2012
05.22

 すかいつり~


 次の金環食は、2030年に北海道であるんだそうですね。
 2030年くらいになったら登ってみたいですかねー、スカイツリー。
 でも、2030年にあるのかな?スカイツリー(いや、いくらなんでもあるよなー)。

 スカイツリーって、下の展望台(下は第一?第二?)が出来たくらいまでは「まぁまぁ」って見てたような気がするんですけど。
 その上を造りはじめたあたりから、「なぁ~んかなぁ~」って気がしてきちゃって。
 あの頃は「両脇のクレーンのせいかな?」とも思ったんですけど、高くなっていくにつれ変な違和感も高まっていって。
 結局、あのぬぼーっとデカイあの様っていうのが、どぉ~も馴染めないんですよね。

 なんで、あんな色にしたんだろ?
 下の白はわからなくはないんだけど、あの展望台のグレー!
 あれが特にイヤなんですよね(上空に、あんな暗い色のデッカイのが浮かんでるって…)。
 ライティングの青と紫(「粋」と「雅」でしたっけ?)のあの色もイヤだし…
 (っていうか、キモチワルイ!暖色系の方がいいと思うんだけど…)
 天辺のぶっといアンテナも不恰好だし……
 なんだか、注射器がでーんと立ってるみたい!?
 スカイツリーが出来る前は世界一の高さだったっていう、中国の広州タワーの方が全っ然カッコイイと思うんだけど。上海のあのタワー(上海明珠だったか?)だって、最初見た時こそ珍妙なデザインだなーって思ったけど、今じゃ全然馴染んじゃってるし、かつユニークで面白いなーって思えるのに。
 なのに、なんでスカイツリーって馴染んでくるどころか、日々違和感が高まってくるんだろ?
 (もはや、センスでも中国の方が上ってこと?) 

 とまぁ。どうせスカイツリーはみんな「行ってみた~い」とか「登ってみた~い」って肯定的でしょうから、一人くらいクサしまくってる人がいたっていいですよね(笑)



 しっかし、ホントどーでもいい話で。
 時間と電気と電波と、あと何だろ?とにかくあらゆる意味であらゆるもののムダ使い。
 インターネット会社とブログ会社にお金寄付してるようなもん!(太っていくのはIT成金ばかりってね)
 ネットの負の面全開!!
 もっと自分の時間とお金ってモンを大事にしなきゃーねって気が……


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2012
05.21

金環食ネタ


 ブログ、ツイッター、それからフェイスブックなんかもそうなのかな?
 今日(21日)のそれらって、もう金環食ネタ一色なんでしょうねぇ…。
 もっともツイッターは、たぶん瞬間風速のものなんだろうからすぐに通常の月曜日モードに戻ったのかな?
 ということで、今日は金環食ネタの怪談話……
 なぁーんてわけはなくって。当然私も、怪談なんかスッパリ忘れ去って、金環食ネタです。
 

 しっかし、金環食。
 というか、日食眼鏡ってヤツ。眼を悪くするから使わないと(買わないと)ダメですよ!って、さんざんっぱら言われてて。
 でも、いざ見てしまった今となっては、眼ぇ、悪くする以前に晴天だったら日食眼鏡なかったら眩しくて見えなかったんじゃなの!?って思っちゃいますね。

 私は、薄曇状態の中、サングラス4枚越しで見ていただけど、それで丁度眩しさを感じずに見ることが出来るくらいで。
 最初は、東の空を覆う雲にヤキモキイライラだったけど、今となってはアレがあったから「金環」見ることが出来たのかも!って感謝しているくらいです。
 日食眼鏡業界の方は、次の金環食(いつ?)の時は「眼ぇ悪くする以前に、眼鏡ないと眩しくて見えませんぜ」っていうマーケティングに変えたほうがいいように思うなー(?)

 しかしまぁ、日食っていうのは慣れてないもんで(笑)
 金環食っていうと、TVや本で見る「真っ黒々の中の金色の環」って、あのイメージしか全くなかったわけですけど。
 でも、あのイメージっていうのはつまり、「フィルター付きの望遠鏡で見た金環食」なんですね。
 ちょっと前にネットの記事で「金環食っていうのは(地上は)意外に明るい」ってあったからある程度イメージの軌道修正が出来ていたけど。
 あれを読んでなかったら、イメージとのギャップにもう???状態だったかもしれません。
 まぁ次の金環食の時(笑)は、イメージ通りの金環食を見るためにフィルター付きの望遠鏡を買いたいものですね(天体望遠鏡って、子供の頃は夢だったなぁ…)。

 
 とはいえ、いや、金環食!
 金環になった瞬間っていうのは、胸の奥からうゎーって何かがこみ上げてくるものがあって。
 いや、ホントに感動でした。
 だって、本当に輪っかなんだもんっ!! (当り前か)
 イメージ通りじゃなくっても、やっぱりリアルで実際に見てることで湧き起こってくる感動っていうのは全っ然違うんだなぁ……
 ホント、それはつくづく実感しました。
 関係ないようですけど、なんだか久しぶりに海外に遊びに行ってみたいっ!ってかなり強く思っちゃいました。
(そういうのも、金環食による経済効果になるんだろうか!?)

 そういえば、私は極度の乱視なもので。
 ちょっと油断すると、金環食の輪っかが5つくらい見えるんですよ (目にグッと力をいれると一つに戻る)。
 5つの輪っかってオリンピックじゃないんだからーって、そういえば今年はロンドンオリンピック(ま、そっちは全っ然!興味ないけど)。
 まぁなんですか。
 金環食は、やっぱり一つがいいやねぇ…。


 金環食といえば、Nちゃんの朝のニュースはちょっとなんなの?って思うんですけど、どうなんでしょうね。
 Nちゃんのニュースっていうのは、大きなスポーツイベントがある時なんかがまさにそうなんだけど、途端に世の中からニュースが無くなっちゃうんですよね。
 オリンピック開催時なんかだと、2/3くらいオリンピック関連のことしかやらないし、今日なんかもニュースというよりは「金環食スペシャル」って感じで。
 仮にも「報道のNちゃん」が謳い文句なわけだから、どこか根本的なところがズレてるような気がするんだけどなぁ…。
(今の風潮からすれば、いいじゃない、世紀のイベントなんだからってことになっちゃうのもしれないけれど。でも、世紀のイベントと日常っていうのはあくまで並立されているべきであるように思いまかね)

 あと、「三大都市圏で金環食が見られるのは923年ぶり」っていう表現もどうなんだろうなぁ…。
 923年前って、三大都市ないじゃん!
 そりゃ現在の三大都市圏のある位置で、同時に金環食を見ることが出来るのが923年ぶりっていうのは間違いではないんだろうけど。
 なんかこう引っかかるっていうか…、そう。最近って、こう微妙にズレのある表現が多いんですよね。
 まぁ私自身も正しい文章を書いているとはいえないけれど。それにしたって、助詞や接続詞の使い方に微妙にズレがあることが多々あるような。
 特に接続詞なんかは、同じことを言ったり書いたりしていても、(接続詞が)違うだけで受け手は逆の意味に感じちゃったりするから、ヤバイって気がするんだけどなぁ。
 言葉は変わるものって思うけど、正確に伝わらないっていうのは問題だと思うけどな。


 で、Nちゃんの今朝のニュースに戻りますけど。
 笑っちゃったのが、ネットゲームで相手のプレイに腹をたてた人が、相手のところ(ネットカフェ)にのりこんで、リアルバトルを繰り広げちゃったっていうニュース。
 防犯カメラの映像なのかな?映像の中にいきなり人が入ってきて、ポカスカやりまくってる映像に、(6:40くらいの、空一面覆う雲の憂さを忘れて)思わず大爆笑しちゃいました。


 ま、結局。
 みんな、リアルが一番楽しいっ!そして、一番興奮するってことなんだなぁ……。
ってなことを、あらためて実感してしまった今日の金環食でしたとさ。おしまい
 

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2012
05.19

19話目-その3

Category: 怪談話

 そして、事故ったクルマに近づいていくC子とW雄。

 ガードレールに、右斜め前から突っ込んだ形のRV車。
 対向車も通行人もいないのだから、たぶん自爆なのだろう…。
 ただ、クルマの大きさが幸いしたのか大した事故ではないようで、たぶんガードレールにフロントの右側がぶつかった程度のよう。
 その割には、クルマのまわりでへたりこんでいる人が2人…。いや3人。
 それはなんだか事故の程度の割にちょっと奇異な感じ…。

 C子たちが近づく気配に気がついたのか。
 放心したようにクルマの方を見て座り込んでいた1人が、いきなり振り返ったかと思うと、こっちに這ってくる。
 それは、すすり泣きながらこちらに這ってくる、長い髪がザンバラになった女。そのあまりの異様な様子に、思わず声にならない悲鳴をあげ無意識に立ち止まるW雄。

 一方、その女性に駆け寄ったのはC子。
「だ、大丈夫ですか?」
 助け起こして、よくよく見ればC子と同じくらいの歳の女性。
 C子は、この子たちも自分達と同じく心霊スポット探検でここに来たんだろうなってピーンときた。

「ねぇ、あっちの人達を見てあげてよ。族じゃないよ。この人達…。
 たぶん、わたし達と同じで、心霊スポット探検に来た人達だと思うよ。」
 そのC子の声に安心したのか、その女性は急にワーッと大声をあげて泣き出して。

「大丈夫?怪我はしてないの?」
「な、中…。(クルマの)中にもうひとりいるの…。
 彼、逃げられないの……。」
「逃げられない!?」
「お、お化け…。クルマの中にお化けがいて…。
 逃げられないのよ、彼。わぁーっ!」
 そう言って泣き崩れ、あとは何を言っているのかわからない。


「あーっ!これだったんだ!」
 その女性の言葉で、C子さんはやっと理解したといいます。
 さっきからのあの妙な寒気の正体って、このクルマだったんだと。
 でも、もう問題ないはず。なぜなら、あの妙な寒気はもう一切存在しないから…。
 とはいうものの。怖いという気持ちがすぐに消えるわけもなく、「もう大丈夫。もう大丈夫。」って、C子さんは自分に何度も言い聞かせたといいます。


「クルマの中、見てくるからここにいてね。」
 そう言って、その女性からそっと手を離すと、そのクルマに近づいていくC子。
「ねぇーっ!W雄クン、そっちの2人は大丈夫なの?」
 クルマに近づきながらW雄に声をかけるC子。それは大きな声を出すことでなんとか勇気を奮い起こすという意味もあった。

「うーん…。大丈夫みたいだけど、コイツらなに言ってんのか全然わかんねーよ。
 手がどうとかこうとか…。
 2人ともそればっかだ。」
「あのさぁ、クルマの中にもう1人いるみたいなのよ。
 わたし、今から見てみるねー。」
 そう言ったC子は、そのクルマをグルリと廻り運転席に近づいていく。

 クルマのドア…。
 後ろの2つのドアと助手席のドアは開け放しなのに、なぜか運転席のドアだけは閉まったまま。
 怪我をしているのか?気を失っているのか?それとも、今の女の子の言っていた「お化け」が……

 そう思った途端、背中の後ろがゾワゾワーっとしてくる。
 C子は首を激しく振り、そして肩を回してそんな気持ちを振り払い、クルマからちょっと離れた位置から窓を覗きこむようにしてみると、確かに運転席には誰かいる様子。

「ねっ!大丈夫っ?怪我してんの?ねっ!」
 3箇所のドアが開いているのだから、C子の声は間違いなく聞こえているはず。
 でも、運転席のその人は何も答えない。
 気を失っているような感じではないのだが…。

「わたしだって怖いんだからぁー!もぉー、なんか言ってよぉー!」
 C子は、半分泣き出しながらドアに手をかけ、ドアを開けようとしたがドアは開かない。
 ドアは、ロックされたまま…。

「もーっ!なんなのよーっ!せめてロックくらい自分ではずせよっ!
 このバカぁっ!」
 よっぽどハラがたったのか、それとも怖かったのか、無意識にクルマのドアを蹴っ飛ばしていたC子。

「バカっ!オマエ。
 ドアなんか蹴っ飛ばして、へこませでもしたら弁償もんだぞ。」
 いつの間にか後ろにW雄が来ていて、もう一発お見舞いしようとしているC子を慌てて止めてくれた。
「オマエって、勇気はあるんだけどトロいよな。
 後ろのドア開いてんだから、そっちから手突っ込んでロック開ければいいだろ。
 ほらっ。な?」
 そう言いながら運転席のドアを開けるW雄。
「で、おいっ!オマエっ!大丈夫か?
 ったく…。自爆なんかしてんじゃねーよ!」


