2013
02.23

54話目

Category: 怪談話

 「都市伝説」は、お好きですか?
 実は私、都市伝説って、なんだか結構ゾクゾクくるんで好きなんです。
 ただ、ギャグ系のヤツとか、子供とか女子中高生の間で流布してるような都市伝説とかになっちゃうと、さすがにちょっとキツイですかねー(まぁもういい大人なんで…)。
 もっとも。子供や女子中高生のほうでも、大人なんかに自分らの都市伝説をわかってもらいたくないって思っているでしょうけどね。

 それに、某情報科学番組の捏造をめぐるワケのわからない話だとか。あとは、もう10年以上売り上げが減少している百貨店の売り上げみたいなデータを景気の指標にして、「また下がった。だから景気悪い」って本気で言っている大人の世界の方が、怪しげな都市伝説で成り立っている世界ともいえそうですよね。
 他にも、オリンピック期間中だけ日々のニュースが無くなってしまうTVのニュースとか、芸能人しか出なくなったクイズ番組とかも。極端なこと言っちゃえば流行なんてものも含めて、まぁ人面犬だの○○肉ハンバーガーだのとどれくらい差があるんだろうって…!?
 つまりはまぁ。
 大人なんていうのは、所詮子供に毛の生えた程度のもんってことなんでしょう(笑)


 そんな前口上はさておき、都市伝説といえばやっぱり「口裂け女」のインパクトは強かったですよねー。
 口裂け女の噂が広まったのは、世間一般的には1979年の春から夏ということになっているようですが、私が初めて噂を聞いたのもやはりそのくらいです。
 たしか、79年の5月の下旬か6月くらいだったように思います。

 実は、(恥ずかしながら)結構信じちゃった方でした(笑)
 毎日毎日、学校に行く度に新しい情報が入ってきていて…。
 今になって思えば、その情報の源っていったい何だったんだろう?って、ホント不思議に思います。
 それこそ、昨日はどこそこに出たとか、Aクンの友達が遭った時はべっこう飴じゃなくて○○飴でも大丈夫だったとか、出所は1人だったのか?それともその都度その都度違う出所だったのか?
 そんな風に、情報が常に更新されていたことも、それを信じさせられた理由のひとつだったのかもしれません。

 そんな日々更新されていた情報の中で、一番記憶に残っているのは、ある昼休み後にパーッと広まった情報。
 それは、夏を思わせるカーっと晴れたある梅雨の日のことで……



 昼休みが終わって、とうに5時間目が始まっている時間だというのに先生がやってこない。
 遠くの方から、せわしないパトカーのサイレンが聞こえる。
 サイレンなんてそんなこと、クラスの誰も気にもとめなかったが、いつになくサイレンの数が多かったのは誰もが気がついていた。

 5分…、10分…、20分と時間が過ぎていき。クラスのガヤガヤも最高潮に達した頃、いきなり教室の前の戸がガラガラって開いた。
 見れば、それはどこかのクラスの男子生徒。
 その男子生徒が、入口のそばに座っているPクンに何か話している。
 するとPクン、きょろりとこっちを向いて。
「Wクン、学級委員長に話があるって…。」
と、学級委員長のWクンを呼んで、入口に立っているその男子生徒を指差す。

「えっ、何?」
と、そんな。今までにない出来事に、ちょっと慌て気味に立ち上がったWクン。
 いそいそと入口に立っている男子生徒の方に歩いていくと。

 Wクンがそばに来るのを見たその男子生徒は、Wクンを手で廊下に招き寄せると。あとは開けっ放しのドアの向こうで何やら話をしていて。
 もちろん、教室の中までは何を話しているか聞こえない。
 でも時々、「ホントかよ!」とか、「Z町だろ?うん、いるよ。オレ達のクラスにも…。」、「でも、警察も出てるんだろ?」なんて途切れ途切れにWクンの声が廊下から飛び込んでくる。

 他のクラスの生徒が授業中にやってきて、学級委員長を呼び出し話をするというだけでも今までにない事。
 それだけでももうなんだろうって興味深々なのに、「警察」だとか、「Z町」といった刺激的だったり、具体的な地名だったりする言葉が聞こえてくるのだからたまらない。
 クラス中が、2人の会話をなんとか聞き取ろうとシーンと静まり返っていて…。

 そんな中…。
「じゃ、オレは次のクラスに伝えるから…。
 Wクンはクラスのみんなに説明しておいてくれないか。」
 なぜか、その言葉だけはよく聞こえる。
 そして、隣のクラスの方に向っていく、パタパタという足音。
 すぐに教室に入ってきたWクンは顔をしかめて、何やら思案顔。

