンドに立っていたお婆さんについては言うまでもなかった。

 監督に呼ばれたのは、たぶん管理人さんから聞いたからなんだろう。
 私は、監督の指示で、もう一度病院で検査してもらうことになった。
 しかし、再度の検査にも異常はなく。
 結局、何となくうやむやになって、私ははまた練習の日々に戻ることになった。

 私がまた練習中に倒れたのは、練習に戻って1ヶ月ほど経った時だった。
 また病院に担ぎ込まれたのだが、でも気がついた後はケロリとしている。検査しても、特に異常は見つからない。
 そして、その後もそんなことが何回かあったのだが…
 いや。実際にそれを見たのかどうかは私自身定かではない。
 でも、倒れるたんび。直前にあのお婆さんの姿を見た記憶が残っていた。


 監督との相談の末、結局、私はそこを辞めることになった。
 それは、私がチームの合宿所である寮を出て行く日。
 その日は、そこに最初に来た日のように、湿度が高い陰鬱な空模様だった。
 ちょっと遠回りなのだが、私は土手を歩いてグラウンドまで行くことにした。
 そこは、たぶんもう2度とくるはずのない所。
 だからこそ、行かずにはいられなかったのだろう。
 なぜなら、私にとって野球というのは小学生の頃からずっとしてきたこと、そしてそれを続けることが私の夢だったから。

 みんなが練習しているグラウンドを、私は土手に座って、しばらくぼーっと眺めていた。
 監督の声、みんなの声…
 ボールを打つ音、グローブがボールをつかむ音…
 そして、グラウンドの匂い…
 私はそこで、確かにそれらを感じていたはずなのに。
 なぜか、そこにいる誰もが私のことに気がつかないみたいで…
 B田もC藤も監督も、その他のみんなも、いつも通りに掛け声あげて、走って、打って、投げていた。
 その風景には、土手に座っている私が存在してないみたいだった。

 あの時。
 私は、どのくらいそうしていたのだろう。
 それはよく憶えていない。
 気がついた時、私は土手を歩いていた。
 急に堪らなくなって、私は立ち止まり。そして、寮の建物を振り返った。
 それは、初めて見た時と同じように、まるで水門の上にあるように見える変な風景だった。
 そう。やっぱり、あの時のように水蒸気に霞んでいた。
 あそこが、オレがいた部屋なんだなぁ…
 そんなことを思いながら、しみじみ眺めていたんだと思う。
 でも…
 いきなり、私は背中にゾクっとくるものを感じた。
 それは、変な怖さだった。
 まるで、自分がいつの間にか幽霊か何かになってしまったような…
 その、ふっと死にたくなるような心許なさ…
 私なんかいないかのようにふるまっていたそれが追いかけてくる恐ろしさに、駅まで走ったのを憶えている。



                            ―─ 「川べりの風景」〈了〉


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2016
05.12

カゼひいたー


 カゼひきました。

 なんで、よりによってこんないい天気の日に?



          カゼひいた時って、なんかこんな気分になりません?(笑)



 ていうか、何でこのブログ、あちこち文字が太くなっちゃってんだろ?
 FC2ブログって、時々こういうのあるよなー。
 テンプレートがいつの間にかなくなってみたり、文字の色が勝手に変わったり。
 サービスの一環と思ってやってるなら、それ、全然勘違いなんで。
 やめてね!(笑)
 


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2016
05.08

ニラがくさい! もぉ目が回りそうなほど!