 運転席には、やはりC子達と同じくらいの年齢の男性が1人座っていたそうです。
 その彼。気を失っているわけではないのに、W雄さんの言葉にまったく気がつく様子もなく、真っ直ぐ前を向き目を大きく見開いたまま、ハァーハァー荒く呼吸をしつづけているばかり。


「おい!大丈夫か?大した事故じゃねーって…。おいっ!」
「ねぇ大丈夫?もうお化けはいないから安心して!」
 W雄は、その言葉に思わず振り返って、なにやら情けないような感じの顔つきでC子の顔を見る。
「なんなんだよぉー。お化けってー?」
「だから、わたしだってわかんないよ!
 でも、たぶんアレ…。あのW雄クンがクルマから出ようとしたときぶつかってきたヤツ…。
 アレなんだと思う。」
 W雄は、C子その言葉に肩をすくめ両手を広げ、そして口を思いっきりへの字にしてみせる。



 しかしまぁ。そんなことをやっているうちに、6月の短夜は明けてきたんだそうです。
 6月の梅雨時とはいえ、前夜の星空に続いて快晴だったとかで、明るくなってきたなぁと思っていたら、間もなく真夏みたいな橙色の陽射しがカァーっと照り付けて…。
 事故を起こしたクルマの面々も、そんな陽射しを浴びたことで、やっと落ち着いてきたといいます。


 以下は、やっと落ち着いてきた彼らが、C子さん達に話したことです。

 心霊スポット探検がてら、夜のドライブに来ていた彼ら4人。
 楽しかったドライブが、一転とんでもない恐怖に変わったのは、心霊スポットと言われているトンネルに行って、特に何があったということもなく、またクルマに乗って走り出した直後。

 運転手の彼が、言葉にならない何かを言ったのは、誰もが憶えている。
 しかしその言葉に注意をはらうよりなにより、いきなり暴走を始めたクルマ!
 キキキーっていうタイヤの軋む音がするたんび、体がグァーっと左に右に持ってかれて。ヘッドライトは、クルマの左側のすぐ前に迫ってくるガードレールだったり、藪だったりを照らし出す。
「キャっ!」
「うっ!」

 運転している彼以外の3人が思わず洩らした寸詰まりな悲鳴は、妙に遠くからに感じるタイヤの軋む音に遮られる。
 しかし、その音の妙な遠さ加減とは裏腹に、クルマの下から伝わってくる衝撃はリアルすぎるくらいに全員の体に伝わってきて。
 タイヤの軋む音と同時に体に上ってくる断続的な衝撃。それとともに体が左右に押し付けられ──。

「ちょっ──。キャっ!」
 助手席の女の子(C子さんが最初に助け起こした女の子)は、そのいきなりの暴走に驚いたものの、やっとドア上の取っ手を掴んで体を安定させて叫ぶ。
「ちょっと!危ないじゃない!
 うっ!キャっ!や、やめてよ!いったいどうしたのよ?」
 そう言っている間にも、もの凄いスピードで右に左にまがるクルマ。
 叫びながら見た運転席には、やけにヒステリックに右に左に急ハンドルをきっている運転手の彼。
 その彼の顔ときたら、目をかっと見開いて前を睨みつけ、引きつった表情で。
 そして、まるで水でもかぶったかのように、髪の毛はぐっしょり濡れている。

「どうしたっていうのよ?クルマ止めてよ。死んじゃうよ!」
「キャーっ!停まってよ!お願いっ!」
「お、おい!運転上手いのは、わ、わかったからよ!
 うぉー!おいっ!と、とにかくいったん停まれっつーんだよ!」
 車内に飛び交う、悲鳴、懇願、怒声!

 その彼女らの声は、やはり悲鳴に近い運転手の彼の声に遮られ。
「あ、あ、足っ!オ、オレのあ、足!足を見ろよ!
 なんなんだよ、これぇっ?な、なんとかしてくれよーっ!」
 そう言っている間にも、キュルキュル音をたてながらもの凄いスピードで、ガードレールすれすれを曲がっていくクルマ。
 悲鳴とともに「いい加減にしてよ!」って言った助手席の彼女が見た運転手の彼の足元……

 白い……
 手!?
 のような……
「えっ!? ………… 」

 手のような形をした白いものが2つ、運転席の床からスーッと……
「な、なに…!?」


 助手席の彼女と運転手の彼の話によれば、その手のような形をした白いものは、運転席の床からスーッと伸びて、運転手の彼の両足首をぎゅっと掴んでいたんだそうです。
 一方の白い手は、右足をグイっと引っ張ってアクセルペダルを押し込ませたかと思うと、もう一方の白い手はブレーキを踏もうとする左足を押し戻している。
 かと思うと、それをふいにやめて、またいきなり右足を引っ張る。
 スピードメーターがスッと回り、体がググッとシートに押し付けられる。

 それは、まるでそれを無邪気に楽しんでいるようだったと。




19話目終わり。フッ!
                       ―――─ 第19話目「いかにもな怪談話」*不許転載
                                      メルマガ配信日:09.11.29

 

 19話目の冒頭でも書いたんですけど、メルマガを始めた時、偶然同時に始まった怪談メルマガがありまして。
 もぉ全っ然そちらの方が怖い怪談メルマガで、読者数なんかもずっと多かったんですね。
 まぁ私の怪談メルマガはそもそも「怖く書かない」がコンセプトでもあったんで、しょうがないっちゃぁしょうがないんでしょうけど。
 とはいえ、メルマガを書き出したばかりで読者数っていうのはスッゴク気になるわけです。
 そんなわけで、私のメルマガ、そして向こうのメルマガが配信されるたんび読者数をみて悔しがっては、すでに書いたお話を書き直したり、別のネタであらたに書き起こしたりいろいろやったものでした。

 その後、その怪談メルマガは休刊してしまったんですけど。
 現在になって思うと、今だメルマガを続けているのは、あの時読者数で全然敵わなかった怪談メルマガがあったが故に、あーでもないこーでもないって試行錯誤せざるをえなかったからなんだろうなぁ…って妙に感慨にふけったりしますね。
 

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2012
05.17

19話目-その2

Category: 怪談話

 そんな中、それは運転席のE輔が、クルマを出そうとした時のことだったそうです。


 助手席から手を伸ばして、ふいにカーステのボリュームを下げたW雄。
「何の音だ?」
「どうした?」
「クルマの音か…。ゼロヨンでもやってんのか?いや、違うな…。」

 そう、聞こえてくるのはタイヤの軋む音。それが一度ではなく連続して聞こえてくる。
 しかもそれはだんだんと大きくなってこちらに近づいてくるよう。

「こっち来るな。」
「おい!ヤベーぞ。族かもしんねーぞ。」

 まったく一難去ってまた一難どころじゃない。こんな場所で暴走族と出遭ったら、なにをされるか。
「E輔!まずライト消せ!」
 W雄のその言葉に慌ててライトを消すE輔。

「あの像の向こう側にクルマ停めて隠れてよ、連中が来る方とは反対方向にクルマ走らせて、
 それで速攻で逃げる。それしかないだろ?」
 W雄の言うのを無言で聞いていたE輔は、その言葉にうなずきもしないで、いきなりクルマをスタートさせる。

「あとオマエら!シートに頭ベッタリ付けて、外からから絶対見えないようにしてろよ!」
 W雄は、後ろを向いて後部座席のC子とL実にそう指示をだす。

 キキィーっ!
 だんだん大きくなってくるタイヤの軋む音。
 暗闇の向こうからは、ライトがあっちを向いていたかと思うと、今度はこっちを向いたり。そしてそれは、どんどん近づいてくる

「来たぞ!さぁ、どっちから来るんだ?
 こっちから来るのか?それとも像を回って向こうから来るのか…。」
「…。」
「音からすると、何台も連ねて来てるわけじゃなさそうだな…。」
「…。」


 それは、W雄がそんなことを言っていた時だったといいます。
 急に、一際大きくタイヤの軋む音が聞こえたかと思ったら。
 ドンっ!っと下っ腹に響くような鈍い音。

 そして、静寂……


「あっ!ぶつかったな…。」
「ぶつかった?ホントかよ?」
「あの音はそうだろ。たぶん、さっきまでオレ達がいた駐車場じゃねーか?」

 前の席の2人が窓から首だけ伸ばして探っていると。
 向こうの駐車場の方から聞こえてくる、なにやら悲鳴のような声。

「わーっ!」
「キャー!」
 それは、男と女の声…。
 2人?3人?もっといるのか…?

「いったいどうなってんだ?」
「さぁ…?」
 ぶつかる前ならともかく、後に悲鳴ってどういう状況なんだろ?と、顔を見合わせるE輔とW男。


「どうしたの?何があったの?」
 C子さんは前のシートに間から顔を覗かせ、そう聞こうとしたんだそうです。
 ところが、顔を少しだけ上げた途端、あの異様な寒気のようなものがさらに増すとともに、急に頭の芯がズキーンと痛んで、思わず唸ってしまったといいます。


「どうしたんですか?C子先輩…。」
「うん…。うん…。」
 L実さんがヒソヒソ声でC子さんを気遣ってくれるのですが、C子さんは頭の痛みで声すらまともに出せないような状態で、うなずくことしかできなかったそうです。


 一方、前に座っているE輔とW雄は…。

「とにかくライト消したまま、道のところまで出てみよう。
 で、様子みて逃げられそうだったら、目一杯ふかして突っ走る。
 それっきゃないな…。
 E輔、オマエ、運転大丈夫か?」
「どうだろ?でも、死ぬ気で突っ走るっきゃねーだろーな。」


 2人はそんなことを言って、クルマをスタートさせたんだそうです。
 ライトを消したクルマはソロリソロリと進んでいって…。
 W雄さんは、窓から上半身を乗り出した箱乗り状態で、向こうの駐車場の状況がわからないかと必死で探っていたといいます。
 一方、さっきからC子さんを襲っている異様な寒気と頭痛は、おさまるどころかますます強まりばかりだったそうです。特に寒気の方は、その頃には手足の先が冷たくなってきて、もう痛いくらいだったといいます。


 クルマが道のすぐ手前まで来た時だった。
 W雄の上半身が車内に戻ってきて、
「ヤバイ。あ、いや。違う違う。オレ達じゃなくってヤツら…。
 ヤツら本当に事故ってる。クルマのまわりに人が倒れてんだよ。
 ありゃ、さすがに見捨てるわけにはいかねーだろ。
 クルマ1台しかないから、そういう意味じゃ大丈夫そうだし。」
 その言葉を聞いた、クルマの中はホッとしたの半分、事故と聞いて緊張したの半分。

「事故みたいだからヤツらのとこに行って様子みてくるけど、オマエらは絶対クルマから
 出るなよ。窓から顔も出すなよ。絶対だぞ!」
 W雄は、前のシートの間からC子とL実を見てそう言ってから、次にE輔の顔を見て言う。
「でよ、クルマは道のところに停めてよ、エンジンかけっぱなしでいつでもクルマ出せるように
 しとけよ。
 全く問題なそうだったら呼ぶけど、それまではオマエも絶対外出てくるなよ。」
 そしてそれは、運転席のE輔にそう言った助手席のW雄がクルリと振り返るようにしてドアに手をかけた刹那。
 ズォーン!
 その大音響とともに、C子たち4人の乗るクルマがぐらんと横に傾ぐ。
「うわっ!」
「キャー!」
 それは、クルマの助手席側全面から襲ってきた衝撃。


 それは、まるで見えない何かが、事故を起こしたクルマの方からやってきて、C子さん達の乗るクルマの側面にいきおいよくぶつかってきたような感じだったといいます。
 いや、霊感があるというC子さんだけでなく、他の3人もまさにそんな感じだったと口を揃えてそう言うんだそうです。
 中でもW雄さんは、普段から心霊現象とか全然信じない質だったそうなんですが、そのW雄さんですらその時のクルマの助手席側にぶつかってきた衝撃の異様さに、しばらく歯の根が合わない状態だったといいます。


 顔を見合わせるW雄とE輔。2人とも今の衝撃の異様さに歯がカチカチかすかに音をたてている。
「な、な、なんなんだよ。い、今の…!?」
 やっとそれだけ言ったW雄に、E輔は何も言えずに、首を左右にただただ振るばかり…。

 一方、C子もその異様な衝撃を後部座席に伏せた状態で感じていた。
 抱き合うように伏せているL実が、その瞬間「っ!」っと声にならない悲鳴をあげ、そして体をガクガク震わせているのを感じながら、小さな声で「大丈夫…。大丈夫…。」ってずっと繰り返していた。

 そしてそんな中……。
 C子はあの異様な寒気のようなものや頭痛がすっかり消えているのに気がついて、ゆっくり顔を上げた。
 その顔を上げたC子のその視線と、今の不気味な衝撃にドアに手をかけたままの状態で出るのを躊躇していたW雄の視線がぶつかって。