「おい!何なんだよ、Wクン!何があったんだよ?」
 みんな口々に学級委員のWクンにたずねる中、Wクンは何か考えながら教卓の方にゆっくり歩いていく。
 そして。ちょっと思い切ったような感じで、教卓の所に立つと。
「おい!ちょっと静かにしてくれよ。」
 その途端、今までのざわめきがウソのように静まった。
「今来たの、10組の学級委員なんだけど…。
 アイツが言うには、昼頃にZ町の辺りに口裂け女が現れて、
 今Z町辺りを逃げまわっているらしい。
 パトカーが何台も出て追いかけているところなんだってよ。
 先生が来ないのは、そのことで緊急職員会議が開かれているかららしいんだ。」
「えーっ!」
「ホンっトかよっ!」

 クラス中、もうとんでもないような興奮状態。
 そんな中Z町に住んでいる生徒だけは、「本当かよー!」「どうやって帰ったらいいのよ?」などと不安そうに顔を見合わせている。
 Z町以外の生徒は、そっちはそっちで「ついに、口裂け女も捕まるのかなー?」「パトカーじゃ口裂け女捕まえられないんじゃない?」などとちょっと楽しそうに話していて。

「おい!ちょっと静かにしろよ!
 でさ、先生が来たらまた詳しい話や指示があるんだろうけどさ。
 今日早退の予定のあるヤツっているか?いないよな?
 今来た10組の学級委員長のアイツが言うには、
 早退の予定があるヤツがいても、
 先生が来るまでは教室にいるようにしておいてくれってことなんだけど…。」
「あっ、Wクン、オレ、今日早退するんだった!」
「バーカ。Cクンの家は校門の真ん前だろ!
 Cクンなら、別に今すぐ帰ってもいいよ。」
 そんな風におどけている生徒もいる一方、Z町をはじめそっち方面に住んでいる生徒や、家が学校から遠くの生徒は、気味悪そうにしている。


 先生が来たのは、そんな騒ぎの真っ最中。
 教室の戸がガラガラって勢いよく開いたかと思うと、
「こらっお前ら!うるさいぞ!
 先生が来ない時は静かに自習してろって言ってあるだろ!」
 そう怒りながら教室に入ってきた先生に、あれほど騒々しかったクラスは一瞬でシーン。

 しかしすぐに。
「先生!口裂け女はどうなったんですか?」
「捕まったんですか?」
と、もう口々にワーワー大騒ぎ。
「静かにしろっ!馬鹿モンっ!」
 あまりの騒々しさに、先生は教卓を激しくバンバン叩く。その激しい音にやっと静まる教室。
「なんだぁ?口裂け女だぁ…」
 その、ピーンと張りつめた緊迫感…。

 先生の怒りが頂点に達したのはその瞬間──。
「お前かーっ!今、口裂け女って言ったのは!」
 いつものことながら災難なのは、教卓の前に座っている生徒。
 まさに真上からの怒鳴り声と睨みの圧力。なんにも言えずに、ただただ下を向くしかない。
「お前ら、今何の時間なんだと思ってるんだ?
 おい!Wっ!お前、今は何の時間なんだ?言ってみろ!」
 怒りの矛先は、今度は学級委員長のWクンに…。

「じゅ…、授業の時間です。」
「ちゃんとわかってんだな。
 なら、授業中に口裂け女なんてくだらないこと、言っていいのかどうかもわかるよな。
 どうなんだ?あぁっ!」
 言葉の最後に教卓をバーン!と叩いた先生。
 そんな先生の怒りの迫力に、あのWクンですらずっと下を向いているばかり。
 しかしWクン。おずおずとした口調で…。
「あのー、先生。さっき10組の学級委員長が来て。
 Z町に口裂け女が出たから、そのことで緊急職員会議が開かれてるからって──。」
 しかし、Cクンの言葉は途中で遮られ。
「口裂け女ぁ?緊急職員会議ぃ?
 お前、なにワケのわからないこと言ってんだぁ?」
 教室に、静かに響き渡っていく先生の怒りの声。
 また、バーン!という教卓を叩く音が轟いた。



 当然といえば当然ですが、結局デマだったんです。
 Wクンはじめクラスのみんなから詳しい話を聞いた先生は、「口裂け女だとかそんな話はまったくない。緊急職員会議が開かれていたのは確かだけど、それは林間学校の件でだ。」と。
 とはいえ、10組の学級委員長が来てそう言ったという話を聞いて、これは捨てておけないと思ったのでしょう。
 「お前ら自習してろ。今度こそ静かに自習してないと全員居残りだからな。」と、クラス中を睨みまわして、教室を出て行ったのです。

