2017
02.19

怪談:17.2.19『姉弟掛け合い怪談-その5』


 弟のそんな話を聞いていたら、鍋の中はちょうどいい具合。
 ルーを入れて、ひと煮立ちさせたらもう出来上がりだ。
「どうしようか。もぉ出来ちゃうけど、食べちゃう?」
 あー、でも、怪談を聞きながらの夕食っていうのもなぁ…
「だから、ねーちゃんさ。TVでこないだ言ってたんだよ。
 カレーは、一回冷やした方がウマくなるって。
 2日目のカレーがウマイのはそういう理由らしいよ。」
「冷やすぅ!?
 冷やすって、たぶん1時間や2時間じゃぁ冷えないよ。
 ていうか、アンタ。一回冷やした方がウマイって、いったい何の番組を見たのよ?」
「えー、だから料理番組だけどぉ…。」
「りょ、料理番組って…、えぇっ!?
 なんで、アンタが料理番組よ?」
「え…、あっ、あぁ。
 えーと、えーと、だからー、そぉ!たまたま…。」
 その急にしどろもどろになった口調と、何やら天井を見ている目の玉。
 つまり…、またもや、そういうこと。
 はぁー
 「あなた色に染まる」というのは、ついこの間までは女の専売特許だったと思うんだけど…
 いやはや。
 染まる楽しさを忘れた女――わたしのことだ――もどうかと思うが。
 染まる楽しさに目覚めてしまった男――弟のこと――というのも、これはこれで困ったものだ。
 うーむ…

 まぁそんなわけで。
 考えてみたら、まだそんなにお腹もすいてなかったし。弟の話も途中だし。何より、怪談とカレーって合わなそうだしで、とりあえず 弟の話を聞くことにした。
 そう。カレーだけっていうのも何だから、話を聞きながらサラダでも作るか…
 うーん…


 大阪までは長い道中だし、嘘をついてまでタクシーで大阪に行く理由を聞き出してやろうと思っていた。
 しかし、その若い男ときたら…。
 それは、高速にのっかってすぐ。話しかける間もなかった。
「すみません。いろいろ考え事をしたいんです。話しかけないでもらえませんか。」 
 その強い口調。取り付く島もないとは、まさにこのこと。
 こりゃ長い旅になるぞーと、少々うんざり。でも、捨てる神あれば拾う神ありだ。その日の高速は意外にすいていた。
 それは、東名に入ってからも同じ。気がつけば、浜名湖SAの案内標識が見えてきた。
 浜名湖ねぇ…
 そんなことを考えていた時だった。
 ふいに、後部差席から声がした。
「運転手さん。すみません。次のSAで休憩してもらえますか?」
「えっ!あ、はい。
 あ、もしかしてトイレですかぁ?大丈夫ですか?」
「いえ。トイレも行きたいのは行きたいんですけど、
 でも、まだ全然大丈夫です。
 それより、ずっと座っていたせいか腰が痛くなってきました。」
「あぁーずっと同じ姿勢ですもんねー。
 SA着いたら、体伸ばしたほうがいいですよ──。」
 と、そこまで言っていて、なぜか会話に空虚なものを感じた俺はミラーを見た。
 そこにあったのは、頭を窓にもたれている男の顔。
 しかも、かすかに寝息の音まで。
 どう見たって、ずっとぐっすり寝ているとしか……

「えぇっ!?」
 思わず声が出てしまった。
 だって、たった今、会話してたと思ったのに…
 ヤバイ。全然気づいてなかったけど、俺、結構疲れてるのかも
 見れば、左に浜名湖SA入り口の案内標識が。
 とにかく入ろう。入って少し休まないと、これはマズイ

 ところが…。
 それは、SAの駐車場にクルマを停めた途端だった。
「じゃぁ昼食がてら、1時間ってことでどうですか?」
「はっ?」
 またもや、後部座席からいきなりかけられた声。
 後部座席の若い男はぐっすりと寝ているもんだとばっかり思っていた俺の背中は、ついビクンと跳ねてしまった。
「い、1時間!?」
「休憩ですよ、休憩。ほら、私さっき言ったでしょ。」
「えっ、あ…。あれ?お客さん。なんだ、そうか。そうですよねぇ。
 このSAで休憩したいって、さっき言いましたよねー。」
 …!?
「えぇ。言いましたけど…。
 え、なんですか?なんか変ですか?」
 後部座席の男は、そう言って短くクスっと笑っている。
 そのミラーに写る、意外に愛嬌のある笑い顔。
 狐につままれた思いでそれを見ていて、ふと背中に感じた、笑いの中の静かな視線。
「っ…。」
「おや。どうしました?」
「あ、いや。ええ。なんでもないです。」
「じゃぁ、1時間でいいですか?
 運転手さんがお疲れなら、もっと休んでもかまいませんけど。」
「えっ?あぁ、あぁ、はい。1時間で大丈夫です。」
「じゃぁ1時間くらいしたら、このクルマの所にいますから。」
 後部座席の若い男がそう言うなり、聞こえたドアを開ける音。
 と思った時には、バタンとドアの閉まる音がして、空気が密閉された。
 気がつけば、あの若い男の後姿がフロントガラスにごしに見えた。
「……。」
 何なんだろ?この変な感じ…
 いや、まさか、ホントにキツネかタヌキを乗せちまったってことはないよなぁ…


 そうだ。一応、アイツに連絡入れとこ…
 それは、軽く昼食を食べて。自販機で買ったいつもの缶コーヒーを飲みながら煙草を吸っていた時だった。
 一昨年、息子が生まれた妻は、それまで勤めていた会社を辞めて。今は、家で子育てと主婦業に専念していた。

「えぇっ!大阪ぁ?まった、ずいぶんと遠いとこねー。」
 なんとも心細い思いの俺の心持ちとは裏腹に、受話器の向こうから聞こえてきたのはいつも通りの脳天気な声だった。
「あ、でも大坂かー。
 美味しいものいっぱいあるんだよねぇー、大阪って。
 ズルいなー。自分だけ美味しいもん食べてぇー。
 あー、あたしも、何か美味しいもん食べたいなぁー。」
「なに言ってんだ。こっちは仕事だ、仕事っ!」
「あー、そうそう!ねぇ、ういろう買ってきてよ。
 大坂なんて聞いたら、なんだか久しぶりに食べたくなっちゃった。」
「う、ういろぉ!?はぁ?
 なに言ってんだ?ういろうは名古屋だろ。
 はぁー。」
 思わずため息が出た。
「あれー、そうだっけ?なーんだ、つまんない。
 じゃぁ大阪って何あるの?たこ焼き?お好み焼き?
 あー、もぉ全然わかんないや。ハハハ。
 とにかくさ、なんかおいしそうなもん買ってきて。
 楽しみに待ってるからさ。ね?ハハハー。」
「あのな。俺は仕事なんだぞ。」
「はい、はい。じゃぁね。運転気をつけてね。
 あの子が起きちゃうから、もぉ切る。」
 ガチャ。
「えっ?お、おい…。」