 その時、W雄が思わずそれをC子に聞いてしまったのは、彼とて藁をも掴む思いだったのか…。
「なんなんだ?今のあれ?」
「わかんない…。でも、もう外に出ても大丈夫だと思うよ。
 あの変な寒気みたいなの、すっかりなくなっちゃったから…。」
 C子のその言葉に、思わず苦笑いを浮かべるW雄。
「なに言ってんだかわかんねーよ。」
「わたしだって、わかんないよ。
 でも、もう大丈夫。もう大丈夫だから…。
 あの人たち助けに行かないと…。わたしも行くから…。」

 もちろんW雄もE輔も、L実までもが顔を上げてC子を止めた。
 でもC子は聞かず、結局W雄と2人でその事故を起こしたクルマに向かうことに。


 躊躇しながらドアをそっと開ける。
 カチャ…。
 後部座席からかすかな音が車内に響いてすぐ、助手席のドアも、
 カチャ…。

 開いたドアの隙間から音もなく流れ込んでくる、蒸しっとした空気…。

「うん、大丈夫。」
 無意識に、そうつぶやいて外に出るC子。

 C子がクルマの後ろをまわって助手席側に行くと、W雄がC子の方をジッと見ながら待っていて。
「大丈夫か?」
「うん…。」




── 本日これまで!
                                   19話目-その2〈了〉*不許転載
                                         19話目-その3につづく
                                      メルマガ配信日:09.11.28


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2012
05.16

19話目-その1

Category: 怪談話

 19話目というのは、17話目と同じでメルマガを始めたばかりで、まだ長いお話をまとめるのが全然慣れてなかった頃なんですね。
 よって、今になって読んでみるとホントたどたどしいんですね(まぁ今でも似たり寄ったりと言っちゃったらそれまでですけど…笑)。
 
 それと、もうひとつ。
 私が怪談メルマガを始めた時。偶然だったんですけど、時を同じくして別の怪談メルマガを始めた方がいまして。
 まぁぶっちゃけ。あちらのメルマガの方が全然怖くって。当然、メルマガ登録されている読者もあちらの方が多いわけです。
 そんなわけで、私がメルマガ用にと用意していたお話だと全然敵わなねーなーってことで、別のネタで急遽まとめたお話がこの19話目なんです。
 実は、この19話目のネタっていうのは、元々はメルマガに載せる気がなかったネタでして。
 というのも、私自身としてはこの19話目のネタっていうのは、あまり好きなタイプのお話じゃないんですね。
 とはいえ、敵(失礼)はかなり手強いわけで。
 てことで、ま、背に腹かーってまとめたお話ってわけなんです。

 で。ブログに載せるのどうしようかなぁ…とも思ったんですけど(読み返したら、出だしがワケわかんないし)。
 でも、まぁいか…ってことで。
 


19話目-その1

 さすがに前回みたいな話ばかりだと「この人って、たぶんバカなんだろーな」とか思われかねないんで、今回はちょっと真面目に。
 有名心霊スポットという「いかにも」な場所に大学生連中がドライブに行くという、「いかにも」な展開のお話で、しかもその中の1人に霊感があるときた日にゃ、もぉあまりに「いかにも」すぎて、話す前に「その話もういいや。なんとなくわかったから…」って言われそうなくらい「いかにも」なお話です。

 このお話をしてくれたC子さんというのは、霊感の人が何人もいる例の会社の人で、14話目「都内某所にて」のD子さんの娘さんです。
 C子さんも、昔からいろいろと感じることが多かったということですが、そのC子さん、大学4年の6月にゼミ合宿に行った時、夜中に心霊スポット探検に付き合わされることになったんだそうです。
 行き先は、関東某所の超有名心霊スポット。
 C子さんによると、そういう超がつくような有名な心霊スポットというのは、相性なのかなんなのか今まで全然感じたことなかったとかで、もう全然安心しきって出かけたんだそうです。
 一緒に行ったのは、C子さんと同じ学年のE輔さんとW雄さんという男子大学生。もう1人は1年後輩のL実さん。
 普段から仲の良い4人だったとかで、そういう意味でも安心しきっていたということです。

 ところで、その心霊スポットはある像が立っていることで有名で、一般的にはその像の名で呼ばれているらしいのですが、肝心の出るという場所はその像が立つ場所ではなく、そこへ至る途中のトンネルであるらしいんです。
 ところが、4人ともそんなことは全く知らなかったんだとかで。

 その時4人が乗り込んで出かけたE輔さんのクルマというのが、とんでもないようなボロ車だったとかで。
 C子さんに言わせると、心霊スポット以前にクルマ自体になんかとり憑いてるんじゃないかって一瞬思ったくらいだといいます。
 ただ、ドアを開けると中は意外に綺麗で。
 また整備もわりかしキチンとやってあったとかで、乗り心地はなかなか快適だったらしいです。
 ということで、お話の始まりです。



 さて、4人の乗ったクルマがいよいよその像の立つ高台に着いて……

 クルマを降りると、目の前にはライトアップされた像が、梅雨時とも思えない星空をバックにデーンと立っている。
「なんか気味悪いなぁー。」
 と、その大きさに思わずつぶやくE輔。

 C子たち4人は、ここまではるばる来たのはいいが、それからどうしたらいいのか全然わからなくて、はたと困ってしまった。
 いくらC子たち4人がソレを見たくっても、ソレの方が出てくれないことにはどうにもならない(もっとも、ホントに見たくてorホントに見ることが出来ると思って心霊スポットに行くヤツもいないのかもしれないが…)。
 つまり、ソレを見ることが出来るのはあくまで向こうのご意向次第という、きわめて不確実性の高い娯楽なわけで…!?

「オマエよぉー、なんか感じねーのかよ?」
 霊感女子大生たるC子はみんなからせっつかれるのだが、いかんせん何も感じない。
 というか、C子はオバケ以前に蒸し暑さにウンザリで、
「暑いしさ、もう帰ろうよ…。」
 そんな情けない言葉が出てくるばかり…。

 そんな中、ひとりL実だけが可愛く元気な声で、
「ここまで来たんだし、もうちょっと歩いてみようよー。」
 なんて言うもんだから、ついつい一同前進。

 そんな4人がトボトボ歩いていた時、急にW雄がすっとんきょうな声をあげた。
「あっそうだ!カメラ持ってきたのにクルマに置いてきちまったよ。
 せっかく来たんだぜぇー。シンレー写真ってヤツ撮ろうぜぇー。
 ちょっくらカメラ取って来るからよ、おい!E輔、クルマのキィー貸せよ。」
 そう言うW雄に、E輔は無造作にキィーを投げて渡す。
「オマエ、元気だなぁ…。ほんじゃさ、ゆっくり先行ってっからよ。」
 そのE輔、そのバテ気味な様子とは裏腹に、W雄にキィーを渡すと後はL実と寄り添うようにスタスタと先に進んでいく。


 実はこの2人、最近とかく噂のある2人だったとかで、C子さんは一瞬W雄について行こうかとも思ったらしいんですが、戻るのも暑いしなぁーって、仕方なく寄り添う2人の何歩か後を歩くことにしたんだそうです。
 で、そんな風にしばらく歩いてた時。
 C子さん、ふーっと妙な感覚を感じたといいます。
 さっきまであんなに蒸し蒸しと暑かったのに、急に背筋から全身にゾワゾワゾワーッとしたものが広がって、目眩がクラァ~っと…。


「ねねねねーっ!ちょっ…、ちょっと待って…。」
 そう言っている間にも、立ってられなくなってしゃがみこんでしまうC子。
 その声に振り返ったE輔とL実は、後ろでへたり込むようにしゃがんでいるC子を見てビックリ。慌てて駆け寄ってきた。

「おい!どうした?やっぱいるのか?オマエさ、いるんならいるって、ちゃんと言えよなー。」
 と、なにやら急にやたらせっぱつまった感じのE輔の声。

「うん。わかんないんけど、やっぱもう行かない方がいいかも…。
 なんだかいきなり寒くなってきた…。」
「はぁっ?寒いぃーっ!?」
 思わず顔を見合すE輔とL実。
 ウンザリするくらいなこの蒸し暑い夜に、寒いって…!?

「ヤバイよー。もう帰ろうよー。」
 さっきの元気もどこへやら…。L実は半分泣きそうな顔をして、甘えるようにE輔の腕を両手で掴む。
 そんなL実の肩を抱きよせつつ、E輔が言う。

「C子、オマエ、大丈夫か?歩けるか?」
「う、うん。大丈夫だと思うよ。うぅぅ~っ!なんだろ?この寒さ…。あっ!」
 立とうとして、急にクラッときてよろけるC子。慌てて駆け寄って支えようとするL実。
「C子先輩、大丈夫?わたしの肩につかまってよ。」
 L実に支えてもらいながら、ふと思い出したのはひとりクルマに戻ったW雄のこと。

「そういえばW雄クンは、カメラ取りにいったまんまだよねー?どうしたんだろ?」
「大丈夫だろー。ここからクルマから見えるし…。
 たぶん、像のライトアップの明かりで、向こうからだってオレ達のこと見えてるぜ。」
「でもさぁー、なんでW雄さん、まだ来ないの?だって、カメラ取りに行っただけでしょ?」

 L実もしきりとW雄のことを心配するのだが、E輔だけは「アイツは、情緒欠損症だからオバケとかは絶対大丈夫」と一蹴。
「そんなことより、早いとこクルマに戻ってもう帰ろうぜ。
 オレもなんだか気味悪くなってきたよ。」

 それは、クルマに向かって歩き出したC子さん達3人が、クルマまであと2、30メートルくらいの所まで来た時。
 C子感じていた寒気が、急にゾワゾワー度を増してきて。

「あーっマズイっ!
 あっちじゃないのかも?こっちなのかもしれない…。」
 そう言うC子に、E輔は思わず悲鳴みたいな甲高い声を出して。
「こっち!?こっちってどっちだよ。ま、ま、まさかクルマ?
 おい、オマエぇー!冗談はやめろよなー!」

 そんな3人が、クルマをよくよく見てみると。
 薄暗い広い駐車場にポツンと1台だけ置かれたそのクルマ。見れば、ドアが左右ともわずかに開いていて。
 中が仄かに明るいのは室内灯がついているからなのか?
 W雄は中にいるのか?それとも……

「ちょ、ちょっとぉ…。どうなってんのよぉー。」
 今の今まで借りていたL実の肩が急にすーっと下に落ちかけ、C子は慌ててL実の体を支える。

 E輔は、そんな女の子2人の状態をみて逆にしゃんとしたのだろう。
「とりあえずよ、オレがクルマまで行ってくるからさ。2人ともここにいろよ。
 で、なんかあったらすぐ大声だせよ。ダッシュで戻ってくるからさ。」
 と言って、1人クルマの方に歩き出したんだけれど。
 その時のE輔の歩き方ときたら、なぜかソロ~リソロ~リと抜き足差し足…。


 さて、そのE輔。
 霊感なんてものはE輔には全くなかったが、なにやら気配のようなものがビンビン伝わってくる。
 それは、クルマに近づくにしたがってさらに濃厚に…
 と、その瞬間!