 先週の土曜日…、正しくは先々週土曜日(4/30ね)に、ニラを買ったんだけど、食べるの、つい忘れちゃったんです。

 金曜の夜、慌てて見たら、案の定傷み始めてて。

 ま、それでも、葉っぱ10本くらいだったかな?
 しょうがないから、それはポリ袋に入れて捨てたんだけど、いやもぉそれからというもの、ゴミ箱、開けるたんび、くっさい!くっさい!
 いやはや、もぉ~スんゴイ匂い(泣)
 
 たかだか、ニラの葉10本で、何であそこまで凄まじい匂いになるんだろう?
 もしかして、ニラの恨み? それとも、祟り?(笑)


 例えば、ニンジンとか腐っちゃっても、そんなに匂わないのに。
 葉っぱ系の野菜とかって、傷むとスゴイ匂いになるんだよなー(泣)
 あれは、ウ○コの匂いっていうか、もはや、ボットン便所の匂いってくらい強烈です(爆)

 あと、葉っぱじゃないんだけど、ブッコロリが腐っちゃった時も地獄だった……

 ま、とにかく。
 せっかく買ったんですから、今週は腐る前に全部食べちゃいたいもんだなぁ~(笑)





 そうそう。
 金曜の夜、残りのニラ全部食べちゃったもんだから、次の日、午前中いっぱいくらい息がニラ臭くって。
 いやはや。そっちも、参った、参った(爆)
 


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2016
05.08

怪談16.5.8

Category: 怪談話-番外
 
 L子さんは会社の帰り、近道にある公園を通ることがよくあったそうです。
 その公園。花壇や噴水があったといいますから、結構大きな公園で。
 噴水のある池には、腰かけられるくらいの高さのコンクリの縁がグルリとあって。
 いつもだったら、その噴水の池のすぐ横を通って、それから花壇の脇を抜けていくのですが…。

 ところが、今夜は噴水のところで一組のカップルがキスの真っ最中。
 それも、かなり熱烈なキスだったとかで。

 まだ宵の口といっていい時間。
 公園の周りに立ち並ぶオフィスビルには、どこも明かりがまだ煌々と点いているというのに、まぁなんと言うか。
 オイオイ…。
 自分の存在を気がつかれるのもなんかイヤだしとL子さん。仕方なく、いつもの花壇の脇でなく、木々の中の小道の方を通ることにしたんだそうです。

 そんなL子さんは小道に入る時、なんとなーくもう一度カップルの方を見たらしいんです。
 それは、ウンザリ半分、でも期待も半分(笑)

「もぉー、まだやってるぅー。」
 お二人さん、よっぽど感極まっちゃったんでしょうか?
 いやもぉ、もんの凄い熱烈ぶりです。
 そんなアツアツ二人に、なぜかちょっとイライラしてきちゃったL子さん。視線を戻して、歩き出そうと思ったのですが、ふと…

「え?アレって何?」
 例の熱烈カップルの後ろ。噴水の池の向こうに、なにやら白くモコモコした感じの大きなモノが…
「なんなのアレ?犬!?」
 犬としたらかなり大きな犬で、L子さんはピレーネー犬かな?と思って足を停め見ていたらしいのですが…。
 ふと、自分に向けられている、イヤーな感じの視線に気づいて。
 見れば、例の熱烈カップルの2人の非難めいた視線。それが、L子さんの全身にビシビシ伝わってくる。

「げっ!」
 こりゃヤバイと、木々の中の小道に足早に逃げ込んだL子さん。熱烈カップルの視線から逃れられてホッとしたものの。
 でも、「なんで、わたしが気まずい思いしなきゃなんないのよ!」と。
 ちょっと憤慨しつつ歩いていた時。
 え…
 それは、後ろから誰かが追いかけてくる気配。

「げっ。もしかしてあのカップル、追っかけてきた?」
 L子さんが、慌てて振り返ると。
 それは、熱烈カップルの傍にいた、白いピレーネー犬みたいなデカい犬。それが、モコモコ、モコモコこっちに歩いてくる。

 いや。これで、シェパードとかドーベルマンみたいな犬だったり、もしくは吠えて走ってくるんなら、L子さんも身構えるとか逃げるとかしたのかもしれません。
 でも、相手はモコモコのピレーネー犬。
 それが、可愛くモコモコモコモコと、親しげに歩いてくるものですから、つい…
「おいで、おいで。」
 犬好きのL子さん、思わず両手でオイデオイデをしたんだそうです。