 ったく…。
 何なんだよ。なにが、何がウマイもん買ってこいだ。
 あ、でもまてよ。大阪かぁ…
 そうだよなぁ。大阪っていやぁ、食い倒れの街っていうくらいだもんなー
 なんかウマイもん、食って帰るっていうのも悪くないよなー
 あーぁ…
 でも、なんだかほっとした
 なんていうかさ。そう、久しぶりに血の通ってる人間と話した気がしたっていうかさ…
 ほーんと、何だかそんな感じだ。ハハハ…


 結局、お客の若い男は、それからも同じだった。
 話しかけても、「眠いので話しかけないでください」と言って、あとは、すーすー寝ているばかり。
 そのくせ、いきなり「次のPAでトイレに行きたいです」などと言ってくる。
 「わかりました」と。少しは話が出来るかなと、なるべく愛想いい返事でミラーを見ると、たった今、口を開いたのが嘘のように後ろの座席で眠っている。
 それこそ、スースー寝息が聞こえてくる有り様だ。
 それは休憩前と同じ。何だか、このクルマにその若い男以外にお客がもう一人乗っていて。そのもう一人が言ってるようで、何とも薄気味悪い。
 ただ、この長い道中だ。俺もそれに慣れてしまったんだろう。
 この男は、極端に素早く寝入ることが出来るのかもしれないな、などと思うようになっていた。

 クルマが大阪市役所がある中之島の手前まで来たのは、日は落ちたもののまだ明るさが残るそんな時間だった。
 空気の色がだんだん濃くなってきて、通りや建物の灯りが目立つようになってきたそんな春の黄昏時。
 通りは買い物帰りなのだろうか、辺りは週末らしく家族連れやカップルが大勢歩いている。
 あぁーあ。やっと着いたぁー
 しっかし、後ろのお客ときたら…
 結局、休憩だの、トイレだのと言う以外は、この長い道中、ホントに何ひとつ話ししなかったなー
 そういう客なんだって割り切っちゃえば、別にどうってことないはずなんだけどなぁ…
 いったい何なんなんだろう?
 何かにのしかかられているような、そんな重い疲れが体全体にあった。

 交差点の信号は、なかなか変わらない。
 ちょっとイライラしながら、大きく息を吐いていると。
「あ、もぉここで降ろしてください。」
「え?市役所、まだですけど…。」
「いや、市役所って言ったのは目印に言っただけで。
 別に、市役所に用があるわけじゃないんです。」
「あ…。なるほど。
 そ、そりゃそうですよねー。言われてみりゃ、そうか…。」
 なんだか、最後の最後まで狐につままれたような、なんかそんな感じ。
 やけに丁寧な「運転手さん、本当にありがとうございました」という声を最後に聞いて、ドアを閉めた。
 見れば、フロントガラスの向こう、ゆっくりした歩調で橋を歩いていく、つい今まで後ろに座っていたあの若い男。
 俺はハンドルにもたれながら、その後姿をなんだか見るともなしにぼーっと見ていた。
 そうかー。ここって、あの有名な御堂筋なんだよなぁー
 まだ明るさの残るその空には、浮かんでいる青黒い雲の下が金色に染まっている。
 そんな、いかにも春って感じの穏やかな夕暮れ。
 でも、外は少し風があるのか。あの若い男が右手に持つ赤い風船は、しきりと左右に揺れていて……
 …!?
 ふ、風船!?
「えっ?あの男…。
 えぇぇー、あんなもん持ってたかぁ?」
 それは、自分ながら、なんとも素っ頓狂な声だった。

 しかし、橋を歩いていくあの若い男のすぐ上でふわふわ揺れているのは、どう見たって赤い色の風船だ。
 その糸こそ見えないが、赤い風船の真下にはその男の肘から先を上に向けた右腕があって。その手はしっかり握られているから、宙に浮かぶその赤い風船の糸を持って歩いているように見える。
 しかも、心なしか、男の頭はそれを見上げているようにも…。
「えぇーっ!?」
 慌てて辺りを見回した。ても、そんな風船なんて配っている人なんて見あたらない。
 じゃぁ、あの赤い風船っていったい…!?

 まったく…
 最後の最後どころか、その最後のさらに後まで、全てが狐につままれているようだった。


「でさ。I島が乗せた、その若い男。
 なんと、そのまま失踪しちゃったんだって。」
「えっ、失踪ぉ!?ホントに?」
「それ以来、行方不明らしいんだよ、その男。
 つまり、失踪しちゃったってことなんだろ。」
「えっ、でも…。」
 そう。なんか変だなーと思ったのだ。だって、なんで失踪したってわかるんだろう。
「あ、だから。
 ほら、I島がその男を乗せた時、一緒にいた女の人がいたじゃん。
 その女の人って、その男の彼女でさ。I島のクルマのナンバー、憶えてたらしいんだよ。
 その彼女が、警察に失踪届けを出した時にそのこと言ってさ。
 それでI島、いろいろ聞かれたんだって。」
「あっ、そういうこと。ふーん。
 でも、なんだろ?なんだか都市伝説みたいな話ねー。」
「あ、そうそう。I島が言うには、
 他の運転手に聞いたら、他にもそんな話があったんだって。
 やっぱり、長距離の客を乗せたら、そのまま失踪しちゃったとかなんとか…。」
「ふーん。まさに、タクシー怪談、かー。
 あ、そういえば、わたし、その逆は聞いたことある!
 長年、失踪してた人が、タクシーに乗って帰ってくるって…。」
「えー、何それ?どういうことだよ?」
「うん。あー、でもさ。そぉっ!風船よ。
 風船っていうのは何なのよ。」
「うん。それがわかんないんだよね。
 I島が言うには、その客って、何も持ってなかったらしいんだ。
 まーさ。大阪まで行くのに手ぶらっていうのも変なんだけどさ。
 ただ、風船なんて持ってなかったのは確かだって言うんだよ。
 だって、赤い風船なんだもん。
 車内にそんな派手な色の物があったら、絶対気づくはずだって。
 それにさ。I島が言うには、その客、歩きながら風船を見上げててさ。
 なんだか、風船と会話してるように見えたって言うんだよ。」
「は、はぁ?風船と会話ぁ!?
 えー、つまり、ヤバイ人だったってこと?
 ほら、最近は結構いるらしいじゃない。物と話が出来ちゃうヒト。
 やーねー、変なヒト…。」
「だからっ!今って、そういう話をしてるんじゃないだろ!
 ねーちゃんの情緒欠損症!」