「なんだよオマエかよー。驚かすんじゃねーよー。なんで抜き足差し足なんだよー。」
 クルマの中から聞こえてきたのは、W雄ののんびーりとした声。
 ところが、いきなり声をかけられちゃった方のE輔はもぉビックリ!
「わっ!」
 一声あげて、思わず尻餅。

 聞けば、カメラのカバーを置いていこうか思ってカバーを外した途端、レンズキャップがはずれて落ちてシートの下に。W雄は、それを取ろうといままで悪戦苦闘していたんだと言う。
 それを聞いたE輔は、
「ざけんな、このバカっ!」


 しかしまぁ、そうとわかればこんなところはさっさと退散するに限るとと、E輔さんはC子さんとL実さんを呼び、クルマに乗り込んだんだそうです。
 そして、4人ともクルマに乗ってドアをバタンと閉めた途端。
 C子さん、なにやらいきなり刺すような視線を、前と隣の2方向から感じたんだとかで。


「ったくー!C子っ!よくよく考えてみれば、一番人騒がせなのはオマエじゃねーか!」
「そうですよ、もう!わたし、あの時、本当─っに怖かったんですからーっ!」
 と、2方向からの冷たい視線と言葉で十字砲火状態のC子。
「そんなこと言ったってさ…。」
 助手席のW雄ひとりが、ヒーヒー笑って苦しんでいて…。


 ところで、C子さん、みんなの手前とりあえずそう反省してみせていたらしいんですけど、実はあの異様なゾクゾク感っていうのは、クルマに乗り込んでからもずっと続いていたんだそうです。
 続いているどころか、それはますます強まってきていて。
 でも、それを今の状況で言えるわけもなく、仕方なく黙っていたといいます。




── 本日これまで!
                                   19話目-その1〈了〉*不許転載
                                         19話目-その2につづく
                                      メルマガ配信日:09.11.27                       


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2012
05.12

18話目

Category: 怪談話

 関東地方の今年(09年)の夏というのは、7月の中旬に気象庁による(例によって)かなりインチキっぽい梅雨明け宣言が早々とあって。
 その後5日間ぐらい夏らしい日が続いたんですけど、案の定その後は梅雨前線が行ったり来たり…。
 前線が降りてきちゃぁ雨。
 上行きゃ行ったで、太陽は顔出すものの強い南風がビュービュー。

 これは、そんな天気が続く(09年)7月下旬のある南風の強い夜のお話です。


 私事でまことに恐縮ですが、私の家のパソコンはベランダへの出入口にもなっている大きな窓のすぐ脇にあります。
 だから、パソコンをたたいている時でも外の光景がよく見えます。

 その日は深夜まで、パソコンをパコパコしてたわけですが、夏ですから当然窓は全開です。
 お世辞にも涼しいとはいえないものの、南風が直接吹き付けることもあって、うだるぅ~って感じでもなく…。

 窓の外は漆黒の闇…といいたいところですが、こんな郊外にまでマンションは建っていて…(そういう私の家もマンションですが…)。
 視界の3、40メートルくらい向こうに、中規模のマンションがひとつ。
 通路側がこっちを向いて建ってますから、もう一面の光です。

 まったく情緒もへったくれもないわけですが、ただひとつ風に吹かれて広がるカーテンの動き、これはなんとも不思議な動きをしていて…。

 風に押されて全体がふわーっと広がるのならわかるのですが、下の1/4くらいだけが、小刻みにポンポンポンって膨らんじゃ戻る、膨らんじゃ戻るを延々繰り返していたかと思うと、今度は縦に波打つように揺れてたり…。

 まるでカーテンの向こうに子供がいて延々イタズラをしてるようです。
 そんなことを横目で見つつ、パソコンの画面を睨んでいた時でした。

 メラメラメラ!メラメラメラ!

 視界の端を、何か白いものが横切ったんです。
 といっても、人影とかそんな大きい物ではなく、手のひらくらいか、もうちょっと大きいモノか……。

「げっ!なにっ!」
 恐る恐る網戸を開けて外を見ても特になにもありません。風こそ強いものの、いつもの平和な夜です。
 私は首をかしげながら、またパソコンに向かいます。
 そしてまたしばらくパコパコしていて…。

 メラメラメラ!メラメラメラ!
 またもや視界の端を何か白いものが横切っていく……。

 手のひらぐらいか、もうちょっと大きい位で…。
 それこそ手のひらを上にむけて指を小刻みに動かすような。
 で、白い…!?
 と、くれば……(!)

 えっ!なに?人魂…!?

                                   の、ように見えなくもない……


 人魂って、さすがに見たことないんですけど、見た人の話を聞いたことはあります。

 ポーンっていう感じで家の屋根の上高くを飛ぶんだとか…。

 ふと窓の向こうを見ると、道を挟んだ向いの家の屋根のシルエットが黒ーく沈んでいる…。
 シーンと静まりかえった街並み。
 ついさっきまで向こうの線路をうるさいくらいに電車が走っていたのに……


 意を決して、ドキドキしながらまた網戸を開けて外を見ます。
 でも、なぜか右手にはデジカメ……。

 でも、やっぱり何もありません。さっきと変わらないいつもの夜の光景だけ。
 確かになんか見えたよなぁー。

 ベランダに出ると、昼間の熱がこもりまくった室内と違って、全然涼しいんです。
 あまりの快適さに、エアコンの室外機に腰かけのーんびり。
 あんなにうんざりだった強い南風が、すーっと体の熱を下げてくれます。
 平和な夜です。人魂なんて出るわけありません。

 その時でした。
 サァーッとひときわ生あったかーい風が吹いたかと思うと──。

 メラメラメラ、メラメラメラ、メラメラメラ、メラメラメラー!

 ベランダの端の方から、さっきのアレが、私目がけてものすごい勢いで吹っ飛んでくる!

「っ!!」
 もうビックリで、思わず体をのけぞらしソレをよけます。
 あまりの驚きで声すらでません。
 もう必死…!
 
 そして、ソレは私の目の前をすごい勢いで横切って向こうへ!
 そして急に止まったかと思うと!
 



                                   なにやらカタンと、なさけない音。

「うんっ!?」
 そこにあったのは……、

 一枚の布巾。
 さっき私が物干しロープに干したやつです。

 思い出しました。
 ついこの間、物干しロープが擦り切れかかってたんで、新しいのと交換したことを。
 特に考えもせず、物干しロープなんて何でもいいだろって百円ショップで買ったんですけど、表面がつるつるすぎて風が強い時なんか洗濯物が全部風下に寄っちゃうことが多々あって…。


 つまりまぁ、布巾が風に吹かれて、物干しロープを行ったり来たりしてただけだったのかなーと…。

 たぶん、一反木綿の正体ってこれなんだろうなーって……。違うか?





18話目終わり。フっ!
                  ―――― 第18話目「夏のある風の強い夜に…」*不許転載
                                      メルマガ配信日:09.11.26

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2012
05.12

17話目-その5

Category: 怪談話

 そのF美さんの問いに、M代さんは怪訝な顔をして。
「洗濯物をどこに干すかって…!?そりゃぁ、お天気がよければ庭の物干し竿だし、
 よくない時は軒先ですよねぇ……。」

 F美さんは、M代さんのその言葉を聞いて、もうなにも言えなくなってしまって。M代さんの両手を握ったまま目を瞑って、ただただ考えている。

 庭は軒先にまで草が届くような状態。あんな状態で洗濯物を干せるわけがない。
 ということは、M代さんは嘘をついている…。
 いや、嘘をついているというより、院長先生の言ったように家族を失った悲しみのあまり、心の中で太郎ちゃんや花子さんっていう幻を創ることで、なんとかここまで生き伸びてきたんだ。

 あたしはどうしたらいいんだろう?
 M代さんに、太郎ちゃんなんて本当はいないんだって、言い聞かさなきゃならないのか?
 でもそんなこと、今のM代さんが理解してしまったらどうなるのか?
 去年のM代さんに逆戻り…。いや、それどころじゃないかも…。
 ああー、C子さん。この娘はあなたの子なのよ。なんとかしてあげてよぉー。
 
 延々そんなことを考えていて、しきりと自分を呼ぶ声にふと我に返るF美さん。

「F美さん…。F美さん…。F美さんったら…。どうしたんですか?大丈夫ですか?」
 目を開けると、いつの間にかM代さんの笑顔が目の前にあって…。

「あ、あ、ああ…。ごめんなさい。ちょっと考え事してたもんだから…。」
「いえ、そんな…。あの、あたし、F美さんにはご迷惑かけっぱなしで、
 お願いなんか言えた義理じゃないって、それはわかってるんですけど…。
 でも、ひとつだけお願いを聞いていただけないでしょうか?」

「え、ええ…。いいわよ。なによ?何度も言ってるでしょ。
 あなたはあたしの実の娘も同じなんだから…。」
「本当にすみません。今のあたしには誰も頼める人いなくって…。」
「なに言ってんのよ。さ、さっきから言ってんでしょ。
 あ、あなたはあたしの実の娘も、お、同じなん──。」

 F代さんはそこまで話して、M代さんの「今のあたしには誰も頼める人いない」っていう言葉のあまりの不憫さに涙があふれてきて…。
 声が詰まって最後まで話すことができない。
 M代さんのことを抱きしめ、声を震わせながら「何でも言ってよ…。何でも言ってよ…。」と繰り返すばかり…。

F美さんもM代さんもひとしきり泣いた後…。

「あたしの家に手紙を置いてきてくれませんか?
 太郎にあたしがここにいるって知らせたいんです。
 たぶんあの子、今は花子ちゃんと一緒にいるんだと思うんですけど、
 2人とも心配してると思うんです。
 あたしがここにいるって手紙に書いて家に置いておけば、
 太郎はきっとそれを見ると思うんです。
 見れば安心するだろうし、それにあの子1人じゃ無理かもしれないけど、
 花子ちゃんと一緒ならここに来ることができるかもしれません。」
「…………。」


 F美さんは、そのM代さんの頼みを聞いて何を言ったらいいのか、しばらくわからなかったといいます。

 太郎ちゃんはM代さんが心の中で創り出したもの。なら、手紙を置いてこようがなにしようが、太郎ちゃんがここに来ることは絶対にない。
 「今日は来るか?」「明日は来るか?」って、毎日毎日待って待って待ち続けて、そして太郎ちゃんは来るわけないと気がついた時…。
 果たしてM代さんの心は、そのあまりに暗すぎる現実の重さに持ちこたえることができるのか?

 とはいえ、太郎ちゃんへの手紙を家に置いてこなければ、M代さんはまた病院を抜け出すだろう。
 そんなことをしたら、なによりまず体の方が参ってしまう…。

 結局、F美さんはM代さんの頼みを聞くことにしたんだそうです。というより、それしかなかったのでしょう。


 ベッドの上で太郎ちゃんへの手紙を書いているM代さん。
 そして、横で座ってそれを見ているF美さん。
 M美さんは手紙を書きながら、しきりと太郎ちゃんのことをF美さんに話します。
 その顔ときたら…。
 とても楽しそうで、そして幸せいっぱいって笑顔を浮かべていて…。

「太郎はね、本当にお芋が好きなんですよ。あっという間に何本も食べちゃうんですから…。」

「そうそう。お給料が出た時、太郎に服を買って帰ったんですよ。
 そしたらあの子とっても喜んで…。でも喜びすぎてタンスに頭ぶつけて…。」

「あたしが疲れて帰ってきた時なんか、花子ちゃんと一緒に按摩なんかしてくれるんですよ。
 花子ちゃんはともかく、7歳の子供がいつそんなこと覚えたんでしょうねぇ。」

 それを聞いたF美さんの目にはまた涙があふれてきて…。
 M代さんは、そんなF美さんをちょっと不思議そうに見ていたそうですが、F美さんが「あなた、早いところ体治して、太郎ちゃんのこと幸せにしてあげないと…」って言うと、同じように涙をぽろぽろこぼしながらも、力強くひと言。
「そうですよね。」と…。


 その日、F美さんは「また明日来るわね。」ってM代さんに言って病室を出て、その足で太郎ちゃんへの手紙を置きにM代さんの家に向かったんだそうです。

 あの草ぼうぼうの家は、何度か来て慣れたせいなのかなんなのか、なぜか前ほど薄気味悪くはなくって…。F代さんは、手紙を玄関の框の目につきやすい場所に置いたんだそうです。

 F代さんは、そしてそれを見ながら、結局これを最初に見るのはM代さんなんだろうなって、なんともいえない思いを噛みしめながらM代さんの家を出たそうです。
 ただ、それにもかかわらず帰り道は、なんだか不思議とホッとしたような気持ちに満たされていたといいます。

 会社に戻るとS子さんがまだ残っていて…。
 F美さんが今日の事をすっかり話すと、S子さんも
「ま、とりあえず今出来ることは全部やったってことなんじゃないの。
 大丈夫よ。M代さん、あれで芯は強い人だから…。」
 そう言って、F美さんと2人で頷きあったんだそうです。


 その夜、F美さんはなんだか久しぶりにゆっくりした思いで布団に入った。
 いろいろあるものの、体調さえ回復してしまえばあとはいいように落ち着くのでは?なによりM代さんはまだ若いんだし…。
 なんて思いながら眠りについた、次の日の早朝。

 玄関の戸をドンドンと叩く音。
 外に立っていたのは電報配達人。
 見れば、M代さんが死んだという病院からの報せ……。


 病院に駆けつけたF美さんを待っていたのは、痩せ細ったM代さんの亡骸。
 それは、M代さんってこんなに小さかったっけ?って思うよりさらに小さくって……。

 昨日は血色もよく元気そうだったのになぜ?って、例の知り合いの婦長さんの袖を引っ張って、部屋の隅で尋ねると。
「病院に勤めているあたしこう言うのもなんだけど、よくわからないというしかないのよ。
 栄養をしっかり摂って養生してれば絶対亡くなるなんてことあるわけないのに…。」
「じゃぁ、なんでM代さんは死んだのよ!」

 F美さんの前で、M代さんがあんなに幸せそうな笑顔を浮かべていたのは、つい昨日のこと。あれから、まだまる1日もたっていない…。
 悲しさというより悔しさの方が先にたって、出てくる言葉は「なんで?なんで?」とそればかり。