 それに気がついたのか何なのか。そのピレーネー犬は、モコモコ歩きを早めてL子さんの方に。
 モコモコ、モコモコ。モコモコ、モコモコ……。
 ところが。
 えっ!ピレーネー犬じゃない!?
「えぇっ!ひつじ!?うっそーっ!」
 モコモコとこっちにやって来るソレは、まぎれもなく羊。
「羊!?羊って、ここ東京のど真ん中よ!?」
 L子さん、思わず周りを見回しちゃったといいます。
 そんな場合だというのに。

 ところが、L子さんが思う以上にとんでもないことが起きたのは、羊がこちらにやって来る途中だったそうです。
 モコモコ、モコモコ歩いていたその羊が、目の前でスーっと……
 なんと、消えちゃった。
「えっ!?」
 唖然と、その場に立ちすくんでいるL子さん。
「きゃっ!」
 それは、足をさっとかすめていった触感。
 驚いたL子さんは、その場にデーン!と、尻餅。


 L子さんはこう言います。
「モコモコしたナニカが、確かに、立っている私のすぐ横を通り過ぎて行ったのよ。
 ホントホント。
 モコモコした感触が、足をかすってった感じしたんだから…。
 でもね、それはぜんっぜん見えないの。
 アレってなに?ひつじのオバケ!?」



               ―― 『モコモコ怪談:その1.ひつじのオバケ』〈了〉


 で、これはA太郎さんという方の大学時代。
 当時のA太郎さんが住んでいたアパートは、西日が直接あたり、夏といえばとにっかく暑かったんだそうです。
 昼間は大学かバイトですから、部屋は当然1日閉めっぱなし。
 ギランギランの夏の太陽に丸一日照らされたその部屋は、学生ですからエアコンなんてあるわけもなく。
 いやもぉ堪ったもんじゃなかったでしょうねぇ…

 その夜も、やっぱり熱帯夜。
 いやもぉ、それこそ3分に1回は「アヅイぃぃぃーっ!」と言わなきゃやってられないような凄まじい熱さです。
 A太郎さん、その夜は早々と寝るのを諦めて。窓に腰かけ缶ビールを飲んでいたらしいんです。
 真夜中、窓に座って。好きなジャズを音を絞ってかけながら、煙草をくゆらせつつ缶ビールを飲む……

 なーんていうと、ちょっとカッコイイ感じもしますが、いやもぉそんなこと言ってられないような暑さです。
 気づけば、缶ビールの空き缶が足元に1本、2本。さらに、3本…。


 A太郎さん、そのうち酔いがまわってきたのか?それともバイトの疲れか?
 窓に座ったまま、とろーっと眠りに落ちかけちゃぁ、首がガクっとなって目を覚ます。
 とろーっと落ちかけちゃぁ、首がガクっていうのを何回か繰り返してたらしいのですが。
 それは、何度目のガクっかわかりませんが「あ、もう寝れるかも?」と思った時のこと。

 A太郎さんの座る2階の窓の下の道。
 そこを、スタスタ、スタスタ足早に通り過ぎていく変なヤツ……

 それは、スカートをはいたネコの着ぐるみ。
 一人…、いや一匹と言うべきなのか……

「ええぇっ!?」
 よく見ようとA太郎さんが窓から身を乗り出した時には、ネコの着ぐるみは角を曲がる後姿だけ。
 頭の後ろの丸くモコモコした感じとスカートが、建物のかげにスーっと吸い込まれていった。


 昼間だったら、笑っちゃったのかもしれないけれど、今は真夜中。
 今のネコの着ぐるみ以外、歩いているものなどいない。
 その瞬間、A太郎さんの背中を、ゾクゾクっと走った変な悪寒。
 つい今しがたまであんなに暑かったというのに……

「着たまま通勤。
 ……ってことはないよなぁー。」
 というのは、A太郎さんの言葉だが、それを言ったA太郎さんをその後見かけた人はいない……
 
 ……な~んてことは全くない。



               ―― 『モコモコ怪談:その2. あのキャラクター』〈了〉


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2016
05.05

♪せぇ~んろは続くぅ~よ~ って、もぉ続きすぎ(泣)