 いやはや。弟にからかわれてわたしが怒りだすというのがいつものパターンなのだが、その時は珍しく弟が臍を曲げてしまった。
 とはいえ、そこは姉弟。しかも、わたしは姉なわけで。こういう時の弟のあやし方は、子供の頃からすでに完全にマスターしてるわけだ。
 つまり…

「あー、だからさ。今、アンタが言ってた、
 タクシーの長距離の客がそのまま失踪しちゃったっていうのの逆の話。 
 つまり、失踪してた人がタクシーに乗って帰ってくる話だけどさ…。」
「……。」
 弟の顔は、やっぱりぶすっとむくれてた。でも、その目は確実に話に食いついていた。

「あっ…。
 でも、その話は後。一つ、話、思い出しちゃったからそっちを話す。」
 ううん。別に意地悪したわけじゃない。たんに流れだ。
「えー、何だよぉもぉっ!」
「いいじゃない。話したいんだもん。
 あっ!ていうか、夕飯は?さすがにお腹空いたよねー。
 せっかくサラダも作ったんだしー。」 
 気づけば、カレーが出来て、かれこれ小一時間経っていた。
 ま、結局怪談と夕食が一緒になってしまうが――しかも、わたしが話し手――まぁ。毒食らわば皿までというか、夕食を食べるなら怪談まで…、だ。


「職場にね、Nさんっていう人がいるんだけどさ。
 あ、男の人ね。」
「おっ、もしかして?」
「なによ?」
「ヘヘヘー。ねーちゃんの彼氏、とか?」
「ば~か。結婚してる人っ!
 ったく、アンタって、最近は口を開くとそっちね。
 35回くらい死んだらいいんだわ!」
「さ、35回って…。」
「フフッ。でね。そのNさんが大学3年の冬。
 ほら、男の子って。友だちと夜中にふらふらクルマで走ってるの、好きじゃない。
 Nさんも御多分に漏れずでさ。
 免許を取って以来、夜中に友だちとクルマを走らせてたらしいのよ…。」


 その夜は、中学校からの親友のO野と2人、いつも通りR山のクネクネした山道を走っての帰り道だった。
 そこは、2、300mも走ったところにある交差点を左に曲がれば自宅のある住宅街ってあたり。クルマは、その交差点の1つ手前の信号にひっかかっていた。
 その夜は、国道を走るクルマが少なくて。その信号でも、停まっていたのはオレたちの乗るクルマだけだった。

 真冬の4時くらいの時間だ。
 一日で一番寒い時間のはずで、動くものなんて信号の明滅くらいだった。
 助手席の窓の向こうこそ住宅街の明かりが点々と連なっているが、対向車線の向こう側は田んぼが広がるばかりのそんな場所。
 はるか彼方にポツンポツンと光がみえる以外は黒く深く沈んでいる。
 そんな、寒さでキーンと静まり返った深夜の国道。

「なんだ、アイツ…。」
 助手席のO野が、ぼそっとつぶやいた声に、オレはそっちに目をやった。
 見れば、横断歩道を歩いているヤツが1人。
 よたよた…、フラフラ…。
 上下4車線分ある広い横断歩道を、ソイツは対向車線の方からのったらのったらと歩いてきた。
「アイツ、寒くねーのかな?」
 暗くてよくわからないが、上着を着てないように見えた。
 その変なヤツは、対向車線の真ん中くらいまではよたよたフラフラ歩いてたのに。なぜか、ふいにペタペタって感じの歩き方になった。
「なんだよ、アイツ。こっち来るぜ。」
 その変なヤツ、横断歩道を真っ直ぐ渡るというには進む方向がやけに斜め。なんだか、このクルマに近寄って来るみたいだった。

 ソイツはオレたちの乗るクルマの右側1メートルくらいまで来たと思ったら、今度は体を屈ませて。このクルマを覗き込むように何か言っている。
 何かあったのか?と、オレは慌ててウィンドウを降ろした。
「どうしたんです?」
 見れば、よくいる感じな20代前半の男。
 流行っぽい髪型に、これまた流行っぽい感じのセーター。
 この寒いのに、やっぱり上着は着てなかった。
 ソイツはさらに近づいてきて、苦笑いしながらこう言った。
「すみません。S駅まで乗せてってもらえませんか?」

 なんだか、絶妙な呼吸みたいなものがあった。
 その場所からS駅までは、クルマなら15分ちょっとくらい。オレたちの住んでいる所はすぐそこだから、明らかに寄り道になる。
 そんな見ず知らずのヤツをS駅まで乗せなきゃならない理由は別にない。でも、なぜか「ま、いいか」と思ってしまったのだ。
 別に親切心がわいたとか、この寒空にと同情したとか、そんなことは全くない。
 その時オレは、ただただ、「ま、いいか」って思ってしまったのだ。

「こっちの後ろは散らかってるからさ。向こうまわってくれる?」
 そう言って、オレはソイツを助手席の後ろに回らせた。
 そう。その時に乗っていたクルマが、親父の4ドアセダンだったというのもあったのだろう。
「S駅の北口んとこでいいよね。」
 走り出してすぐ、オレはやや強い口調でそう言った。
 というのも南口だと、今走っている国道からぐるっと回り込まなければならないからだ。さすがにそれは面倒だと思ったから、そう念を押した。
「はい。それで…。」
 どこかポカーンとしたような声が、後ろから聞こえた。

 走りながらミラーを見ると、ソイツは後ろの席でなんだかそっくり返るような姿勢で座っていた。
 両手をシートにつけるように座っているのか、両側に広げるような感じで。顔は前を見てるのか?天井を見てるのか?
 オレは、帰る手段が見つかってホッとしたんだろうなと思った。