 そんないつになくとりみだしているF美さんとは対照的に、なんだかやけに小さくなってしまったM代さんは、ベッドの上で独りぼっちで幸せそうな笑みを浮かべている……。



 唐突かもしれませんが、このお話はここで終わりです。
 戦争が終わって何年か後、ある港町に住むM代さんという薄幸な女性がなんとか希望を見つけようと必死に生きたんだけれど、でも道半ばで力尽きてしまった。
 このお話は、そういうお話でいいような気がするからです。


 よって、以下のことは蛇足の類です。

 婦長さんは、やっと落ち着いたF美さんを「ちょっと…。」と、病室の外に連れ出し、さらに廊下の一番端に連れて行く。そしてF美さんの目を少しの間じっと見て……。

「あのね、実はね。昨日の夜のことなんだけどね。
 M代さんのところに誰か来たっていう人がいるのよ…。」
「誰か来たって…、S子さんか、仕事場の誰かってこと?」

 しかし、そのF美さんの言葉に、婦長さんはただ首を横に振るだけ。
「じゃぁ誰?M代さんにはもう身内はいないし…。」
 自分でそう言ったくせに、ふいに心の一番下のところで妙にさざめいているものがあるのに気づくF美さん。

「ううん。いるじゃない?養子の太郎ちゃんって子が…。」
「だ、だから…。だからあれは、やっぱり院長先生の言うようにM代さんの心が創りだした
 子供なのよ。
 昨日M代さんと話していてわかったの。
 どう考えたっているわけないのよ。洗濯物のはな──。」
「それが、昨日の夜現れたのよ…。」
「ち、ちょっと、あなた…。なにを言ってるの?」

 そしてそう言って、婦長さんの瞳の奥の中に気がついて慄然とするF美さん。
 な、なによこの人…。
 現れたって、どういう言い方なのよ…。
 それより…、
 なに震えているのよ…。
 えっ、そんなこと……。

 F美さんは、その時やっと今感じた心の底の妙なさざめき…、そしてM子さんが体の調子が悪くなって話した時に感じた釈然としなさ…、さらにあの草ぼうぼうの家に感じた気味悪さ…、その他諸々を繋いでいるソレの一端に触れた思いがした。

「いや、そう言う人がいるのよ。M代さんと同じ病室の患者さんなんだけどね。
 昨日の夜遅く、女子学生くらいの娘さんと7、8歳くらいの男の子がM代さんのところに
 来て話をしていたって…。
 ね?それって、まるで太郎ちゃんじゃない…。」
「な、なんなのよそれ…。太郎ちゃんなんているはずないのに…。」

 F代さんのその言葉に、婦長さんは少しの間廊下の向こうに視線を向け、しきりと両手で腕をさすっていて…。
 そして、ふっとF美さんの目をじーっと見て。

「心の隙を魔に付け入れられた……。そういうこと…?」

 その婦長さんの言葉の真意を探ろうと、大きく目を見開いたF美さんの視線に、婦長さんは再び廊下の向こうに目を向けて。
「いや、わからない…。わからないけど……。」




17話目終わり。フっ!
                  ―――― 第17話目「昔、ある港町であったこと」*不許転載
                                      メルマガ配信日:09.11.24

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2012
05.09

17話目-その4

Category: 怪談話

 お月見の夜…。

 それが、M代さんと太郎ちゃんの最初の出会いだった。
 そしてM代さんが、太郎ちゃんと再び出会うのは次の夜……

 その年は、秋とはいえ暑い日が続いていた。
 仕事から帰ってきて、夕飯の支度をし、さあ食べようかと居間の卓袱台にお皿を並べていて、ふと開いている縁側の外を見ると…。

 竹の垣根の向こうから、こちらを覗いている坊主頭。
 なんのことはない。昨日、残った月見団子をあげた男の子。

「どうしたの?こんな時間に1人で…。ご飯は食べたの?」
 M代さんの問いかけに、竹垣の向こうでむっつりした表情で首をふる男の子。
「いらっしゃい!おばちゃんと一緒に食べましょ。」
 仕事場でわけてもらった干物なら多少はあったから、足らなければまた焼けばいいと思った。

 男の子は、昨夜と同じく縁側の前でむっつりした顔でこっちを見て立っている。
「おあがんなさい。おばちゃん以外誰もいないから心配しなくてもいいわよ。
 夕ご飯まだなんでしょ?一緒に食べましょ。」

 M代さんがそう言うと、男の子はするすると縁側に上がってきて…。
 でも、恥ずかしいのかそこでもじもじしている。
 M代さんは、男の子のそんな様子を見て堪らなく可愛くなってきて、自分の横の畳をポンポンって叩きながら、
「遠慮しないで…。さ、こっちでご飯食べましょ。早くいらっしゃい。」

 M代さんの横に座って、無心に芋を食べている男の子。まだ子供だからなのか、あまり干物には手をだそうとしない。
 気がつけば、ふかした芋を全部食べていた。

「お腹いっぱいになった?」
 M代さんが聞くと、首を大きく振って。小さな声で「おばちゃん、ありがとう。」って言った後ニコッと笑った。
 初めて見るその男の子の笑顔。M代さんは思わず男の子の頭を撫でる。

「えらいのねー。お名前は?」
「太郎。」
「太郎ちゃんっていうのー。おいくつ?」
「六つ。」
「お家はどこ?」
「あっち。」
 その笑顔とは対照的に、答えは相変らずぶっきらぼうで…。
 でも、M代さんにとってはそんなところも可愛かった。


 当時は、戦後の食糧難でこの太郎ちゃんのように満足に食べられない子供がたくさんいた。
 そういう子供は、ご飯時になると近くの比較的ご飯に余裕がある家に現れて、鬱陶しがられながらもその家で食べ物を分けてもらうというのは、よくあることだった。
 M代さんがF美さんの家にやっかいになっていた時も、ご飯時になると近所の子供が、いつの間にか食卓に並んでいたものだった。
 M代さんは、この太郎ちゃんもそんな子供のひとりなんだろうと思った。
 そんなことを考えながら、食べ終わった皿を台所に運んで居間に戻ってくると、太郎ちゃんの姿はもうどこにもなくて……。

 家に帰ったのか?
 急に家の中ががらんと感じられ、すーっと忍び寄ってくる肌寒さ。
 むっつり愛想のない子だけど、あのくらいの男の子なんてそんなもの。
 死んだ子らも知らない人がいるとあんな感じだった……。


 太郎ちゃん、明日もまた来るといいのにな…。
 そうだ!明日はなにかおかずを作って待っててみようか。あの子は何が好きなんだろう?
 M代さんは、布団にはいってそんなことを考えている。
 こんなに心がはずんでいるのは何年ぶりだろう……。


 そしてそれから、太郎ちゃんは毎晩M代さんの家にやってくるようになったんだそうです。
 最初はむっつり顔で、ぶっきらぼうにしかしゃべらなかった太郎ちゃんも、次第に打解けてきて。
 年が明けた頃には、あのむっつりした顔が可愛いニコニコ顔になり、やがてM代さんの前で楽しそうにはしゃいでいたりするようにもなったそうです。

 太郎ちゃんの家はZ町にあるらしいのですが、Z町といえば軍事関連の工場があって一番空襲の激しかった地域。
 もしかしたら親兄弟は空襲で亡くなったのでは?と、それとなく聞いてみても、それについては一切答えようとしないのは、やはり亡くなったということなのか?
 ならいっそ、ウチに住んであたしの子供になってしまえばいいのに。とM代さんは考え始めていたのだそうです。


 それは、M代さんが「太郎ちゃんがあたしの子供になってしまえばいいのに」と思い始めた頃のことだったそうです。
「M代さん、あんた、もしかしていいヒトでもできたんじゃないの?
 最近いつもニコニコしてるよ。」
って、仕事場で話しかけられたのは…。

 M代さんは、「いいヒトできたんじゃない?」とか、最初なにを言われているかわからずキョトンとしていたといいます。
 そのキョトンとしているのを、M代さんが惚けているのだと思った相手は、
「まぁいいんだけどさ…。でもたいがいにしときなよ。あんた、最近めっきり痩せたよ。
 女は痩せると、男は離れてくよ…。」って。
 そのどこか淫靡な物言いに、M代さんは相手の言っている意味がやっとわかって…。
 思わず太郎ちゃんのことを口走ってしまったんだそうです。
「いやぁねー。違うのよ。あたし、養子をもらったのよ。」


 M代さんはそれをこっそり言ったつもりだったのです。
 でも、言葉に嬉しさが溢れていたのか、それは作業しているみんなの耳にパーっと伝わって。
 みんな「よかった」「よかった」って言ってくれて。それで引っ込みがつかなくなって、遠い親戚の子を養子にしたみたいな嘘を思いついたといいます。


 みんなの祝福の後、トイレに行ったM代さん。
 嘘に嘘を重ねたので全身汗びっしょり。顔でも洗って、少しはほてりを冷まさないと。
 顔を洗っていて、ふと思い出す先ほどの「最近めっきり痩せたよ」という言葉。
「そんなわけないじゃない。だって…。」
って見た鏡の中の自分は、そう言われてみれば確かにめっきり痩せている。
「……。」


 そんなM代さんが、なんか体調がおかしいのかな?と思ったのは梅雨に入る前のことだったそうです。
 いや、その前からなんだか体がダルいとは思っていたのですが、ますますM代さんに慣れて元気にはしゃぐことの多くなった太郎ちゃんの相手をしているからだと思っていたといいます。


 ところがある日、ふと目を覚ましてびっくり。
 一瞬、今がいつなのか?朝なのか?夜なのか?平日なのか?休日なのか?全然わからない…。
 ぼんやりした頭でまわりを見回すと、自分の家の居間にいるのはわかったものの、縁側の戸がガラッと開けっ放しで、外はかなり明るい…。
 昼間で家にいる…?ということは、今日は日曜日なのか…!?
と、そこまで考えていて、ふいに完全に体全体が目覚めて──。
「大変!今日は火曜日じゃない。仕事に行かなきゃ!」
 時計を見ると、もう11時近く…。
 M代さんは、大慌てで戸締りだけして仕事場に向かったのだそうです。

 仕事場に着いて、作業を始めてやっと落ち着いて。
 M代さんは今朝目が覚めた時のこと、そして昨夜のことを考えはじめたといいます。


 昨夜は戸を開けっ放しで寝てしまったのだろうか?
 昨日は、夕方家に帰ったらいつも通り太郎が家にいて、夕飯の支度をして、太郎とご飯を食べて…。ご飯の後、 太郎と縁側に座って外を見ながら話していた…。
 あれっ?誰か来なかったっけ?誰か来て、縁側で3人並んで座って、ずっと話をしていた気がする…。

 でも誰?で、そのあとあたしはどうしたんだろう?
 太郎はいつも通り帰ったのか?その誰かは?太郎と一緒に帰った?うーん…。


 それ以上はいくら考えてもわからなかったそうです。
 まぁM代さん自身、それほど深くも考えなかったとかで、今日家に帰ったら太郎に聞けばいいやくらいに思っていたといいます。
 そしてその夜。


「ねぇ、太郎ちゃん。昨日、ウチに誰か来たわよねぇー?」
 夕飯の支度をしている後ろで遊んでいる太郎ちゃんに、尋ねるM代さん。

「うん。僕のお姉ちゃん。」
「えぇぇっ!」
 M代さんは、その驚きで思わず洗っていた芋を落として…。

「ち、ち、ちょっと…。太郎ちゃん、今なんて言ったの?
 昨日、太郎ちゃんのお姉ちゃんが来たの?太郎ちゃん、お姉さんがいるの?」
 大慌てのM代さん。太郎ちゃんの前にしゃがむと、濡れたままの手であることも忘れ、手を掴んで尋ねる。
「うん、いるよ。花子っていうんだよ。僕が、このごろおばちゃんが疲れてるみたいって言った
 から、お手伝いに来たんだよ。」


 聞けば、太郎ちゃんのお姉さんの花子さんは16歳。Z町の自分達の家に2人で住んでいるのだそうです。
 でも、話してくれたのはそこまで。
 花子さんは働いているの?学校行ってるの?と聞いても、「わかんない。」と言うばかり。

 そこまで尋ねたM代さんは、ふと思いあたって太郎ちゃんに聞いたそうです。
「ねぇ、太郎ちゃん。そういえば太郎ちゃんは昼間、ちゃんと小学校に行ってるの?」
 すると、「うん。僕、かけっこが学級で一番早いんだよ。」って嬉しそうな声が返ってきて…。
 M代さん、その言葉を聞いて、なんだかわからない妙な安堵感が心の底からとめどもなく湧き起こり、思わず太郎ちゃんをぎゅっと抱きしめたといいます。