 思えば、今年の1月の終わりのことでした。

 テレビの番組表を見てたら、
 「あ!世界の車窓から、2月からインドのラジャスタンだって」

 てことで、早速録画予約。
 いやもぉ嬉々として見てたわけですがー


 ところが、3月になって。
 「あれ?今月もラジャスタンなんだ…」

 そして、4月になって。
 「え!ラジャスタン、まだ続く?ヤバ…」

 というのも、ウチのハードディスクレコーダー、もぉパンパンで。
 『世界の車窓から』ですら、やりくりが結構苦しいと(笑)


 で。
 4月の最終週の月曜日ですよ。
 「ラジャスタン、さすがに4月で終わりだろー。ていうか、頼むから終わってくれ!」
 って、もぉ大期待で番組表を見たら……

 やっぱり、ラジャスタン。

 いやもぉ「いったいいつまで続くねん!?」って、思わず、目ぇ、白黒(爆)


 さすがに慌てて。
 「世界の車窓から」のホームページを見てみたら、ラジャスタンは5/6までとかで、ホッとしたんですけどー。
 でも、それ以前に「えっ!放送1万回!?」って、もぉ唖然。

 なんとまぁ87年の6月からやってる(ウキペディアより)とかで、しっかしまぁ87年って、バブル真っ盛りで地上げ屋が大活躍してた頃だよなーなんて(笑)
 というよりは、87年からこのかた、いろいろ変わったなぁ…なんて、ちょっと感慨にふけっちゃったりでー(爆)

 って、まさに♪せぇ~んろは続くぅ~よ~どぉ~こま~で~もぉ~~~なお話なわけですが、
 ま、それより何より、今日はいよいよジャイサルメール到着と!
 いっやー、ジャイサルメール。ムッチャクチャ行きてぇなぁ~なんて。
 やっと終わるんで、もー気持ちが軽い!軽い!(笑)





   でも、今度は『世界の街道をゆく』で南インドが始まっちまったぁ~い!
   てことで、ハードディスクレーダーのやりくりは続くよ、♪どぉ~こま~で~もぉ~~~
 
 
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2016
05.04

世の常識を疑え!


 いっやー。
 ウン十年生きてきましたけど、私、ずっと間違って覚えてました。

知らなかった…


 いやもぉ、反省すること、しきりです。
 ていうか、反省しなきゃならない人、私以外にもイッパイいるんじゃないかなぁ~(笑)

 いや。
 実は、八百屋の人、
 「レタスが、たけのこになってるよー!」
 って、奥の人に叫んでたんですけどね(爆)






      ていうか、野菜。ずっと高すぎ!
      ったく。この国は、まともに貧乏も出来やしねぇっ!(爆)

 
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2016
05.04

怪談16.5.4 その2

Category: 怪談話-番外

 物件怪談ではないのですが、子供の声が絡む変な体験というのは私にもありまして。
 ということで、そんなお話を。
 

 スキー場のリフト待ち30分というのが、ごくごく普通だった頃のこと。
 正月2日。早朝に東京を出た私と友人は、スキー場の集まるN県のQ駅で降りると。宿泊案内所でG館という宿を紹介してもらい、バスでその宿のあるスキー場に向かいました。

 そのスキー場へは何度も行っていたので、そのG館のことは知っていました。
 というのも、そのG館。付近の民宿に比べ規模が大きいのもさりながら、なんとリフトの脇に立っているのです。
 つまり、宿からリフトまでスキーで行き来出来るわけで、歩くのが大嫌いなスキーヤーにとってこんな魅力的なことはありません(笑)
 Q駅の宿泊案内所でその宿を紹介された時は、いい宿がとれたと友人と大喜びでした。