 S駅までの間、クルマの中は誰もしゃべらなかった。
 話題をみつけるのも面倒くさい気がして。
 といって、隣に座ってるO野とだけ話すというのも気が引けた。
 もっとも、それはO野も同じだったのか、顔を窓の外に向けたままずっと黙っていた。
 そんなことを思っていたのもつかの間、クルマはもうS駅への入り口。
 国道を左折して100メートルほども走れば、そこがS駅北口のロータリーだった。
「ほい。着いたぜ。」
 クルマを停めて、そう言うと。
 後ろのソイツは、ちょっとウトウトしてたのか?
 わずかな間があって、またあのポカーンとしたような声が聞こえた。
「どうもありがとうございました。」
 ソイツは、それだけ言うとドアを開け外に出ていった。
 その途端、ドアの閉まるバタンっていう音がして。
 なんだかやけにあっさりだなーって。ちらりと振り返った後ろの窓から、ソイツの腰とその上辺りが見えた。

 それは、クルマを出してすぐだった。
 O野が、溜っていたものを一気に吐き出すようにまくしたててきたのだ。
「オっマエ、よくあんなの乗せたなぁー。勘弁しろよ、まったく。
 いやさ、アイツ。すっげー、酒臭ぇーの!参ったよ、もぉー。
 おまけに靴、片っぽ履いてねーし。ズボンも破けてるし。
 いったい何なんだ、アイツ?」
「うっそ、マジ?えー、全然わかんなかった。」
「オマエさ、あんなの乗っけてさ。
 後ろでゲロ吐かれでもしたら災難なんてもんじゃないぜー。」
「ゲゲっ!それはマジやばい。」
 オレがその時運転していたのは親父のクルマ。そんなことになったら使用禁止にされかない。
 O野の話を聞いて、オレはあの変なヤツを乗せたことをあらためて後悔したのだが、そうは言ってももぉ終わったことだ。
 何ごともなかったことだし、まぁ親切には違いないしって。そんなこと、あっという間に忘れてしまった。

 しかし、そんな出来事を、まさか10年後に思い出すことになるとは……


 
                     ―― 『姉弟掛け合い怪談:その4』〈つづく〉

注!無断転載禁止
  断りなく転載されるのは非常に不愉快です。やめてください
  ブログの記事は全て「著作物」であり、著作権法の対象です
       ↑
   ちょっと剣呑で、ゴメン(^^;)



スポンサーサイト
Comment:1  Trackback:0
2017
02.18

謎の桜本イサム


 この、桜本イサム。
 20代半ばくらいの京本政樹似。
 ただし、メタボ体型。
 フリンジのついたプレスリー風のジャンプスーツ姿で、おもむろに体全体を揺らしながら、「♪す、す、す~だらたった、さ~くらもっといさむ」、「♪す、す、す~だらたった、さ~くらもっといさむ」、「♪す、す、す~だらたった、さ~くらもっといさむ」と3回歌う。

 …という夢を見たわけですが、いやもぉその桜本イサムのインパクトのスゴさといったら!
 おかげで、その前後をサッパリ忘れてしまったってくらいの強烈さでした(笑)



 しかし、桜本イサムとははたして何者なんだろうか?
 それは、桜本イサムの歌う歌詞でわかる。

 そう。♪す、す、す~だらたった、さ~くらもっといさむ の「さ~くらもっといさむ」の部分だ。
 「さ~くらもっと」、つまり「桜(を)もっと(植えよ)」と人類に働きかける、新手の桜の精なのだ。

 何よりの証拠に、この夢を見てからというもの、私は何かというと「♪す、す、す~だらたった、さ~くらもっといさむ」とくちずさんでいる有り様だ。
 桜本イサムは人類の夢に現れ、「♪す、す、す~だらたった、さ~くらもっといさむ」と歌うことで、意識にそれを植え付け洗脳し、桜を多量に植えさせようとしているのだ。
 おそらく、あと何ヵ月もしないうちに、日本中の自治体の議会で議員たちが「♪す、す、す~だらたった、さ~くらもっといさむ」口ずさむようになるだろう。
 そして、日本中に桜が溢れるようになっていくのだ。

 いや。もしかしたら、あなたは桜が増えるならいいじゃないなんて思っているかもしれない。
 はたしてそうだろうか?
 確かにニッポン人は桜オタクだから、桜が増える分には全然OKと思う人が大半かもしれない。
 でも、桜がこれ以上増えると、自治体による桜の害虫駆除が追い付かなくなる可能性があるのだ。

 つまり、桜本イサムが「桜の精」というのは、あくまで表向きで。
 本当は桜の木につく毛虫、アメリカシロヒトリの化身なのだ!
 そう考えると、桜本イサムのあの衣装に納得がいく。
 あの衣装はどこかアメリカシロヒトリ(成虫)を思わせるし、フリンジは幼虫である毛虫の毛を表しているだ。
 そう。桜本イサムこと、アメリカシロヒトリの化身による陰謀は着々と進んでいるのだ。

 恐るべし、桜本イサム。
 恐怖の大王、桜本イサム。
 ♪す、す、す~だらたった、さ~くらもっといさむ
 


 桜本イサムなんて知らない!と、あなたは言うかもしれない。
 そう言えるあなたは幸せだ。
 なぜなら、桜本イサムは、数日中にあなたの夢に現れるはずだから……







Comment:1  Trackback:0
2017
02.12

野良白鳥


 実は、ウチの近所には、野良白鳥がいるんです。

野良白鳥IMG_3231

 あ、いえいえ。
 普段は、水の中にいるんですけどね。
 でも、寒い日に限って、なぜか陸に上がって、ムシャムシャと草を食ってるんです。

 今日は2羽だったんですけど、いつだったかは5、6羽、あのデッカイ図体でウロチョロしながら、ムシャムシャを草を食ってるもんだからビックリしましたねー(笑)
 なんだか、一種異様な光景だなーって。



 
 そうそう。
 デカくてビックリといえば、トンプラさんのフロリダの別荘。
 126室って、なんじゃそりゃぁ!
 
 トンプラさん、なんでも、年内に日本に来るそうですけど、変な話、ひと目見てみたい!って思っちゃいました(爆)




 で、まぁそんなトンプラさんはともかく、今週火曜日はチョコレートの日ですね(笑)
 そんなわけで、最近お気に入りのチョコレート、Best3!

 第一位!
 クランキーIMG_3213

 クランキーのビター、コレ、すっごくお気に入りなんですけど、最近どこにも売ってないんだよなー(泣) 

 第二位!
 チョコっと効果IMG_3216

 チョコレート効果の素焼きクラッシュアーモンド
 これは、ホンっトウマイです。高級っぽい味がします(笑)
 ただし、高い!量が少ない!(泣)
 普通のチョコレート効果みたいにやたら苦くないから、高くて量が少ないのに、つい2枚食べちゃうのもマイナスポイント(笑)

 第三位!