 教室を出た先生が見たものは、10組の前に立っている何人かの先生の姿。
 そこにいたのは1組から5組までの担任の先生と10組の担任。そして10組の学級委員長の女子生徒。

 結局…。
 1組から5組の教室をまわってデマを伝えた10組の学級委員長と名のった男子生徒というのは、誰だかわからなかったんです。
 いやそんなわけないだろうと思う方も多いかと思いますが、なぜだかどうしてもわからなかったんです。

 それはともかく。
 なにより不思議なのは、なぜこうも簡単にみんながそのデマを信じ込んでしまったか?ということ。
 まぁ、それが「口裂け女マジック」なんだと言って納得出来るのは、たぶんあの出来事をリアルタイムで体験した世代だけなのかもしれませんが、でも…。

 「口裂け女」というのは、地域によってその話を信じる度合いが微妙に異なっていたように思います。
 その夏休みに、東京の下町に住んでいた友人の話を聞いたことがあるのですが、そちらでは口裂け女の噂というのは、はなっから冗談のネタみたいな感じで広まっていたんだそうです。
 それに対し、私の通っていた学校のエリアでは、かなり信憑性のある話として噂が広まっていたように思います。
 人には、そういう都市伝説みたいなものを信じやすい人と、まったく信じない人がいると思いますが。でも、「口裂け女」の時というのは、普段そういうことを信じないタイプの友人でさえ、ソレを信じていたような気がするんですよね。


 もともと信憑性のあることとして噂が広まっていた地域に…。
 緊急の職員会議、昼休みに聞こえたパトカーのサイレンといった関係のない因子が偶然紛れ込んできて、そしてそこにスーっとデマが入り込み、たちまち燃え広がっていく……。

 それは、例えば関東大震災の時におけるデマからはじまった虐殺事件だったり、某情報番組で放送した食品が放送日の次の日にはスーパーで売り切れといったこと。
 はたまた、あるタレントのブログがアクセス数トップとネットのニュース欄に出ると、たちまちみんながそのブログにアクセスしさらにアクセス数が上がる等々……それらと全く同じ構造なのでしょう。
 ある意味、不思議だけど、でも極々当たり前のことで。でも、こんなにも恐ろしい事はないと言えるのかもしれません。


 時々思うんですよねー。
 いわゆる「霊」ってもんの正体って、「情報」だったりして……
 なぁ~んてね!?

 いや。個人的には、結構いいとこついてるんじゃないかって思ってるんですけど(笑)
 皆さんはどう思われます?




54話目終わり。フっ!
             ―――─ 第54話目「口裂け女逃亡中!」 メルマガ配信日:10.3.27
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2013
02.16

51話目-6

Category: 怪談話
*51話目-6は続き物です。51話目-1から読んでいただければ幸いです。

「うん。1組の○○って子だってねー。
 びぃーっくりしたよー。」
「○○って、知らないんだよなぁー。
 中学の時はいなかったよねぇー?
 高校から入ってきた子なのかなぁー?」
「それよりさ。ねっ、1組ってことはさ、やっぱ受験かなぁ…。」

 それは、例のローカル私鉄の始発駅の朝。
 出発を待っているホームに停まっている電車の中、Y美達はもう昨日の同級生の自殺の話でもちきり。
 そこに、ひーはーひーはー息も絶え絶えに電車に駆け込んできたのはN子さん。
 今日だけは遅刻してなるものかと、もう必死。
「あ、N子が来た。ちょっとN子。聞いた?あの話…。」
「はぁ、はぁ…。えーもーなんなのよー?あの話って?はぁ、はぁ…」


 実はN子さんの頭、昨日の夕方からもうポワポワの恋愛モードになっていたんだそうです。
 まぁ、昨日の自殺については何も感じていないってこともないけれど、無茶苦茶ショックということもなくて。 現在になって思うと、なんだかんだ言っても所詮は他人事だったんだろうなぁと。
 なによりかにより、あの時はもう相当な浮かれバカになってたんだろうなぁーっていいます。


「もう、なにワケのわからないこと言ってんのよ?
 1組の○○って子だってよ。N子、知ってる子?」
「なに?1組の○○って、誰よそれ?
 えっ!あっ!もしかして、あの昨日のあれ?
 えぇーそうなんだ。1組かぁー。
 やっぱ、受験がらみなのかなぁー。」
「なんだN子も知らな──」
「もうっ!それどこじゃないよ。大変だったんだからー!
 昨日、電車止まっちゃって、歩き出したらさ……。」