 ところが、泊まってみてわかったのですが、そのG館という宿はその付近の宿の中で一番よくない宿でした。
 普通、スキー場の宿の食事といえば、おかずはあらかじめテーブルに並べておいて。ご飯と汁物は、宿泊客がテーブルについてから運んでくるものです。
 でも、そのG館ではご飯も汁物もあらかじめテーブルに並べてあるのです。
 当然、ごはんも汁物も冷えきっていました。
 というか、それ以前に従業員の応対がかなり不快で。
 年配の男性が、食堂に来た宿泊客を、まるで命令でもするかのような口調で席に誘導するんです。
 その他、風呂や乾燥室では、大学のスキーサークルの連中が我がもの顔に騒いでいたりと。
 部屋に帰ってから、私と友人は「この宿、いままでで最悪だな」と話していました。
 ただ、そうは言っても、久しぶりの友人とのスキーです。
 私と友人は、1時くらいまでおしゃべりをして寝ました。

 それは、眠って何時間か経った頃でした。
 キャっキャっ。キャっキャっ。
 わー!わー!わー!わー!
 キャハハハー!キャハハー!
 バタバタバタバタバタバタバタバタ……
 寝入っていた私は、廊下でどたばた騒いでる、何人かの子供の声で目が覚めたんです。
 時計を見れば、4時ちょっと前。
 真冬(正月2日)の4時ですから、まだ真っ暗です。
 子供は4~5人くらいでしょうか?
 時々耳障りな甲高い声が混じることからして、幼稚園か小学校低学年くらいという感じでした。
 何を言っているかはわからないのですが、大声で話したり笑ったり。
 かと思うと、廊下をドタバタとあっち行ったりこっち行ったりと、もぉ大騒ぎです。
 この夜中に何騒いでるんだろう。
 親は何にも言わないのかなー。
 しかし、ここってホント最悪な宿だなぁ…
 私は、そんなことを思いつつ。でも、また寝入ってしまいました。


 再び目が覚めた時は、もぉ明るくなっていました。
 カーテンを開けると、外は快晴で目を開けてられないくらい。
 宿の脇にあるリフトは、もうカタカタと動いていました。
 私は、この不快な宿にいるのもイヤだったこともあって、とっとと滑りに行こうと。寝ている友人を起こして、朝食を食べに行きました。

 それは、食事も食べ終わって、ぼーっとお茶を飲んでいる時でした。
 ふと、私は友人に明け方の子供の大騒ぎのことを話したんです。
「明け方、子供が大騒ぎしてうるさかったろう。」
「子供?えー、知らない。何時頃?」
 あの大騒ぎを友人は全く知らなかったようでした。
「4時ちょっと前くらい。
 オマエ、あんな大騒ぎだったのに目が覚めなかったの?」
「えー、全然知らない。
 ていうかオマエ、夢でも見たんじゃないの?」
「夢じゃないって。
 オマエ、オレが目覚めがいいの知ってるだろう?」
 自分でも言うのもなんですが、私は目覚めがやたらいい方で。それは、友人も知っていることでした。
「そういやそうだよなぁ…。
 でも全然知らない。
 そういう意味じゃ、オマエも知ってるだろうけど、オレは目覚め悪い方だし。」
 友人がそう言うと、私もおかしくなってきて。その後は、二人で大笑いしながら食後のお茶を飲んでいました。