 ガーミルガーブラIMG_3238

 チョコレートといえばコレ!
 基本的にガーブラ派なんですけどね。
 でも、久しぶりにガーミルを食べたら、あ、これはこれでねっとりとウマイなーって。
 バレタデー前で84円で売ってるもんだから、ガーミル、ガーブラともに買い溜めしちゃいました(笑)

 いやもぉバレンタインデー万歳!ですね(爆)

 そんなわけで、めでたし、めでたし。





Comment:3  Trackback:0
2017
02.12

怪談:17.2.12『姉弟掛け合い怪談-その4』


「ふふっ…。」
「な、なによ。その鼻で笑う感じはー。」
「ねーちゃんってさー。
 いや、意外と小者なんだなーと思って。ハハハっ。」
「アンタねっ!」
「だってさ。100万円ってなんだよ?
 その、びっみょーな金額…。
 ぶぶっ!ハハハ!」
「うる、うるっさい!」
 いや、わたしだって、100万円って言っちゃった直後、しまった!って思ったのだ。
 とはいえ、そういうのって、子供の頃にさんざん言ってた金額がつい口に出ちゃうものなのだ。
 
「ていうかさー。
 向こうの、そのサークルの部長って、ちょっと変だよね。」
「へ、変?な、なんでよ?」
「だってさ。なんでまた、ねーちゃんのこと、好きになっちゃったわけ?」
「どーいう意味よ?」
「ほら。ねーちゃんのサークルの人たち、
 一回、ウチに遊びに来たことあったじゃん。」
「あった…、けど?」
「あん時、オレ、結構びっくりしたんだけどさ。
 すっげーキレイな人ばっかなんだよな。」
「あー、そぉ?あー、まぁそうかなー。」
「ならさ。キレイな方、選べばいいじゃん。
 よりによって、なんでねーちゃんなんだよ。
 オレ、そこはスッゴク納得いかない。はっはっは!」
「ア、ア、ア、ア、アンタ、アンタねーっ!」
「はっはっは!」
「そ、そ、そもそも。
 わたしは、アンタが頼むから話してあげたんでしょぉ。
 それを――。」
 ブォォォーン!
 ふいに鳴動したテーブルの上のケータイ電話。
 振動がテーブルに共鳴する大きな音に、思わず言葉を止めてしまったわたし。
「あれ?ウチのかーちゃんだ。え、なんだろ?」
 わたしの顔をちらっと見て、話し出した弟。
 しっかし、さっきのB美さんからのは着メロだったのに。
 母親からだとバイブレーションになのは、はたしてそういう設定なのか?それとも、わたしがさっき冷やかしたもんだから、慌ててマナーモードにしたのか?
 ま、いずれにしても、男のくせに細かいヤツだ。
 ふふっ…。
 なによ。どっちが小者よ。
「えっ!なに?」
 見れば、とっくに電話を終えて、わたしに何か叫んでいる弟。
「だから、何度言わせるんだよ。
 ウチのおふくろさん、今日、親父と向こう、泊まるってっ!」
「あ、またH叔父さんにお酒、勧められちゃったんだぁ。」
 両親は、朝からクルマで隣町のH叔父さんの家に出かけていた。
 ところがそのH叔父さんという人物、なんとも勧め上手で。
 というか、ウチの父がお酒に目がないというのもある。

「うん。そうみたい。
 でさ。夕飯は適当に食ってくれってことなんだけどさ。
 どーする?」
「どうするって、雨ぇ、結構降ってるしねー。
 食べに行くのは、ちょっとイヤかなぁ…。」
「じゃぁなんか頼むぅ?」
「ピザはイヤよ、ピザは。2人じゃ、飽きるから。高いし…。」
「じゃぁ、どーする?」
「冷蔵庫にあるもので、何か作っちゃうんでいいんじゃない?」
「オレはいいけど…。」
「うん。じゃぁ何があるか、ちょっと台所見てくる。」

 料理は得意…、ていうか、食事を適当に作るのはわたし、得意だった。
 つまり、おいしいとか、栄養バランスとかは全然知らないけど。でもまぁとりあえずお腹は満足できるくらいのご飯をパッパッパと作るのは得意って意味。
 そんなわけで冷蔵庫や台所を見ると、ウチの母はいわゆる昔ながらの専業主婦なわけで3、4日はゆうに違うメニューを作れそうなくらい食材があった。
 これだけ食材があると、逆に何を作ろうか迷うわけで、さぁどうしよう?と考えていた時だった。
「ねーちゃん。オレ、カレー食いたい。」
「えー?」
 そう言いながら台所に入ってきた弟は、椅子にどっかと座った。
「カレーかー。
 うん。じゃぁアンタも手伝いなさいよ。」
「うん。」
 
 弟はちょっとだけ、そう、確か半年くらいだったか、一人暮らしをしたことがあった。
 大学を卒業して、会社勤めを始めて。しばらくしてから、わたしを真似てアパートを借りたのだ。
 ところが…
 バカな話だけれど、オバケを見ちゃったとかで。
 いや、見たのはアパートではなく会社帰りだったらしいのだが、その夜一人でアパートで過ごすのがどうしても嫌だったらしくて。
 実家に戻って、結局そのままズルズル今に至ってるわけだが、まぁそれはそれ。
 1人暮らしをしたということは、絶対カレーぐらいは作ったことがあるはずで、なにを思ったかその時は姉弟仲良く台所で夕飯を作ることになった。
 変なの。