 しかし…。
 その頃から、M代さんはその日の朝のようにふと気がつくと、お昼前くらいの時間まで前後不覚に意識がなくなっているということが、頻繁にあるようになったんだそうです。

 家のほうは、太郎ちゃんのお姉さんの花子さんが毎日のように来てくれるのでなんとかなっているものの、仕事への遅刻や欠勤の方はどうにもなりません。
 S子さんに度々注意を受けて…。

 M代さん、S子さんに注意を受けた時は、しっかりしなきゃと自分に言い聞かせるのですが、いかんせん体がいうことをききません。
 家に帰った途端バタリと倒れ込むみたいな毎日が続いて…。
 甲斐甲斐しく自分の世話をしてくれる花子さんの手の感触や、まわりでキャッキャッとはしゃぎまわっている太郎ちゃんの声は、夢うつつに憶えているのですが、いつも気がついた時は次の日の午前中。
 独り、自分の家の居間のどこかに倒れていたといいます。


 M代さんがそこまで話した時、F美さんは話を遮り聞いたそうです。
「じゃぁ洗濯なんてどうしてたのよ?」
 するとM代さんは、一瞬驚いたような顔をして…。
「洗濯…?仕事が休みの日にやって…。やってたんでしょうねぇ…。
 ずっとそうでしたから…。」
「だってあなた、洗濯物はどこ干してたのよ?」

 M代さんの家の庭は草ぼうぼうです。
 あの伸び方はここ1ヶ月くらいの伸びではありません。少なくとも梅雨に入ったくらいからほっぽらかしにしないと、あそこまで草ぼうぼうにはなりません。
 だとしたらこの何ヶ月間か、洗濯物はどこに干していたというのか……。






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2012
05.08

17話目-その3

Category: 怪談話

 F美さんは婦長さんに、M代さんの家に捜しに行った事や、学校に行って先生達にいろいろ聞いても何もわからず、結局太郎ちゃんって実在しているんだろうかという疑問にいたった経緯を話したといいます。

 しかし、話し終わった途端、婦長さんもうーんと考え込んでしまって…。
 結局2人は、院長先生に相談することに。
 F美さんの話を聞いた院長先生も、やはりしばらく何も言わず考えていたそうですが、こう推測したんだそうです。
「恐らく太郎ちゃんというのは、戦争で身内を全て失ったM代さんが、その悲しみから逃れる
 ために心の中で創りだした架空の子供ではないのか?」
 とはいうものの…。
 F美さんは思ったそうです。
 確かに院長先生の言うことは、いちいち納得できるのだが…。
 でも、もし万が一太郎ちゃんが本当にいるのだとしたら…。
 だとしたら、その場合このまま放っておいてよいものなのか?

 養子とはいえ現在の太郎ちゃんの親はM代さんです(もちろん、それは実在するとしたらということですが、とりあえず実在していると考えるならば)。
 太郎ちゃんは、M代さんが今病院にいるということを知りません。
 それは、F美さんが家で倒れているM代さんを見つけて、取るもとりあえず病院に担ぎ込んだからです。
 しかしそれは、状況が全くわからない太郎ちゃんにしてみれば、M代さんがいきなり自分を見捨ててどこかへ行ってしまったという状況であるわけです。

 7歳といえば人格が形成される大事な年頃。
 そんな時期に親兄弟を戦争で亡くすということだけでも大変なのに、その後M代さんとの暮らしの中でやっと見つけた安らぎが裏切られたと思い込んでしまったら…。

 F美さんは、院長先生の言うことが正しいのかもしれないと思いつつも、もしかしたら存在しているのかもしれない太郎ちゃんという子供の為。ひいてはM代さんの為に、太郎ちゃんはいるのだという前提で事にあたる必要もあるのでは?と、院長先生と婦長さんに言ったといいます。
 F美さんの言うことに、2人はなるほどと肯いていましたが、やがて院長先生はこう言ったんだそうです。

「太郎ちゃんが本当にいるのなら、7歳の子供が1人で暮らせるわけもないだろうから、やは
 りかつて面倒をみていたという親戚の家にいるということなのだろう。
 であれば、今度M代さんが目を覚ましたら親戚の家を聞いて、M代さんが病院にいることを
 話して、後のことはそれから考えればよいのではないか。」

 M代さんが目を覚ましたという報せがきたのは、F美さんと婦長さん、院長先生との間でそのような結論が出てすぐのことだったといいます。
 そして診察の後、F美さんは病室でM代さんと話をするのです。


「どう?調子は…。」
 と、どこかおずおずした口調で尋ね、そして見たM代さんの顔色は思いの他よかった。
 なにより、この間話した時と比べて目の中がしっかりしている。

「どうもすみません。先生からお話聞きました。F美さんがあたしをここまで運んでくださったんですってね。
 本当にご迷惑ばかりおかけして申し訳ありません。」
 M代さんの物言いは、言葉遣いも内容もしっかりしていて、F美さんは、もう大丈夫だという安堵の思いを強くした。

 F美さんは椅子に座ると、M代さんの手をぎゅっと握り、目を見ながら静かな口調で話し始めた。
「M代さん。あなたね、いい?あなたはね、あたしの親友のC子さんの娘なの。
 C子さんが死んでしまった以上、あなたはあたしの娘も同じなの。迷惑だなんてそんなこと
 考えないで、なによりまず早く体を治しなさい。
 それとね、もうひとつ大事なこと。あなたの子供の太郎ちゃんのこと。
 今、なにより真っ先にしなければならないことは、あなたが病気で倒れて病院にいるという
 ことを、太郎ちゃんに知らせなければならないってことなの。
 それはわかるわよね?わかるからこそ、その体で病院を抜け出そうとしたんでしょ?
 先に言っとくけど、あなたの家に太郎ちゃんはいなかった。
 倒れているあなたを見つけた時と、その日の夕方2度行ったけどいなかった。
 ということは、たぶんあなたが前に言ってた、あなたが体調が悪い時に太郎ちゃんを面倒見
 てくれてたっていう親戚。たぶんそこにいるんじゃないかと思うのよ。
 その親戚の家に、あなたがここにいるって事を伝えに、いますぐあたしが行ってくるから、
 その家がどこの誰なのか教えてちょうだい。」

 しかし話しの途中から、なんだか様子がおかしいM代さん。
 顔をゆがめるようにぎゅっと目をつぶり、その目からは大粒の涙が溢れ出し、みるみるうちに頬を流れだしていく。
 そして、F美さんがぎゅっと握っているその両手を拝むかのように顔を近づけ、嗚咽をもらし背中を震わせながら…。
「ご、ごめんなさい。そ、それだけは言えません。」
 そう言って泣き崩れる。

 病室の中、M代さんの嗚咽だけが聞こえている…。


 F美さんは、そんなM代さんの背中をやさしく撫でながら、しばらくそのまま泣くがままにさせていたそうです。
 やがてM代さんの背中の震えが落ち着いた頃、さきほど院長先生と婦長さんに話した、今太郎ちゃんが置かれている状況と、そしてそのことで太郎ちゃんがどう思っているのかということを諭すように話したといいます。

 しかし、それでもなおM代さんは、なぜかその親戚のことについては頑なに話すのを拒んでいて…。
 F美さんはそんなM代さんの背中をピシャリと叩いて言ったそうです。
「じゃぁ、太郎ちゃんはどうするの?あなたがどこに行ったのかわからないまま、ずっとその親戚の家に置いて
 おくつもり?
 あなた、そんな無責任なことでどうするの?」

 そして、再び激しく泣き崩れるM代さん。
 そしてそれがやっと落ち着いた頃、観念したようにポツリポツリと話し出したんだそうです。
 それは、F美さんが思いもよらなかったことだったといいます。

「F美さん。これは、お願いです。お願いですから誰にも言わないと約束してください…。」
 F美さんの両手をぎゅっと握ったまま、じっとF美さんを見つめるM代さん。F美さんは、特に深くも考えもせず頷いたといいます。
「実は、太郎が親戚の養子だっていうのは嘘なんです。太郎は実は…。」

 そうしてM代さんは、去年の秋に太郎ちゃんと出会った経緯を話し始めたんだそうです。


 それは去年の秋、中秋のお月見の夜のこと。
 M代さんやF美さんの住む地方では、お月見の夜に縁側にお供えした月見団子を近所の子供達が盗りにやってくるという行事があった。
 盗るといっても、泥棒ではなくそういう行事で、子供達にとっては秋の楽しみのひとつだった。

 空襲で子供を亡くしたM代さんにとっては、月見団子を盗りにやってくる無邪気な子供達の姿を見ることができるのが楽しみで、その夜は団子をたんとこしらえ準備していた。

 もちろんやってくる子供達の姿に、ついつい亡くした自分の2人の子供をダブらしてしまうのは辛いのだが、元気な子供達に接することで今より自分の人生に前向きになれるんじゃないかという期待もあった。
 F美さんからずっと勧められていた縁談を、今まではずっと断ってきたが、そろそろそんなことを真剣に考えてもいいのではないか?そんな気持ちも芽生えはじめていた。

 そんなことを考えていて、ふと縁側を見ると。
 縁側の下から月見団子に伸びる小さな手……。
 あれでも一生懸命隠れているつもりなんだろうと、思わずクスッと笑ってしまうM代さん。
 その笑い声に気がついたのか、途端に「わー!」って声があがり、入れ替わり立ち代り何人かの子供達が、団子をむんずと掴んで走って行く。
 たちまち団子をのせたお皿は空っぽ。
 M代さん、団子を補充しとかないとまた子供達が来たら困っちゃうと、慌てて団子を持ってこようと皿を手にとると…。

 見れば、さっきの子供達にひとり置いてかれたのか、4、5歳くらいの男の子。
 M代さんの顔をポカーンと見上げている。
「ちょっと待っててね。すぐ持ってくるから。」
 そう言って、いそいそと台所に戻る。

 そんなことを何回か繰り返して、気がつけばもう10時近く…。
「あらっ?もうこんな時間…。」
 さすがにこんな時間となっては、子供達はもう来ないだろうと縁側の団子の残りやススキを片付けようとして、ふと空を見上げる。

 空には真ん丸ないい月がのぼっていた。
 しばしその月をぼうっと眺めていて…。
 今夜来た子供達のその無邪気で夢中な仕種を思い出していて、独りクスクスと笑いだしている自分に気がついた。
 なんともいえない楽しい気分…。こんな楽しい気持ちになったのは何年ぶりだろう。
 そう、あたしだって、もっと前向きに生きていかないと…。

 カサッ、カサッ…
 垣根の向こうからこちらを伺う気配を感じる。

 うん!?こんな遅い時間…。まだ子供達歩いているのかしら…?
 竹の垣根で囲った庭の向こう、見え隠れするのは白いシャツと坊主頭…。
「大丈夫。まだお団子残ってるわよ。入ってらっしゃい。垣根をグルって廻れば入れるから…。」

 幸い、団子はまだいくつか残っていた。
 子供達が残らず盗ってってくれるならなによりだ。月見団子は盗られれば盗られるほど福がやって来るっていうし…。

「おばちゃん、お団子ちょうだい…。」
 縁側の前に立っていたのは坊主頭の男の子。
 十五夜の月の光の下、むっつりした目がM代さんを見上げている。

「おばちゃん、お団子ちょうだい…。」
 もう一度、同じことを言う男の子。
「あっ、ごめんね。もうこれだけしか残ってないから、全部持っておいき。」
 そういって皿を手にとり、男の子の前に出す。

 男の子は、わずかの間、目の前に差し出された皿を見ていたが、やがてさっと右手を伸ばし団子を手にとった。
そして、一瞬M代さんの顔を見上げたかと思うと、
「おばちゃん、ありがとう。」
 そうひとことだけ言って、タタタターって庭を駆けて行ってしまった。

「6歳か、7歳くらいかな?」
 頬の線のところが、ちょっとだけ死んだ子に似ていた……。






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2012
05.07

17話目-その2

Category: 怪談話

「M代さーん!M代さ──。」
 開いた玄関から飛び込むように入った途端、F美さんの声が一瞬止まる。
 家の中は真っ暗。何も見えない…。

「きゃっ!」
 なにかグニュっとしたものを踏んづけて思わず悲鳴をあげる。
 なんのことはない。ただの履物だった。

 外の健康的な夏の陽射しとは対照的に、背丈を越す雑草に取り囲まれた家の中は、目が慣れてないせいもあるのだがとにかく暗い。
 とはいえ次第に目が慣れていって…。
 開いた玄関からの光が廊下を斜めに伸びていて、ぼんやり家の中の様子が見えてくる。