 N子さん、そう言って昨日電車が止って歩き出したことをみんなに話しだしたんだそうです。
 もちろん、ミスター新入生のくだりについては一切削除。
 雨宿りのことも大幅に省略。
 当然、あの雨宿りの場に1組の女の子がいたなんてことも言いません。
 というより、その時はそんなこと頭のどこかにいっちゃてたんだといいます。


「もーバカ…。電車止まったからって…。
 普通歩くかー?」
と、頭を抱えるような表情でみんなにそう言うY美に、みんなも「うん、バカ…」、「うん、バカ…」って一斉にうなずいてて…。
「そんなこと言ったって、いつだったかみんなで歩いたじゃん?」
「それは中学生の時だろー!」
 みんなから同時につっこまれ、N子さん、もうボロボロ。

 へん!でもいいんだって、見る車窓の外は曇天。
 いよいよ梅雨入りかなぁー。
 いつの間にか電車は動きだしてた。
 もうすぐ、ミスター新入生が乗ってくる次の駅。
 N子さん、彼どんな顔するんだろ?って。
 そして、何よりわたしはどんな顔してたらいいんだろ?って…。

 電車は、ガタンってブレーキがかかる。
 キシィーーーって軋む、まさにローカル線そのものの音。
 駅のホームの光景が次から次へと流れていって…、だんだんゆっくりになっていく…。
 窓の向こうに、いきなり現れたミスター新入生の笑顔。
 誰かと思いっきり笑っている!?
「えっ……。」
 キシっ!って電車が完全に停まった音。
 一瞬の静寂。でもすぐにガラぁーって、まるでドアがはずれたような音。
 まるでそれが合図だったかのように、外のガヤガヤが一斉に車内に入ってくる。
 
 いつもの2つ向こうのドア。
 車内に入ってきたのはミスター新入生。
 でもなぜか、その新入生ぶりに似合わぬ、綺麗な女子大生と楽しそうに笑っていて…。

 そんなことは、もちろんないんだろうけど、でもなんだかこれ見よがしって感じに反対側のドアに落ち着いた、その二人。
 ドアに寄りかかりこっち側を向いたミスター新入生は、その女子大生と楽しそうに話している。
 なんだか、そこだけ昨日の朝の天気みたいで。

 背をこちらに向けている女子大生は、自分と同じくらいの背の高さ…。
 でも、高校生のN子さんには伸ばせない長い髪。
 制服じゃないおしゃれな服。
 なにより、大人っぽい雰囲気……

 頭を、上を向けるように話しているその女子大生。
 で、ミスター新入生はといえば、何を見ているのか?
 その女子大生の顔を見ないで、じっと窓の外を見てかすかに笑っている。
 その横顔は……

 なんだよっ!ぜんぜん新入生っぽくないじゃん!

 その男子大学生は、顔を前に立つ女子大生に戻すなり、わっと笑って。
 笑ったはずみで、顔が女子大生の顔に近づいて……
「!」
 なんだ。結局、また窓の外を見てる。


「ねぇっN子!」
「ねぇっN子!」
「なんだかなぁー…。ねぇっN──」
「えっ…。なに……。ふはぁー……」
「なんなのよ、その変な顔はぁー!
 なんかさ、N子ってさ、3年になってから変よね。
 いつもポーっとしてるし…。」
「うん。そうそう。絶対変。」
「…………。」

 そんな季節……


 それは、N子さん達がその日学校に着いて、先生から昨日の1組の子の自殺のことを聞いている最中のことだったといいます。
 N子さん、昨日の夕方から、ずっと頭の中をぐるぐる駆け巡っていた「自殺」「1組の子」「雨宿りの時にいた1組の子」の3つが、急に結びついちゃったんだそうです。
 「えっ!?」って、思わずすっくと立ち上がっちゃったN子さん。
 びっくりしたのは、担任の先生。そしてクラスのみんな。
 N子さん、急にフラぁ~って感じたのまでは、なんとか憶えているんだそうですが…
 でも、気がついた時は保健室にいて。

 なにやら、すんごい熱だったんだとか。
 そのまま近くの病院に直行になっちゃって。
 幸か不幸か、お泊りは一晩だけだったものの。でも、その後も体調がすぐれず、結局ズルズルと1週間も学校を休んじゃったんだそうです。

 N子さん、それが昔からよく言われる妙なモノに出くわして急に熱が出て寝込んじゃったっていうヤツなのか、失恋のショックってヤツなのか、よくわからないって(ケラケラ笑って)いいます。
 ただ、その体調がすぐれず家でゴロゴロしていた1週間に決心したこと。
 つまり、外の大学を受験するってこと。
 いささか不純な動機といえるのかもしれませんが、N子さんの決心はやっとそれで固まったんだそうです。