 トントントン
 見れば、ニンジンを切る弟は意外に手慣れている感じ。
 ふーん。これなら、結婚したらB美さん、結構楽できそうね、なんて思っていた時だった。
「そういえばさ。
 I島っているだろ?高校ん時の友だちの…。」
「I島ぁ?えー、知らない。
 ていうか、知るわけないでしょ。アンタの高校の友だちなんかー。」
 いや。カレーを作るってことにしたものの。でも、カレールーってどこにあるんだろ?って、ちょっと慌てて探していた時だった。
 幸い、それはすぐに見つかった。だから、話にのってやった。
「そのI島って、男?女?」
「うん。男だけどー。
 あれ?ねーちゃん、ホント憶えてない?
 ほら、ウチに遊びに来た時、I島のバカ、ねーちゃんに一目ぼれしちゃってさ。
 紹介してくれ、紹介してくれって、もぉうるさくって。
 オレ、いろいろ大変だったんだけどー。」
「あのね。それはアンタとそのI島クンとの話でしょ。
 わたしが知ってるわけないでしょ。」
「でもさ。恋とかって、好きだと思うと、相手もなんとなくそれに気づくもんじゃん。
 だから、あん時、ねーちゃんも――。」
「は、はぁ?
 な、なに言ってんの、アンタ。
 ていうか、早くニンジン切っちゃいなさいよね。バカっ!」
「なんだよ、バカってー。
 ねーちゃんってさ。その手の話するとすぐ怒るんだよなー。」
「うるっさい!」
 弟があまりにバカなので、わたし、普段はそんなこと絶対しないんだけど、薄切りした玉ネギを炒めることにした。
 料理のいいところは、それに集中できることだ。そう、余計なことを考えずにすむのだ。


「で、そのI島クンがどうしたの?
 また、オバケでも見たって話し?」
 ニンジンを切った後、何をすればいい?と聞いた弟を無視して、わたしはひたすら玉ねぎを炒めていたのだが、さすがにちょっと反省。
 椅子でボーっとしてた弟に話を向けると、案の定、犬がシッポでもふるように喜んで話し出した。
 うーむ。しっかしB美さん。この男の操縦は、ホント楽だぞ…

「I島ってさ、今、タクシーの運転手やってるんだよ。」
「ふーん。」
「でさ。何年前って言ってたかな?
 春のことだったらしいんだけどさ。J百貨店の近くで客をひろったらしいんだ。」
「J百貨店って、えー、駅のそばの?」
「うん。」


 それは、木々の緑が日増しに濃くなって、なんだか陽気もポッカポカ。
 そんなよく晴れた土曜の午前中。
 俺は、いつものように市内を流していた。
 それは、J百貨店をちょっとすぎた所。手を上げた若い男に気がついて俺はクルマを寄せた。
 ドアを開けるなり、身体を車内に押し込んできた若い男。
 俺に行き先を言うように口を開いたのだが、でも、すぐに上半身を外に出して何か言っている。
 外からは、若い女性の声がした。
「ねぇ、Kちゃん、おかあさんなんでしょ?
 やっぱり、わたしも行った方がいいんじゃない?」

 うん?連れがいるのか…
 ミラーを見れば、やっぱり若い女性が歩道に立っていて、後部座席の若い男と話している様子。
「まだよくわかんないんだ。
 病院についたら、M子に電話するから──。」
 と、そこまで外の女性に言っていた若い男だったが、ふいにオレの方に向いて話しだした。
「すみません。出してください。」
「えっ?でも、お連れさんは?」
「いや、僕だけです。乗るのは。」
 そのくせ、外の女性は後部座席の若い男に向かって、まだ何か言っている。
「Kちゃん、それじゃ何が何だかわかんないじゃないの。
 いきなりで――。」
 俺は、外の女性の言葉を聞いていたのだが、しかし、後部座席の若い男は「さ、行ってください。早く!」と、そんな俺を急かすように自分でドアを閉めてしまった。
「ねぇKちゃん。ねぇったら――。」
 ほんのわずか、俺はクルマを出すのをためらっていた。
 でも、体が自動的にクルマを発車させてしまったようで、気づけば車内は外界の音から遮断されていた。

「どちらまで?」
「あー、遠くて申し訳ないんですけどー。
 そのー、お、大阪っ!大阪まで行ってもらえませんか?」
「は、はい!?お、おおさか?
 おおさかって、大阪の大阪ですか?」

 いや。バブルの頃は時々あったとは聞いていたけど…。
 昨今のシケたご時勢からすれば、そんな話は伝説にすぎないと思っていた。
 そんなことが脳裏に浮かんだわずかな沈黙の時間。
 俺は、無意識にアクセルを少し戻していた。
 タクシーでここから大阪なんて、とんでもないことを言い出した後部座席の若い男。
 見れば、若いといっても俺よりは年上そう。そう、30代前半というところか?
 痩せ型で、フレームのない眼鏡がちょっと神経質そうな雰囲気を醸しだしている。髪は長くもなく短くもなく、ブランド物っぽい春物のジャケットを着ている。
 どう見たって、普通の会社勤めしてる、普通の若い男って感じだ。
 ただ、ミラーで見るその表情は、そのくらいの世代の男にしては、変に落ち着き払い過ぎているような感じも受けた。

 クルマの速度が落ちたのに気がついたのか。
 後部座席の若い男は、運転席の方に身を乗り出してきてかと思うと、いきなり俺の耳元で財布から何枚もの一万円札を出して見せた。
「っ!」
「お、お金なら心配いりませんから。
 お、大阪まで、ぜ、ぜひお願います。」
 その慌てた口調は、さっきの落ちつき払った態度が嘘のよう。まるで、人が違っちゃったみたいで。
 でも、それよりなにより、視界の端に一瞬見えた、その一万円札の数に俺はたまげてしまった。その数、たぶん、30枚や40枚どころじゃない。
 その生々しさに、思いあたったのは…
 えっ、この男って、もしかしてヤバいヤツってこと?
 見れば、今ちょっと興奮しているようにも見えた。
 そう。こういうヤツはこういう時、落ち着かせないとマズイんだよ…
「は、はい。わかりました。
 でも、大坂って…。
 そりゃ、私も商売ですからお客さんから言われりゃ、どこへでも行きますけどね。
 でも、大阪なら、東京に出て新幹線で行った方がいいんじゃないですか?
 早いし、なにより安いでしょう。」

 そう。そういえば、この若い男が乗ってきた時、外の女性が、お母さんとか、病院とか言ってたっけ。
 そうか。てことは、ヤバイヤツじゃないってこと?うん!?
「いえ。僕は絶対行くんです!
 あ、いや、行かなきゃならないんです。
 だ、だから、このままお願いしたいんですよ。」
 その口調の何とも言えない違和感…
 いや、最後は普通の口調だったのだが、でも話しだしの口調は、俺に話しているというより、まるで誰かにそう宣言でもしているように、なんかやけにキッパリした感じがあった。
 でも、その誰かって…
 俺は、なにやら胸騒ぎにも似た違和感を覚えていた。
 その途端、体が反応するように、ミラーの中の男を見た俺。
 でも、その若い男の顔は、たった今、そんな熱っぽい口調で話していたのが嘘みたいに、ぼーっとした顔つきで窓の外を見ているだけだった。