 外の荒れ具合とは裏腹に、家の中は意外なくらい片づいている。
 うっすらホコリこそついているものの、散らかっている感じはない。
 ただ、陽がほとんどはいらないせいなのか、夏だというのにどこかひんやーりした空気の中に、人の気配は全く感じられない。

「M代さん…、入るわよ…。」
 そうひとこと言って框にあがった途端、かすかに不快な臭い──。
「Mっ、M代さんっ!」
 慌てて廊下の横の襖を開け、スーっと弱い光が差し込んだ部屋の中に見えた白い脹脛…。

「M代さん!大丈夫?」
 もう後先考えずその部屋に飛び込むF美さん。
 そこで見つけたのは、畳にベタッとうつ伏せの状態でコトリとも動かないM代さんの姿。
 生きているのか死んでいるのか抱き起こしてみても、M代さんはF美さんのなすままがまま。ただただダラーンと全身をF美さんにあずけてくるばかり…。


 不幸中の幸いといったらいいのか、M代さんは衰弱しきって意識を失ってはいたものの、生きていたんだそうです。
 担ぎ込んだ病院で、医者が衰弱してはいるものの命に別状はないという言うのを聞いた瞬間、緊張が一気に解けたF美さんは、思わず近くにあった椅子に崩れ落ちるように座り込んだといいます。

 しかし、その安心もつかの間。
 思うのは、M代さんの養子の太郎ちゃんのこと。いったい太郎ちゃんは今どこにいるのか?
 小学生だから今は夏休みのはず。
 でも、あの時家には倒れていたM代さん以外誰もいなかった。
 もっとも、倒れていたM代さんを見つけた後は、大慌てで病院に来てしまったので、家の中を全部見たわけではないのだが…。
 やはり、もう一度行ってみるしかないのか?
 しかし……。


 F美さんは、夕方近くなってもう一度M代さんの家に行ってみようと思ったといいます。
 ただ…。
 なんなのかはわからないのですが、妙な薄気味悪さが次から次へと湧いてきて…。1人では行くのはどうしても嫌。
 そんなこともあり、一番信頼していたS子さんと一緒に行くことにしたんだそうです。


「ちょ、ちょっと…。なんなのよ?この家…。」
 雑草に取り囲まれたM代さん家を見た途端S子さんは、夏の夕時だというのに首の後ろから背筋にゾワッと冷たいものが走った。
 お昼に一度見たはずのF美さんも、あの時はM代さんのことが心配で慌ててそれほど注意深く見ていなかったからなのか、それとも今が夕時という時間帯だからなのか、妙な心のざわめきが抑えられない。

「そこが、玄関…。」
 F美さんは雑草がわずかにまばらになった場所を指さすと、意を決したように先に入っていく。
 玄関の戸を開けると暗い室内は、夕方でさらに暗さを増していて。
 外で鳴いていたヒグラシの声がやけに遠くで聞こえ、深閑さをより際立たせている。
 やはり誰かいるという感じは全くない家の中…。

「ねぇ…、M代さんって、本当に毎日こんな所から通ってたの…?」
「通ってたの?って、じゃぁどこから通ってたって言うのよ?」
 振り返ってキッと見るF美さんに、思わず目をそらすS子さん。
「そりゃそうだけど、そんなこと言ったって、これ……。」

 そう言いながら、驚きの表情でまわりを見回すS子さんの様子を見て、思わず深いため息をつくF美さん。
 S子さんの言うとおりだ。本当にM代さんは、こんなお化け屋敷みたいな家から毎日仕事場に通っていたのだろうか…。

「そんなことより太郎ちゃんよ。いったいどこにいるのかしら?」
 その言葉に、なにも言わずにうなずくS子さん。
「入るわよー。」
 2人はそう言って框に足をかけた。

「この部屋にM代さんが倒れてたのよ。」
 そう言いながら、F美さんは電燈を点けようと頭上の中空をさぐる。
「あった。」
 やっと点いた電燈。部屋の中を照らす橙色の光が妙に安心感をくれ、やっと落ち着く2人。

「家の中は、きれいにしてるんだけどねー。」
 お昼の時も見たように、ホコリがうっすらとたまっている他は、部屋の中はきれいに片付けられている。

 部屋の隅にきちんと重ねられた座布団。その所々には丁寧にツギがしてあって…。
 障子にも、やはり同じように2、3箇所半紙を花の形に紙を切り抜いて貼って補修してある。
 それらは、いかにも丁寧できちんとしたM代さんを感じさせる…。

「ねぇー。F美さん、F美さん…。」
 S子さんの声にふと顔を上げると、
「太郎ちゃん…、のかなぁー?」
 S子さんの視線の先には、壁に掛けられた真新しい子供の服。
 それは、心なしか近所で見る子供達の服より上等のようにも見え…。

「やっぱりM代さん、太郎ちゃんにいい思いさせようとして無理しすぎたのかねぇ…。」
 と、かすかに声を震わせながら言うS子さん。
「困ってるんなら遠慮なく言ってくれればいいのに…。」
 F美さんも思わず涙ぐんでしまって。
「それはそうと、その太郎ちゃんよ。M代さんが病院にいる間、あたしがちゃんと面倒みなきゃ…。」


 しかし、そのM代さんの家をいくら捜しても太郎ちゃんは見つからなかったといいます。
 たぶんM代さんが言っていた、M代さんが引き取る前に面倒みていた親戚の家にいるのだとは思うのですが、それがどこの誰のことなのかわかりません。
 仕方なくM代さんの家を後にした2人は、ふと小学校に行って聞いてみたら?と思ったんだそうです。
 太郎ちゃんは小学校に通っているのだから、担任の先生に聞けば全てわかるはずだ。と…。

 しかし…。
 次の日小学校に行って聞いてみても、全く要領を得なかったのです。
 それどころか、M代さんが保護者になっている生徒なんていないということがわかって…。

 もしかしたら、名簿は元の親のままで修正がされてないのかもしれないと、今度は生徒の名簿から太郎という名前の生徒を一人一人あたってり、その担任の先生に聞いてみたのですが、どの生徒もどこに住んでいて親は誰々とハッキリとわかっていたということです。


 それは、小学校を出て帰り道。
 「これは、役所の戸籍係に聞くか、警察に相談するしかないのか。」と話しながら歩いていた時、S子さんがぽつりと…。

「ねぇ、F美さん…。変なこと言うようだけどさ…。ね、怒らないで聞いてよ…。」
 そう言ったくせして、何も言おうとしないS子さんに、F美さんはちょっとイライラっときて。
「なによ?早く言いなさいよ。」
「いい?怒らないで聞いてよ。ねぇ…、太郎ちゃんって…、太郎ちゃんって…本当にいるの?」
「な、なに馬鹿なこと言って……。」

 実は、そう言ったF美さん自身も、それは意識下では思っていたことだった。M代さんが太郎ちゃんという養子をもらったという話は、確かにM代さんから聞いた。
 でも、その太郎ちゃんという子を実際に見た者はいない……。

「ち、ちょっと、そ、そんな…。いくらなんだって、そんなことって…。
 そ、そうよ、家にあったじゃない!太郎ちゃんの服が!」
「そう、服はあったわ。確かに…。でも太郎ちゃんはどこにもいないじゃない。F美さんは太郎ちゃんのこと見た ことある?ないでしょ。
 あたしもないわ。そう、太郎ちゃんのことを見た人は1人もいないのよ。」


 とはいえ、そう言っているS子さん自身が、自分が言っている事に愕然としながら話していたんだそうです。

 でも…。
 なら、なんでM代さんは、冬から春くらいにかけてあんなに元気になったのか?
 そもそも、なんでそんな嘘をつかなければならないのか?
 2人はいくら考えてもわからなかったといいます。

 そして、何日かが過ぎて…。
 M代さんが意識を回復したという報せで、病院に駆けつけたF美さん。
 ところが、M代さんはあいかわらずベッドで眠り続けていて…。

 聞けば、意識を取り戻してすぐ病院から脱走を図ったというのです。
 しかし、歩き回れるほど体力は回復していないM代さんは、病院の前で倒れているところを通行人に見つけられたのだそうです。


「息子さんがいるんでしょ?太郎ちゃんっていう…。」
 知り合いでもある婦長さんにそう言われて、なんて答えたらいいかわからないF美さん。

「ううん…。それが…。」
「目を覚まして最初の言葉がその名前だったのよ。
 この患者さんの場合、病気というよりは栄養失調みたいなものだから、会わせて元気出して、たくさん食べても らって栄養をつけた方がいいんだけど…。
 もしかして、あの空襲で…?」
 そうF美さんの顔を窺うように言う婦長さん。

「うん。実の子供2人は例の空襲で亡くなったのよ。太郎ちゃんというのは養子なんだけど…。」
 F美さんのその言葉に、婦長さんはホッとした顔をして。
「じゃぁ連れてきてよ。今は薬で寝ているけど、目を覚ましたらまたさっきみたいに脱走しかねないわ。」
「それがね…。いるのか、いないのかすらわからないから困ってるのよ。」
「なんなのよ、それ?」




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2012
05.05

17話目-その1

Category: 怪談話

 メルマガを始めたのは3年位前なんですけど、この17話目のお話を文章にした時っていうのは、まだ長いお話を書くのに慣れてなかった頃で。
 その時は、出来るかぎり書いたつもりだったんですけど、今になって読み返してみると、お恥かしながら相当たどたどしい文章なんですよね。
 直してからブログにアップしようかと思ったんですけど、やりはじめてみたら、それもまた結構骨で。
 ということで、ほぼメルマガで配信したまま載せとこうと思います。
 いつか、キチンと書き直してみたいですねぇ。


17話目-その1
 
 終戦から何年か経った頃のこと。
 とある港町に、F美さんという女性が切り盛りする小さな水産品の加工会社があって。
 まぁ会社といっても、F美さんや近所の主婦達といった気心の知れた者同士で和気藹々と働く。そんな会社だったそうです。

 F美さんは、会社を切り盛りするっていうくらいですから、体も心も貫禄充分だったとかで、まぁ港町の肝っ玉かあさんとでもいえばわかりやすいのでしょうか。
 終戦直後の混乱期。自分の家族のことだけでも大変なのに、社員である近所の主婦やその家族までに気にかけて、出来うる限りいろいろと世話を焼いていたといいます。

 その社員の中に、M代さんという30代前半の女性がいて。
 そのM代さん。F美さんにとっては幼馴染のC子さんの娘だったとかで、子供の頃から実の娘のように可愛がっていたんだそうです。

 ところが…。
 先の戦争でM代さんの旦那さんは戦死。
 追い討ちをかけるように空襲で子供2人と実の親、さらには義父母まで亡くして…。
 さらには、実の兄弟も満州へ渡ったまま行方知れず…。

 F美さんは、魂の抜け殻のようになったM代さんをしばらく自宅に住まわせ、いろいろと面倒をみたといいます。
 やがて、普通に暮らせるくらいには回復したM代さんは、F美さんの世話で町外れに家を借りて1人で暮らすようになって。
 M代さんはまだ30代前半。再婚して充分に幸せを築ける年齢です。
 F美さん、よさそうな相手を見つけて勧めてみたのですが、M代さんは首を横に振るばかり。

 その頃のM代さんときたら、仕事には毎日キチンキチンとやって来て人一倍仕事をこなしてくれるのですが、誰とも口をきこうとしない。
 それどころか笑顔すらこれっぽちも見せない。そんな状態だったとかで。

 誰もが事情はわかっているし、また誰もが多かれ少なかれ身内を亡くしているので気持ちは痛いほどわかるのですが。
 でも、いつも独り暗い顔をして黙々と仕事ばかりしているM代さんを、みんなしだいに煙たがるようになって…。そのうち、そんな陰口がF美さんの耳にまで入ってくるようになってきて、どうしたものかと胸を痛めていたのだそうです。


 正月が来てひと月があっという間に過ぎ、さらに少したった頃…。
 ある夜のこと、F美さんはお風呂に入っていて、ふと思い出したのは、「あれっ?そういえば今日帰る時、M代さん、笑って挨拶してったわよねぇー…。」
 ああ、少しは元気になってくれたのかしら?なんて考えていたその翌日。

「おはようございます。」
「おはようー!」
 力強い声の挨拶に、ふと顔をあげると、それはまるで昔に戻ったかのような笑顔のM代さん。
 そして、仕事中もみんなと楽しそうに話している。

 そこでF美さん、後で作業の責任者のS子さんに聞いてみると。
「最近、M代さん元気になったわよねー?」
「うん。そうなのよー。M代さんね、なんでもねぇ、養子をもらったらしいのよ。亡くなった子よりはちょっと年 下らしいんだけどね。でもそれで、すっかりハリがでてきて元気になったらしいのよ。」