 そう。あの時…。
 そんな季節は、まだ始まったばかりなんだって気づいたのかどうか……
 N子さん、それは現在となってはもうわからないといいます。




51話目終わり。フっ!
                  ―――─ 第51話目「水色な季節」 メルマガ配信日:10.3.8
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2013
02.09

51話目-5

Category: 怪談話
*51話目-5は続き物です。51話目-1から読んでいただければ幸いです。

「あぉっ!うっ…、オワオワオワ……」
 ふいに聞こえた、そのくぐもったような変な声。
 それは、N子さんのすぐ傍ら。

 その不穏さに、思わず「えっなに!?」って、身構えて周りを見回したN子さん。
 しかし、そこは――。
「あれっ!?
 踏切って…!?
 なんなのよ、それ?」

「なんだー。おどかすなよー。ねぇキミさ、大丈夫かい?」
 また、すぐ傍らで聞こえてきたその声。
 それは、最初に感じたほど不穏さを秘めてなくて…
 誰?スーツのおじさん?それとも若い方の人?

 声のする方を見ようとしたN子さん。でも、急に頭の中がシュワーって白くなって、体がふわぁーっと…。
「お、おいっ!大丈──。うん。大丈夫か…。」
 ふわぁーっとしたと思った時には、いきなり頭も体もシャンとしていた。
「あぁっ!あなたっ!えっ!?なんなのあなた?
 なんで、ミスター新入──。あっ、いや…、えーと……。」


 N子さん、自分でも何がなんだかさっぱりわからなかったそうです。
 つい今の今まで神社で雨宿りしてたのに、いつの間にか事故のあった踏切に立っていて。
 もちろん、辺りはすっかり片づけられていたらしいんですが。
 ただ、それより何よりわけのわからないのは、例のミスター新入生がすぐ傍らで自転車にまたがっていること。


「えっ何?ミスター?なにそれ?」
「あっ、いえ、なんでもないです。なんでもないです。」

 とにかく何が何だかわけのわからない状況と、いきなりそこにいるミスター新入生に、N子さんはもうあたふたしまくり。
「もう、なんだかなぁー…。でも、キミさ…。」
「…?」
「うん…。あのさ…。」
「はい?」
「もしかしてさ…、もしかしたら友達だったりしたの?」
「友達…!?」

 このミスター新入生。N子さんにとっては、待ちに待った初めての会話なのだが、それはなんだか変なくらいイメージ通り。
 きっと噛み合わない会話するんだろうなぁーって思ってたけど、ホントその通りで。

「うん…。あ、ゴメン。ちょっと無神経だったかな…。」
と、今度は妙にしおらしい顔。
「えっ?なんですか?なんのことだか?」
「あれっ、友達に線香あげに来たんじゃないの?」
「友達?線香?はいっ!?」
「ほら、ここ。ここで、今日…。」

 今日…?線香…?ここ(踏切)……?
 あっ、そういえば!
「はっ、人身事故…。」
「そうそう。あれ、キミと同じ高校の子だろ?3年生だって聞いたぜ。」
「えっ!うそっ…。」
「えっ、なんだ知らなかったの?
 なんだぁ。オレ、てっきり、キミがそれで線香あげに来てたのかと思った…。」
「えっ!ウチの学校の3年生って、誰なんです?」
「そんなことまで知らねーよ。」
「そうですね。すみません。」
 N子さんの頭の中で、急になにかがグルグル回りだす。
 ウチの高校の3年生?えぇっ、3年生?
 3年生?3年生?3年生?……。うーん!?

「いや、別に謝らなくてもいいけどさ。
 でもオレ、ビックリしたよ。
 自殺のあった踏切で、同じ高校の制服着た子がボーっと立ってんだもん。
 一瞬、出たかと…。」
「出たって、なにもそんな人のことお化けみたいに……。
 えっ!自殺なんですか!」
「あ、それも知らなかったんだ。うん。自殺…、だって聞いた…。」

 頭の中で回っているものがもうひとつ増える。
 3年生、自殺、何かモヤモヤ…
 3年生、自殺、何かモヤモヤ……
 3年生、自殺、何かモヤモヤ………
 なんだろ?やっぱりわからない。


「ねぇ、大丈夫かい?キミさ、変な顔してる──、
 あ、いや、そういう意味じゃなくってさ。えーっと、ほら、顔色悪いっていうか…。」
 そのしどろもどろの様子に、思わず噴出しちゃったN子さん。
 そのミスター新入生こそ、よっぽど変な顔なのに。