「…!?」
 俺は、思わず、じろーりと。その若い男はもちろんのこと、ミラーのの端から端まで舐めるように見回していた。
 なんか、変な感じがして堪らない。
 なんというか、こう…、何かが違ってるような、そんな感覚があった。
 あれ?もしかして、女性の方も乗ったんだっけ!?
 そう。今、俺はこの男ではなく、別の人と話していたようなそんな感じを覚えたのだ。
 でも、そんなわけはなかった。
 動き出したクルマに呆気にとられたようにこのクルマを見ていた女性のミラー越しの面影の記憶が今でも残っていた。
 でも、なら…
 不安に駆られてミラーを見ると、そこにあった男の目。
「……。」
「大丈夫ですよね。行ってくれますよね。
 お願いします。僕を大阪に連れっててください。」
 まだ、何か釈然としないものはあった。でも、男の口調が落ち着いた風に戻っていたことに俺はホッとしていた。
 また、男の口調に何か切実なものを感じたというのもあったのだろう。
 だから、つい言ってしまったのだ。

「私の帰りの分も貰わなきゃならないですから、
 たぶん、20万や30万じゃすまないと思いますよ。
 本当にいいんですか?」
「はい。大丈夫です。なんなら先に払いましょうか?」
 ミラーに映っている顔はあいかわらず。
 何かを思っているようなぼーっとした表情で、見るともなく外の景色を見ているだけ。
 そのくせ、背後から聞こえてくる口調はやたらハッキリしっかりしている。

 いや、正直、気持ち悪かった。
 今すぐにでも男には降りてもらいたいくらい。
 でも…
 これが個人営業する前なら、間違いなく断っているんだろうけど…
 はたして、これって天の恵みってヤツなんだろうか?それとも…
 俺は、そんな風に考えを巡らしていたのだが…。

「わかりました。行きましょう。ところで、大阪のどこまで?」
「大阪市役所に。中之島の。」
「えっ?し、し、市役所ぉ!?
 病院じゃないんで――。あ、いや、市役所ですか?大阪の市役所?」
「あぁ。先程の話、聞こえてたんですね。
 実はあれ、嘘なんです。
 大坂にどうしても行かなきゃならないんで、
 彼女には仕方なく嘘をついたんです。」
「は、はぁ…。」

 そんな嘘をついてまで、わざわざタクシーで大阪に行く用って、いったい…?
 本当はそれを聞きたかったのだが、まさかそれを今聞けるわけにもいかず。
 まぁ大阪までは長い道中になるし、おいおい聞いてみるかな?なんて思いながら、俺はハンドルを高速の入口へ切った。



                     ―― 『姉弟掛け合い怪談:その4』〈つづく〉

注!無断転載禁止
  断りなく転載されるのは非常に不愉快です。やめてください
  ブログの記事は全て「著作物」であり、著作権法の対象です
       ↑
   ちょっと剣呑で、ゴメン(^^;)




Comment:2  Trackback:0
2017
02.12

『Another』、読んじゃいました

Category: R&R

 『Another』(綾辻行人著)、読んじゃいました。
 読もうか、読むまいか、かれこれ何か月も迷ってたんですけどねー。
 結局、読んじゃいましたね(笑)

 another_IMG_3226.jpg


 カンタンに言っちゃうと、面白かったー!です(笑)
 読もうか、読むまいか、さんざん迷ってたのは、表紙のイラストの印象から、ありがちなアキバっぽいお話なんだろうなーというイメージだったんですが、ま、それはあまり感じなかったよーな。

 読むのを迷っていた、もぉ一つの理由、“Another”、“感想”で検索すると上の方に出てくる、あるブログの「キャラクターがもろエヴァンゲリオン」とあったのも、読んでみれば、えー、そぉ!?って感じで。
 いや、ま、確かにそう言われてみると、あー、そういえばあてはまるかも?って気もするわけですけど…。

 でもまぁこの登場人物の配置って、考えてみれば、昔っから漫画やアニメの定番ですよね。
 ていうか、あの手のお話を読みたい人向けの定番のキャラクター配置なのかなーと。
 ま、こう言っちゃうと、ちょっとトゲがあるようですけど、「キャラクターがかぶる」っていうのは、そのブログの方にエヴァンゲリオンの印象が強かったからなんじゃないかなーって気がしました(笑)
 今はアニメがあまりに当たり前すぎるから、それに強く影響されてることに気づかないじゃないのかなぁ…


 お話としては、中学生の主人公がある地方の町に転校してきて。
 ちょこっ、ちょこっと、大したことではないんだけど、でも違和感を覚える出来事が起きていく。
 しかも、クラスメートをはじめ、住んでいる祖母の家(だったか?)の人たちも主人公に何かを隠しているような…。

 そのひとつが、クラスにいる一人の女子生徒。
 体育の授業だというのにフラフラしてたり、しかもクラスメートたちはその女子生徒が見えないかのようにふるまっている。
 でも、主人公の目にはあきらかにその女子生徒は存在する。現に話しかければ、素っ気ないながらも返事をする。
 しかし、クラスメートたちはその女子生徒の存在を無視し、さらにそれと接触しようとする主人公に「近づくな」とまわりくどく警告。

 胸に異物を飲み込んだような日々の中、主人公といないように扱われている女子生徒の前で起こった事故。
 クラスメートの1人が学校で事故死。それは、その中学校の3年3組で時々起るクラスメートの死が連続するソレの始まりを意味した。

 やがて、いないかのように扱われる女子生徒とともに主人公も、クラスメートから存在を無視されるようになる。
 そんな中、主人公は、いないかのように扱われていた女子生徒(だったか?)に、その中学校の3年3組にまつわる秘密を聞く。
 つまり、必ずしも毎年ではないが、3年3組ではクラスメート、およびその家族が不可解な死をとげるということが連続して起こる年があるのだと。
 ソレは3年3組に一人の「死者」が紛れ込むことで起こる。
 でも、クラスの誰も、担任の先生も、その他の先生もその「死者」が誰かということはなぜか気づかない。
 30人(だったか?)のクラスの机がなぜか一つ足りなくなっていて、というか誰も気づかない(気づけない)「一人」が混ざっているがゆえに机が一つ足りなくなるという現象が起こると、クラスでは担任とも相談の上、クラスメートの1人を“クラスには存在しない者”と決めて。
 あくまでクラスは30人という状況をつくる、「おまじない」でしのぐのだと。
 「死者」が“普通の人”として意識を持ってる設定は、ちょっと奥さん作の『屍鬼』っぽいかもwww