 ところが、友人は急に真顔になって。湯呑を口の方に持っていった、そのままで言いました。
「でも、それって変じゃないか?」
「変って、何が…。」
「4時だろ?4時っていったら、まだ暗いよな?」
「うん。真っ暗だった。」
「そんな時間に、子供だけで廊下にいるか?
 だって、幼稚園か小学低学年くらいだったんだろ?」
「うん。あの甲高い声からして、そのくらいだろうなぁ…。」
 あの耳障りな甲高い声を思い出しながら私が言うと、友人は怪訝そうな目をして。
「この季節の4時っていったら、一番寒い時間だろ。
 いくら宿の中っていったって、廊下だろ。下手したら氷点下だよな。
 そんな時に、そんな小さい子だけで廊下にいないだろー。」
「だから、一人がトイレに行くんで。
 みんな一緒に行くことにしたとか…。」
「夜中の4時だぜ。しかもこの寒さ。
 自分のウチならともかく、普通親を起こして行くだろうー。
 親がついてれば、どんなバカ親だってなんかは言うよなー。絶対。
 だって、何より自分が寒いわけだし、眠いわけだし…。」
「あ。そうだよなー。」
「だってよ、ずっと騒いでたんだろ?
 廊下をあっち行ったり、こっち行ったり…。」
「うん。あっちからバタバター!キャハハハー!って来たかと思うと。
 今度はこっちからバタバター!キャハハハー!って。
 しばらく騒いでたな…。」

 そう。私は、うるさいと思いながらも、いつの間にか眠ってしまったので確かではないのですが。でも、記憶にある限り、あの大騒ぎは一往復や二往復ってことはありませんでした。
 そんな風に、私がその時のことを思い出していた時でした。
 友人がポツリと。
「オマエさ。それ、座敷童子じゃねぇ…。」
 いや。友人そう真顔で言った後、すぐに笑ったのですが……


 それは、その日まる一日滑ってその宿を後にする時でした。
 私は、何となくその宿を振り返ったんです。
 その宿の従業員の応対は、最後の最後まで不愉快なものでした。
 リフトのすぐ傍という立地だからこそ、あんなサービスでもやっていけるものの。でも、また利用したいと思う人はいないんじゃないかってくらい最悪な宿でした。
 そう。確かに、こんなにゲレンデに近くはないものの、気持ちよく泊まれる宿なら辺りに沢山ありました。
 あそこだって…、あの宿だって…。
 どこだって、気持ちよく泊めてもらえました。

 私は、もう一度その不愉快なG旅館を振り返った。
 その、付近にある宿よりも一際大きく、まるで小さな城のように建っているG旅館を。

 座敷童子のいる家は栄えるといいます。
 そういえば、その宿もまるで小さな城のような構えの立派な宿でした。
 とはいえ。
 座敷童子は、所詮座敷童子。
 人間世界での善し悪しなんて、座敷童子には関係ないってことなのか……



                      ―― 『所詮、妖怪は妖怪(笑)』〈了〉

   
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   G館は、今でもあるようです
   ただ、ネットで見ると、あの頃とは建物が変わっているので経営者が変わったのか、
   それともますます栄えているのか…





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2016
05.04

怪談16.5.4 その1

Category: 怪談話-番外
 東京近県のとある地方都市に住んでいるB山さんの住まいっていうのは、モダンなたたずまいの3階建てのアパートの3階。
 1階と2階は2LDKで、若い夫婦、あるいは小さな子供がいる世帯が借りていて。B山さんの住む3階は1Kの部屋で、単身者ばかりだった。
 それは、B山さんがそこに引っ越してきて何ヶ月か経った、夏の終わりのある日曜日の夕方のことだった。

 夏の終わりのありがたくない風物詩といえば台風。
 その時っていうのは、日本列島の上に秋雨前線が長々と居座って。南西諸島の方から近づいてきた台風が秋雨前線に湿った空気を次々と送り込んでくることで、雨が毎日降り続く一番イヤなパターンだった。
 そう。雨は、先週の中頃からずっとだった。
 この週末も、結局ずっと雨。B山さん、考えてみれば金曜日に会社から帰ってきてから一度も外に出ていなかった。

 あぁ~あ…
 せっかくの週末だっていうのになぁ…
 そんなことを思いながら、B山さん。一人ベッドに寝っ転がって、ぼーっとテレビのニュースを見ていた。

 うわぁ。明日も雨かぁ…
 月曜日ってだけで憂鬱なのに、雨となればなおさら。
 しかも、ニュースによれば、台風の影響が本格的に出てくるのは今日の夜からだとかで。
 あぁ~あ…
 そういえば、外は雨風が強まってきた様子。窓から見える雲がやけに黒く、そして早く動いていた。
 風向きが変わったのか、ふいに玄関の方から聞こえてきた激しい雨音。
 空で、ぐぉぉーという音がして、ドアがドン!と鳴った。