「なぁ、あのさ、どうでもいいけど、この踏切から離れないか?
 今日の今日に、同じ学校の子がここで笑ってるっていうのもさ…。」
「はっ!
 そうだよね。そこで今日ウチの学校の誰か死んだんですよね…。」
「うん。3年生って言ってたから、やっぱ受験がらみなのかなぁ…。」
と、ミスター新入生と二人で歩いているN子さん。
 ずっと想っていた光景なのに、なんかぜんぜんそんなこと忘れていて…。

「あっ、キミさ、これからどこ行くの?」
「どこって、帰るところですけど…。」
「なんで、こんなとこ歩いてんの?」
「だから、人身事故で電車止まっちゃって…。」
「なに言ってんだよー。電車なら、もうとっくに動きだしてるぜ。」
「うそぉーお!」

 あの雨宿りの時間。1時間くらい?
 決して短い時間ではなかったけど、そんな長い時間でもなかった。
 でも、ふと見れば西の空は雲が赤黒く染まっている。

 えっ?今何時なの?って、慌てて時計を見ると。
 そもそも、なんで今まで時計を見なかったんだろう?
「えっ!もう7時過ぎてるの。うっそぉー。」
 なんで、いつの間にかこんなに時間になっちゃてるんだろ?

「おいー、キミさ大丈夫か?やっぱ、同級生のことで──」
「ヤバイ!どうしよっ!お母さんに怒られる!ひゃぁー早く帰らないと。」
「ええっ?もー、ワっケわかんねぇーなぁー…。フぅー……。」
 ミスター新入生、そこで大きくため息をついて。
「しょうがねーか。ほらっ、自転車の後ろ乗れよ。駅まで乗っけてってやるよ。」


 いったい何がどうなってこうなっているのか!?
 今の状況がさっぱりわからないN子さん。
 落ち込んで歩いてたら事故現場に遭遇して、雨に降られて雨宿り。
 そして今は、ずっと気になって気になってしょうがなかったミスター新入生の自転車の後ろに乗っている…。
 N子さんが、その時ふと思い出したのは…。
 いや。なんで思い出したんだかわからないんだけれど、それはあの雨宿りの時にお祖父さんが言っていた言葉。
「何をやぁーっても、どんなことやぁーっても、
 それは何故か後でなんかしら役にたっちまうもんなんだなぁー。」
 そういえば、お祖父さんを見ていた男の子の顔。思いっきし嬉しそうだったなぁ…。

「なぁー…。黙っちゃってどうしたんだよ?」
「えっ?」
「さっきからずっと黙っちゃっててさ。駅、もうすぐだからさ。元気だせよ。」
「はい…。」

 ほんのわずか顔を前に寄せれば、その背のぬくもりを直に感じられる距離。
 でもそれをしてしまえるほど、N子さんは大人でなくて。
 そんな季節……


 ミスター新入生に一番近い駅まで送ってもらって。
 N子さんはといえば、「ありがとうございました。」って、ちょっと他人行儀なお礼の言葉。
 ミスター新入生はといえば、ただうなずくだけ。「じゃぁ」って左手をあげて自転車を走らせた後姿。
 N子さん、それで充分満足だったんだそうです。
 なにより、明日電車の中でどんな顔するんだろ?って、楽しみもあったし。


 そして、次の朝……




 ――── 本日これまで!
               51話目-5〈了〉/51話目-6につづく メルマガ配信日:10.3.7
                                            *無断転載禁止


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2013
02.02

51話目-4

Category: 怪談話
*51話目-4は続き物です。51話目-1から読んでいただければ幸いです

 サーっと間断のない音で降り続いている雨。
 その止む気配のなさに、いい加減うんざりしてきたN子さん…
 そして、そこにいる人たちも……

「お嬢ちゃんは何年生?」
 隣に立っているおばさんが、またN子さんに声をかける。
「3年生ですけど……。
 はい!?」

 N子さんがそう答えた途端、スーツ姿の二人、そしてお祖父さんが、なんだかピクっと反応しような…。
「えっ!?」って、思わずそっちを見るN子さん。
 しかし、スーツ姿の二人も、お祖父さんと孫の二人も、まるで何もなかった風。
 黙ってじっとサーっという雨を見ているだけ。
 隣のおばさんは、そんなことは全く気づいた様子もないみたいで。

「3年生じゃ、受験で大変ねー…。
 そういえばウチの子も、昔2浪してねぇー。
 結構大変だったのよ。
 まぁ今となっちゃ、その時のことなんてみんないい思い出になっちゃったけどねぇ…。」
 スーツ姿の二人とお祖父さんと孫の二人は、そんな話を聞いているのか?いないのか?
 あいもかわらず、ただただ黙って降リ続く雨を眺めている。