 F美さんはそれを聞いて、「なんで、あたしには知らせてくれないんだろう?」とちょっと複雑な思いがしたといいます。
 とはいえ、M代さんが元気になって幸せに暮らしてくれるのならそれが一番です。
 早速その日の仕事の終わると、M代さんに声をかけたんだそうです。


「養子をもらったんだって?お祝いしなきゃねぇー。」
 そう言ったF美さんに見せたM代さんの嬉しそうな笑顔ときたら…。
 まるで親に褒められた小さな子供のよう。
「お祝いだなんてとんでもないです。F美さんにはお世話になりっぱなしで…。
 太郎がもう少し慣れたら2人でご 挨拶にお伺いしようと思ってたんですよ。お伝えするのが遅くなってすみま せん。」
 そう言って深々と頭を下げるM美さん。
「まぁそんなことはいいんだけどね。へぇー、太郎ちゃんっていうんだ。いくつなの?」
「7歳なんです。養子には難しい年頃なんでしょうけど、幸いなついてくれたみたいで…。」


 聞けば、その太郎ちゃん、遠い親戚の子なのだそうですが、空襲で親兄弟を亡くして。やはり1人になってしまったM代さんが引きとって育てられるなら、それが一番なんじゃないかってことで決まったということでした。


 月日の経つのは早いもの。
 F美さんがM代さんとそんな話をした時から何ヶ月か経った夏…。

 F美さん、最初は「M代さん、最近遅刻が多いなぁー。」なんて思っていたんだそうです。
 とはいえ、養子の太郎ちゃんのことや何かで色々と大変なんだろうと見過ごしていたといいます。
 ところが、そのうち無断で欠勤することが度々あるようになり…。

 F美さんの水産加工会社はその頃かなり順調だったとかで、F美さん自身は作業に関わってばかりいられなくなって、どちらかといえば外を飛び回っている時が多かったといいます。
 そんなある日、作業の管理をまかせているS子さんから「M代さんとちょっと話をしてほしい。」と言われて。
 F美さん、「遅刻や欠勤の注意くらいならS子さんでも問題ないのに…。」と思いながらも、久しぶりにゆっくりM代さんと顔を合わせたといいます。

 ところが…。
 F美さんは、M代さんをひと目見てビックリ。
 体の肉がげっそりと落ちてしまったのが、服の上からでもハッキリとわかる…。そして、血がすっかり抜けてしまったような白い顔。
 肌は妙にかさつき、頬はこけ、目の下には深い隈。
 隈のせいかやけに大きく見える目の中に浮かぶ黒目は、妙にぼんやり焦点が定まらない感じ…。

 F美さん、S子さんが「話してほしい。」って言ったこと、そういう意味だったのかって、やっとわかったといいます。


「M代さんどうしたの?そんなに痩せて…。どこか悪いんじゃないの?」
 F美さんがそう言った後の不自然な間。それはまるで、すぐに反応できないかのようで…。
「…す、すみません。梅雨に入る前くらいに風邪をひいて、それがどうも抜けないみたいで…。会社へは連絡しな きゃとは思ったんですけど…。」
「そんなことより、あなたはちゃんと食べてるの?あなたがそんなじゃ、太郎ちゃんにご飯も作ってあげられない んじゃないの?太郎ちゃんは毎日元気に学校行ってる?」
 心配のあまり強くなるF美さんの口調に、M代さんは逆にシャンとしたのか。
「はい。太郎は元気です。時々あたしが太郎を引き取る前に面倒をみていた親戚が来てくれて…。
 それでなんとか やっています。」
「そう、ならいいけど…。で、あなたはどうなの?お医者へは行ったの?」
「えっ?お医者…。あぁ、ええ…。行きました。
 ち、ちょっと風邪をこじらしたようだけど、じきに治るだろうって言ってました。」
「ならいいんだけど…。」


 F美さん、M代さんの言っていること、どこか釈然としなかったんだそうです。
 ただ、それが何なのかわからなくって…。
 結局その場をやり過ごしてしまったんだそうです。

 ところが、その何日か後。
 F美さんがお客を見送っていると、後ろにS子さんが来てしきりと服を引っ張ります。
 お客さんが帰るところだっていうのにもうなんなのよと、振り返って見たS子さんはいつになくあたふたしていて。
「M代さん、今日もまた来てないのよ。大丈夫なのかしら?」

 F美さんはそれを聞いた瞬間、顔の血が一気にストンと落ちたような気がしたといいます。
 途轍もなく嫌ぁーな予感が襲ってきて…。
「ち、ちょっと…、M代さんの家に行ってくるわ。あとお願い!」
 どうやらS子も同じ思いだったのでしょう。
「それがいいと思うわ。早く行ってやって。」
 そう言いながら何度も頷いていたといいます。

 F美さん、世話した事もあり家の場所は知っていたんだそうです。
 丘の迫る町外れの、急な坂道を登って一番奥にある小さな平屋。
 その急坂を今にも壊れそうな音をたて登っていくオート三輪。
 そのハンドルを握りながらF美さんは「あなたの娘を守ってあげて!」と、亡くなった幼馴染のC子さんに祈りつづけたといいます。

 その急坂を上りきって、M代さんの家を見たF美さん。一瞬、どこかで道を間違えて違う家に来てしまったかと思ったそうです。

 それくらいM代さんの家は荒れはてていて……。


 ススキやらなにやら背丈より高い雑草に覆われた家。
 かろうじて見えるものといったら、錆びの浮かんだ灰色のトタン屋根と軒先くらい。窓なんか雑草に隠れてどこにも見えない。そもそも、どこから出入りしたらいいのか…。

 よく見ると家のまわりは竹の垣根が…。その垣根のない部分にわずかに雑草がまばらな所があり、目を追っていくと雑草と雑草の隙間にわずかに覗いているのは、玄関の引き戸の曇りガラス──。
「M代さーん!大丈夫ーっ!」

 それに気がついた瞬間、F美さんは大声をあげながらその獣道のような雑草の中に分け入っていた。
 元々猫の額のような小さな敷地。F美さんは、すぐ玄関にたどり着き、戸を乱暴にガンガンと叩く。
「M代さーん!M代さーん!大丈夫ーっ!」
 しかし、F美さんの切羽詰った大声とは対照的にシーンと静まり返った家の中。
 矢も楯も堪らず戸の取っ手に手をかけると、玄関の戸はするーっと開いて……。




── 本日これまで!
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2012
05.05

『淑やかな悪夢』

Category: R&R

 まぁ、怪談話のブログなんで。怪談本やホラー小説の紹介もしないとマズイのかなーって思いまして。
 ただ、最近はほとんど読まなくなっちゃったんで。
 ということで。ヒマをみつつ、今まで読んだお気に入りの怪談本やホラー小説を、あらためて読み直して紹介してみたいと思います。


 まずは、『淑やかな悪夢』。
 英米の女性作家による、怪奇アンソロジーです。
 前々世紀半ばから前世紀半ばくらいまでの作家の作品なので、まぁ「古典」といってもいいのかもしれません。
 よくある怪奇小説のアンソロジーなんですけど、女性作家だけで編まれたっていうところがミソのようで。
 確かに読んでみると、そう言われてみればどこか男性の書く小説とは違うような…、というか、女性らしい…、なんだろ?丸味みたいなもの?を感じるような気も…!?(気のせいかも?)

 この本、けっこうあちこちで書かれてますけど、この中に入っている『黄色い壁紙』というお話が、“書かれるべきではなかった、読む者に正気を失わせる小説”ということで知られているようで。
 いや。実は私もそれを聞いて読んでみた口です。

 入っているお話は、以下の通り。

『追われる女』シンシア・アスキス
 冒頭だけあって、いかにも正統な怪奇短編小説って感じのお話。
 それはいいんですけど、最後までもが「正統すぎ」のような気も…

『空地』メアリ・E・ウィルキンス・フリーマン
 安くていい家を手に入れたことで始まる、いわゆる現代の実話怪談で言う「物件怪談」ですかな(?)
 登場人物がちょっとコミカルなんですけど、よくよく読むと出来事も雰囲気も結構不気味で、結構きます。

『告解室にて』アメリア・B・エドワーズ
 前のお話が「物件怪談」なら、こっちは「旅先の怪談」か?
 ただ、雰囲気はこっちの方が古典的な感じがします。
 短編小説としてはともかく、怪談話として読むなら、むしろこのくらいの怪異の方がきますね。

『黄色い壁紙』シャーロット・バーキンズ・ギルマン

『名誉の幽霊』パメラ・ハンスフォード・ジョンソン
 お館に住みついている陽気な幽霊さんのお話。
 ユーモラスな雰囲気なだけに、最後は…。
 落語でやったら面白そうなお話。

『証拠の性質』メイ・シンクレア
 いわゆる、前妻の幽霊モノ(?)
 後半は変な展開で、思わず笑ってしまいました(!?)
 これも、艶噺として落語でやったら(相当ムズカシイ?)、かなり面白くなりそうなお話。

『蛇岩』ディルク夫人
 町や村と隔絶された孤島の城に住む呪われた母娘のお話。
…ということなんだろうけど。むしろ、そういう所に住んでいるがゆえの狂気に陥った母娘のお話として読んだ方がいいのかも!?
 この母娘って何やって暮らしてるんだろ?とか、娘と結婚する男とか、なんだか舞台設定がよくわからないお話です。雰囲気はいいんだけどねぇ…。
 
『冷たい抱擁』メアリ・E・ブラットン
 恋人を裏切ると祟られるというのは、古今東西同じなようで。
 ラストは、パリの謝肉祭の喧騒の中で終わるんですけど、こういう喧騒の中の怪異というような展開は、ぜひ映像で見てみたいですね。

『荒地道の事件』E&H・ヘロン
 それこそ「怪奇探偵のなんちゃらかんちゃら」みたいなタイトルで、現代でも書かれてそうなお話。
 登場人物が言ってることも、現代のそれにまさに出てきそうで…。
 つまりソレっていうのは、本当にあるから同じになるのか?それとも、人間なんて所詮考えることは皆同じってことなのか?
 
『故障』マージョリー・ボウエン
 雪の夜のクリスマスイブの怪談話ってことで、かなり好みなお話。
 内容も不気味、かつ怖っ!&ロマンチック+ドリーミーでいいなぁこういうお話は…。
 と、思いつつも最後のハッピーエンドって、ホントにハッピーエンドだったの?って気もしたり…。
 おいしそうな食事が並んだテーブルの上に、古ぼけた剥製を出されたようなそんな感があるハッピーエンドですね。

『郊外の妖精物語』キャサリン・マンスフィールド
 「妖精」って…、まぁ確かに妖精なんだろうけど、怪奇短編小説として読んでいるんで、感覚的にズレちゃうような!?
 だからって、今時の実話怪談みたく「小っちゃなおじさん」としちゃったら思いっきりシラけちゃうんでしょうけどね。
 と、思わずイチャモンつけちゃうのも、このお話がかなりお気に入りだからで。
 舞台が、「こじんまり居心地の良い(郊外の)家」。家族で朝食を食べている時に庭にスズメが寄って来て…と、身近な設定なせいか他のお話より全然リアル感があるんですよね。
 他のお話が暗い色の油絵なのに、このお話だけ水彩画ってトーンなのがいいです(いや。油絵的なトーンが嫌いってわけでなく)。

『宿無しサンディ』リデル夫人
 語り口のせいか、ちょっと落語っぽいお話。
悪魔が出てくるんですけど、悪魔と牧師さんの会話やその情景も妙に落語っぽいテイストがあります。
 ただ、最後(オチ?)はよくわかりませんでした。
 怖いのか?オチなのか?


 で、ウワサの『黄色い壁紙』ですけど。
 実は、恥ずかしながらよくわからなかったんです。
 とはいえ、こういう時ネットというのは便利なわけで…。
 で、検索してみたら、なるほどそういうことなのかなぁ…?って、まぁそれなりには納得したんですけど。
 でも、だとしたら私は、このお話はつまらないですね(まぁ時代の波っていうのもあるんでしょうけど)。

 私は、やっぱり『故障』や『空地』『告解室にて』『冷たい抱擁』のような、シンプルな幽霊譚(いわゆるゴースト・ストーリーってヤツ)が好きなようです。


 とはいえ…
 『黄色い壁紙』とそれを解説したブログを読んだら、以前から読んでみたかった『悪魔に食われろ青尾蠅』というミステリ小説を無性に読んでみたくなって、思わず買っちゃいました。
 やっぱりずっと読みたかった『レベッカ』を買ったばかりだったんですけどねぇ…。


 

 実は…
 私の家には、前々からひとつの怪異がありまして。

 それは、いつの間にか積読本が増えているという、困った怪奇現象なんですけど。
 つまり、またそれが起きたみたいで……



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