 あぁ~あ…
 玄関の方から雨が吹き込んでくる時っていうのは、ドアを開けた途端びっしょり濡れてしまうのだ。
 せめて朝だけでも止んでてくれるといいんだけどなぁ…
 明日の朝、家を出る時の憂鬱を思ったB山さん。仰向けになって、ぼーっと天井を見上げていると、そこにテレビの画面の明滅が映っていることに気がついた。
 あれ。いつの間にかこんな暗い…
 それは、外の黒い雲のせいなのか、それともいつの間にか日が短くなっていたのか。

 あぁ~あ…
 いったい、さっきから何度目のため息か。
 そんな中。
 うん!?
 それは、玄関の向こう。
 パチパチと玄関のドアに吹き付けている雨音に混じって聞こえてきた子供の声。
 それも、1人や2人じゃない。何人かの子供が騒いでいる声だった。
 あ、下の階の子どもかな…
 この雨で外で遊べないものだから、たぶん通路で騒いでいるのだろう。
 そして、それはふいに大きく。
 あれ。何だよ、この階まで上がってきやがったのかよぉ~?

 これまでも子どもの騒ぐ声が聞こえてきたことは時々あったのだが。でも、B山さんの部屋のある3階まで上がってきたことは一度もなかった。
 まぁなぁ…
 子供たちも、この雨にいい加減ウンザリなんだろうなぁ…
 なんて思った時だった。
 キャっキャっ。キャっキャっ。
 わー!わー!わー!わー!
 キャハハハー!キャハハー!
 バタバタバタバタバタバタバタバタ……
 それは、玄関のドアのすぐ向こう。3階の通路を走り回っている子供たちの騒ぎ声。

「うわっ!うっるせ。」
 その騒々しさに驚いてそう言ったと同時だった。
 B山さんの頭に、なぜか外の子供たちが部屋に入ってくるイメージが浮かんだ。
 もちろん、普通だったらそんなことはない。
 いや。絶対あり得ないわけではないが、でもまずないこと。
 というより、そういうことは普通思わないとのだが、でもその時はB山さん、なぜか「あ、ヤバイ」と。慌ててベットから飛び起きて、大急ぎで玄関に行ってみれば……
 案の定、ドアの鍵は開いていた。

「うわっ。ヤバ…。」
 鍵をかけようとしたB山さん。
 と、その時。そう、たぶんその瞬間というのは、外の子供の声が聞こえてなかったからなのだろう。
 玄関のドアを開けて外を見てみようと、B山さん。片足だけサンダルをつっかけて、ゆっくり、そーっとドアのノブを回した。
 カチャ。
 ドアの開く、微かな音。と同時に肌にまとわりついてきた、生暖かくてベタっとした空気。ザーっと耳をつく雨音。
 わずかに開いたドアの隙間から見える、青黒く染まった近所の風景。
 さらに、そのすぐ上を、すごい勢いで通り過ぎていく雲、雲、雲…。
「……。」
 それは1秒もない間だった。
「うわっ!」
 思わず声をあげたB山さん。
 それは、そーっと開けたドアのわずかな隙間の向こう。外の風景を見たB山さんの視線よりずっと下。
 それは、小さな女の子。
 まるで、何か不思議なモノでも見るかのような目で、B山さんのことをじっと見上げていた。

 1秒の何分の一か絡み合っていた、B山さんとその女の子の目。
 でも。
「な、なんだ、お前…。」
 そう言ったか、言わないかのタイミングだった。
 開いたドアの隙間の向こうに、パッと消えてしまった女の子の姿。
 その途端、ドアの向こうから聞こえてきた、子供たちのはしゃぎ声。
 キャっキャっ。キャっキャっ。
 わー!わー!わー!わー!
 キャハハハー!キャハハー!
 バタバタバタバタバタバタバタバタ……
 その声は、大した長さでもないこのアパートの通路のどこに行くんだというくらい、さーっと遠ざかっていく。