「2浪は、確かに大変そうですね。」
「うん。私たち家族にとっては初めての経験だったからね。
 でもね。私たち家族では初めて経験でも、
 世の中に2浪した人なんて、いくらでもいるわけだし──。」
 おばさんの、そんな言葉をいきなり遮ったのは、若いサラリーマン。
「うふっ。はぁーい!ここにもいますよー。2浪した人ぉー!」
「あら!あなたも2浪だったの?」
「違いますよー!オレは現役ですよー。2浪はね…。」
 若いサラリーマンはそこまで言って、その後は急にヒソヒソ声に。
「この人、この人」って、しきりとスーツ姿のおじさんを指さして。
 それにはスーツ姿のおじさん、いきなり大笑い。
「バレたかー。でも浪人かぁー。なんだか懐かしい響きだなぁー。
 そんなことやってたこともあったなぁ…。」
 スーツ姿のおじさんはそう言いながら、N子さんのことを眩しい物でも見るように微笑んでいる。

「あら、失礼よ。まるでそれじゃ、このお嬢ちゃんが浪人みたいじゃない。」
「あっ、ゴメン。ゴメン。お嬢ちゃんはZ女子大の付属だもんな。
 浪人のわけないよな。ゴメンね。
 でもさ、なんだか懐かしくなっちゃってさ。」
「もうー。浪人が懐かしいって言うなんて、年とった証拠ですって。
 このお嬢ちゃんみたいな年頃からしたら、ホント切実なことなんだからー。
 オレは、年近いからわかるなぁー。」
 若いサラリーマンは、またそうスーツ姿のおじさんにツッコミを入れる。
「何言ってんだ、このヤロー。
 そういうお前だって、受験なんてもう10年前なんてもんじゃ、きかないくらいだろうが!」
 スーツ姿のおじさんと若いサラリーマンのツッコミ合いに、N子さんもすっかりリラックスしてクスクス笑っている。

 そんな中、降り続いている雨は相変わらずで、サーっという間断のない音のやっぱり相変わらず。

「あっ!3年生っていえば、あなたも3年生って言ってなかった?
 えっ!その制服…。
 なぁんだ、あなた、このお嬢ちゃんと同じ学校なんじゃない!」
 N子さんは降る雨を見ながら、隣に立っているおばさんが、なにやら向こうを見て言っているのを聞くともなしに聞いていて…。

 同じ学校って…、うん!?
 何を言ってるんだろうってN子さん。
 身を乗り出すようにして見たおばさんの向こう側…。
 そこにいたのは、神社の壁にピッタリ張り付くようにしてしゃがんでいる1人の女の子。
 俯いているので顔は見えないけど、着ているのは確かにN子さんの高校の制服…。
 え。その子、いつからそこに…!?

「同じ3年生だって。お嬢ちゃんのお友達?」
「えっ?」
 おばさんの言葉に、ふっと顔を上げたその子。N子さんのことを、一瞬だけ見て、すぐまた顔を伏せる。

 知らない子…?
 パッと見た感じ、その子の顔に記憶はない。
「いやー…たぶん知らないかと…。ウチの学校、クラス数多いんで…。
 あっ、ねぇ何組?わたしは7組だけど…。」
 隣のおばさん越しに、雨にかからない程度に身を前にのりだし、その子に声をかけるN子さん。
 しかし、答えは……
 降り続く雨の音。
 と、思ったらポツリと。
「1組…。」
 なんだか、あっちの方から聞こえたみたいな…


 N子さんの高校で1組というのは、成績のいい生徒が集められているクラスなんだそうです。つまり国立や有名私立に進学希望の生徒が集まっているクラスというわけ。
 その時N子さんは、なるほどどうりでわたしが知らないはずだと、思わずクスっと笑ってしまったんだそうです。


「どうしたの?」
 そのクスっという笑いを見て、隣のおばさんはやけに興味深げな眼を向けてくる。
「いや、彼女のクラスって、成績のいい子のクラスなんですよ。
 わたしはバカの方のクラスなんで…。」
「あら、そうなの?でもお嬢ちゃんも頭良さそうよー。」
と、おばさんはあいかわらずにこやかな表情。
「いやもう、実は今日も先生のところに相談に行って、
 上に行く以外はまず無理って言われたばっかりなんです。
 もう、それで結構落ち込んじゃって…。
 だから、つい歩き出しちゃったら、この雨ですもんねぇー。」
 頭をかきかきそう言って。
 そのことに気がついてN子さんは、思わず舌をペロっ。

「お嬢ちゃんさ、そういう時はさ、思い切って浪人してみればいいんだよ。
 まぁ俺みたく2浪は勧めないけどさ。
 浪人なんてさ、出来る時には思い切って経験してみたらいいんだよ。
 人間なんてさ、浪人なんか出来ない時だってあるんだからさ。」
と、スーツ姿のおじさん。
「えっ?」
 思わず、きょとんとしてしまったN子さん。