 しかし、その年はその後事故死が連続したことで、もはや「おまじない」の意味はなくなった。
 そのことで、主人公といないものとしてあつかわれている女子生徒(以下ヒロイン)は普通にクラスメートして扱われるように。

 その後、ソレによる不審死が途中で止まった年があることがわかる。
 その時は、町にある山の神社にクラスのみんなが詣でたことが判明する。
 さらに、その年の生徒が偶然わかった、ソレによる不審死を止める(ことが出来るかもしれない)方法をも、主人公たちは知ることになる。

 そして、始まった神社に詣でるための、副担任とクラスの有志による合宿。
 はたした、主人公たちはソレを終わらせることが出来るのか?
 そして、クラスに紛れ込んだ「死者」は誰だったのか?
 へっへっへ…


 まー、とにかく、「ソレ」の設定が楽しいんですよね。
 もー、ワクワクしちゃう(笑)
 正直、クラスメートやその家族が死んじゃうシーンは、今時のスプラッターもどきの怖がらせっぽくてシラケちゃうんですけどね(ま、作者はその手が好きなんでしょーねwww)。
 だけど、その設定の面白さとそれが徐々に明かされていくワクワク感で全然許せちゃうみたいなー。

 よくよく考えれば、その設定って、そこが学校であるがゆえに絶対あり得ないんだけど、でも、学校であるからこそ(主人公たちが中学生であるからこそ)その設定が生きるわけで。
 いやもぉ作者のヤツ、これを書く時、心底楽しんで書いたんだろうなーって、なんだかニヤニヤしちゃいました(笑)

 ま、いわゆる、少年少女によるひと夏の冒険譚モノ(春~夏)なわけですが、いやもぉコレ、作者の性格なのかなんなのか、夏の気配、これっぽっちも感じません(爆)
 合宿があるんで、冬だといくらなんでも寒いだろうから、まー、夏なんだろうなーと不承不承思うわけですけど、お話の雰囲気は冬っぽい。


 お話は最後、ヒロインのちょっとした特殊な能力で死者がわかるわけですけど、ま、その超常的な能力やソレが合理的に解明されないっていうところで、拒否をしちゃうミステリー小説ファンは多いんでしょうね。
 その辺りが、否定的な評価をしちゃう人が多い理由なんでしょう。
 あと、作者が綾辻行人であるがゆえに、「館シリーズ」の延長(つまり、普通のミステリー小説として)読んじゃって。
 超常的な設定が、結局、超常で終わっちゃうことに拒否をしちゃう人も多いのかもしれませんね。

 とはいえ、ま、私は怪談好きのおバカなんで(笑)
 超常的なお話だよって納得しちゃって読めば、むしろ大好物なわけで、ていうか、変てこりんな館で連続殺人が起こる方がよっぽど超常現象だろ!って思っちゃう方なんで、これは好きだなぁー(笑)
 とは言うものの、この作者って、読者を怖がらせるのはヘタ、ですかねー(爆)
 うん。まぁその“怖がらせ”の部分は、作者の好みでスプラッター的場面を描くことで「怖いでしょぉ~」としてるのかもしれませんけどねー。
 でも、私の好みで言っちゃうなら、“怖がらせ”は(この作者の)奥さんの方が一枚も二枚も、いや、5枚くらいは上手、かな?(笑)


 ま、そういう意味でも、作者はあくまでミステリー小説の作家なんでしょう。
 ただ、やっぱりこれはあくまで「ホラー小説」だと思うんですよね。
 そういう意味で、「死者」の正体のトリックにシラケちゃうんですよねー。
 だって、そのトリックによって、「死者」の正体は読者は気づかない(気づけない)わけですけど、でも主人公はよく知っている人物なわけです。
 でも、このお話というのは、主人公の一人称語りの文章です。
 お話の語り手が、その人物が「死者」であった証拠を延々語っちゃう(回想しちゃう)って、変じゃん(笑)
 しかも、あんなにやたら切羽詰まった状況だっていうのにさー。

 いや。今思い返すと、それはそれでまぁアリかぁーとも思うんです。
 でも、読んでた時は、そのせいでせっかくのクライマックスが、ミョーに間延びしちゃった気がしたんですよねー。
 あらためて思えば、屁理屈的なトリックを仕込んどいて、「どぉ?スゴイでしょ?」的な。そんな小賢しい(ミステリー小説的)テクニックに、屁理屈こねてイチャモンつけてただけなのかもしれませんね(爆)


 ま、その辺りが、巷でやたら持て囃されてる「新本格」というジャンルの胡散臭くて、インチキ臭いとこだと思うわけですけど、まーそれはともかく(笑)
 でもまぁそんな胡散臭さや、表紙のイラストのウンザリ感はあったものの、これは一か八か読んでホントよかったなーって思いました。
 もちろん、ミステリー小説を読みなれてる人なら、「死者」が誰なのか途中でわかっちゃうでしょうし。
 最後、なんでそんな人が紛れ込んでくるの?的な展開(ある意味ドリフ的な)もなんだかなーっていうのもある。
 でも、ミステリー小説の作家が、超常的なオリジナルの世界観を設定して、その中でミステリー的展開をするお話を書くっていうのは、意外とありそうでなかったんじゃないかって。
 ていうか、ありそうな気がするんだけど思いつかない

 ま、そんな子供の頃、光瀬龍や眉村卓のSFジュブナイルが大好きだった私としては、もぉタマラナイお話だったわけですけどね。
 とはいうものの、あの頃のように主人公たち(の世代)に感情移入できないのは、まぁつまり齢のせいってことか?クソっ!(爆)
 ぶっちゃけ、「死者」の方に感情移入しちゃったい!www

 ま、なんだ。
 読んでみたいんだけど、でも、どうもライトノベルっぽそうで躊躇しちゃうって人には、背中押します(笑)




 『Another』を読むのを迷ったのは、(個人的に)表紙のイラストが幼稚に感じたことで、これはライトノベルなんじゃないかって思ったからなんですけど、いや、この表紙のイラストレーター。実は、今スゴく人気のある人らしいですね。
 正直、見てるとアチコチかゆくなってくる絵だなーとしか思えないわけですけど、まーね。それは、私が今の感覚についてけないってことなんでしょう。 
 ただまぁ、そんな今の感覚に別についてかなくてもいい齢になっちゃたのは、ホンっト楽チン、楽チン(笑)


Comment:2  Trackback:0
back-to-top