 反射的にその音を追おうとしたのだろう。
 でも、ガタンと勢いよくドアを開けた時には、それはもうどこにもなくて。
 そんなB山さんの顔に、いっせいに降りかかってきた大粒の雨。
「うっ。」
 雨は、B山さんの髪と顔をみるみる間にびしょ濡れにした。
「うわっ。ひっでー雨っ。」
 そのあまりに強い雨に、ほうほうの体でドアを閉めたB山さん。
 いつも通りパチンと鍵をかけて、チェーンロックもしっかりかけた。

 あぁ~あ…。
 部屋に戻ったB山さんは、また、ため息。
 連日の雨でまともに洗濯もできないっていうのに、Tシャツと短パンまでびしょ濡れだった。
 まったく。あのくそガキども…

 その時ふいにB山さんの脳裏によみがえった、今見たドアを開けた時に見た雨にびしょ濡れになっていた通路の光景。
「あ…。」
 それは、びしょびよに濡れた通路。水たまりとまではいかないまでも、コンクリートの表面を水が覆っていた。
 ほんのわずかな間ドアを開けただけだっていうのに、こんなにびしょ濡れになっていたのをみてもそれは確かだった。
「あのガキ連中って、
 あんなに強い雨の中、通路を駆け回って遊んでたのかよ…。
 まったく。ガキっていうのは元気だよな…。」
 B山さん、わざとこと無げに、そうつぶやいたのだが。
 でも、何かがすごく変だっていうのは気づいていた。

 そう。そうなのだ。どう思い返してみても、ドアの向こうにいたあの女の子は、髪も顔も服も、どこも濡れてなかった…
「……。」
 
 いや、それより何より。
 B山さんは、やっとそのことに気がついた。
 えっ。何で鍵が開いてたんだろ…
 実は、B山さん。引っ越してきたばかりの頃に、とんでもないくらいしつこい新聞の勧誘員に悩まされ、以来ドアは鍵もチェーンロックも必ずかける習慣がついた。
 寝る前だって、必ずドアの鍵を確認するくらいだった。

 思い返してみても…。
 間違いなかった。この土日は、金曜日の夜帰ってきてから、一度も外に出ていなかった。
 そう。昨夜寝る前だって、鍵を確認した記憶がちゃんとあった。

「えぇっ!」
 言いようのない胸騒ぎに襲われて、慌てて玄関にふっ飛んでったB山さん。
 すっかりうすっ暗くなった玄関のドア。
 でも、鍵もチェーンロックも間違いなくかかっていた。
 それでも不安になったB山さんは、明かりを点けてそれらを確認。
 部屋に戻ろうとして、ふっとまた玄関に戻って。ドアのノブを回して、さらにドアを揺すってみたり。
 なんとなくドアの覗き窓を見れば、わずかにぼわんと丸くゆがんだ外の光景と、外からの激しい雨風の音……

 やっと部屋に戻って、ベッドに腰かけたB山さん。
 見れば、TVが点けっ放し。
 ぼーっと、その画面を見ていたら、ふっと…
 オレ、何で外で騒いでいる子供たちが部屋の中に入ってくるんじゃないかなんて思ったんだろう?
 そんなこと、普通あるわけないだろうに……

 脳裏に浮かんだのは、開いたドアのわずかな隙間からじっとこっちを顔を見上げるようにいた、あの女の子。
 顔立ちとか、髪型とか、どんな服だったとか、一切記憶はないのに。でも、じっと見つめてきたあの目だけは記憶に焼きついていた。
 その瞬間、B山さんの背中をゾクゾクっと這っていった何か…
 その後は、友だちと長電話しないではいられなかった。



                             ―― 『台風の週末』〈了〉
  

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   ちょっと剣呑で、ゴメン(^^;)



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