「うん、そうだよ。
 現役合格のオレが言うのもなんだけど、
 今にして思うと、オレも浪人してみたかったなぁーって…。」
「だから、お前がそう言うと、まるっきり嫌味になっちゃうだろ!
 まったくしょうがねーなぁー。」
 おじさんに、そうたしなめられた若いサラリーマンは苦笑い。
「まぁそうかぁー。
 でもね、僕も…。僕も、どうなんだろ?
 浪人してたら…、もしかしたら違ってたりしたのかなぁって…。」
「バーカ!そんなこと言ってたら、キリがねぇーだろ!」

「…!?」
 なんだかわかるようでわからない二人の会話。
 でも、この雨宿りの縁で知り合っただけの見ず知らずの自分に、精一杯のアドバイスをしてくれているっていうのはよくわかる。
 そんなことを思っているN子さん。

 ふっと話が途切れ、途端に聞こええてくるのはまた雨の音。
 それは、サーっと全く途切れることなく続いている。

 と、そんな時。なんだか煮しめたような声が向こうから聞こえてきて。
 それは、いままでひと言もしゃべらなかった、一番向こうにいたお爺さん。
「まぁそんなもんだなぁー…。
 俺は見ての通り、大学なんてとことはまるで縁がなくてここまできちまったけどよ。
 まぁそんな俺にも言えるのは、
 人間てぇーのは、ホンっト、ケチくせぇ生き物なんだってことだな。
 何をやぁーっても、どんなことやぁーっても、
 それは何故か後で何かしら役にたたしちまうもんなんだなぁー。
 ありゃ不思議なもんだな、あん。
 毎日生きててよ…、無駄なんて、何ひとつありゃしねーんだぜ。
 もう、やんなっちまうよなぁー。
 もっともよ、お嬢ちゃんがその事に気づくのは、まだまだあと何年も先だろうけどなぁー。
 でもよ、お嬢ちゃんもよ、いつか思い出すよ。
 いつだったか雨宿りしてた時、変な爺さんがそんなこと言ってたなってよ。」

 そのお爺さんの、ただ笑っているような、でも目の奥をぐっと見つめてくるような、なんとも言いがたい視線。
 しかし、すぐにクシャぁっと相好を崩して、あとはただただ孫男の子の頭を撫でているばかり。
 孫の男の子も、そんなお祖父さんの顔に、ニコニコ笑って答えている。

 そんなお爺さんの一気呵成の言葉にちょっと呆れたのか、となりのおばさんがN子さんの方を見て。
「まぁまぁ…。人生終えちまった人が何言ってんだかねぇ。
 まぁお嬢ちゃんもあれよ。
 ここでこうして雨宿りで一緒に過ごしたのも何かの縁よ。
 そういう時なんだからさ、ひとつ頑張って迷ってみれば?
 迷うのも楽しいもんだよ。
 でもまぁそれは、後から思うことなのかもしれないけどねぇ…。」
 N子さん、どこか詠嘆口調のおばさんの言葉を聞きながら、見るともなしに前の風景を見てうなずいているて、ふと…

 それは、何やら自分のことをじっと見ている視線。
 見れば、それはおばさんの向こうで座っている1組の子。
 その視線にN子さんが気づくやいなや、慌てたように顔をあっちに向ける。
 その一瞬の表情。
「……!?」
 なんだろ?あの表情はなんなんだろ?
 しかし、そう思い巡らしているN子さんの視線は、隣に立つおばさんの視線にすーっと絡め取られ――。
 その、どこかに虚脱感がある優しく笑った目。
 しかしすぐに笑顔を強めて。そして、わずかにうなずいて……
「……。」


「おっ!やっと雨、あがったみたいだぞ!」
 スーツ姿のおじさんの嬉しそうな声。
 上の方は、まだまだグレーの濃淡のまだらの空だけど、雨はもう気にならない程度。
「さっ、行くか!」
「行きますか。」
「行くぞぉ!坊主」
「待ってよ、お祖父ちゃん」
「さ、わたし達も行こうかねぇー」
「……。」

 みんなの声がいっせいにして……。
 いきなりのみんなの言葉に「えっ?えっ?」って、1人まごつき慌ててカバンを探しているN子さん。

 そんなN子さん、ふいに肩をポンっと叩かれ、振り向くと、
「えっ?1組の子…!?」




  ――── 本日これまで!
                51話目-4〈了〉/51話目―5につづく メルマガ配信日:10.3.6
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